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SLS  特殊海難救助隊  作者: 月城 響
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第5部 火災 【2】

 幸い船の中に取り残されている人間は居なかったので、彼等は水中から救助した人々を乗せて戻ることにした。入れ違いにSLSの消防艇がやって来て放水を始めると、一般の訓練生達は「あれに乗っていたら日頃の訓練の成果を見せられたのに」と悔しがった。





 エバが救護室から戻ってきたので、マックスの様子を尋ねてみたが「一人にしてくれって布団に潜っちゃったわ」との事だった。エバなら彼から何か聞き出してくれるかもしれないと思ったが、やはり今は無理のようだ。


 Aチームの船が着岸する少し前にBチームとCチームの船も戻ってきていて、ぞろぞろと訓練生達が船から降りて来る姿が見えた。


 Bチームの訓練生が「凄い火災だったなぁ」「俺、船舶火災って初めて見たよ」等と言っているので、Aチームは皆目を細めた。同じように戻って来たCチームもそれを聞いて唖然としている。


― まさか・・・・ ―

 

 3人の教官と言えばニヤニヤしながら「うまくいったかい?」「ああ、なかなかのものだった」「私の所はまだまだ問題ありそうだわ」と話し合っている。


― まさか・・・・ ―


 助け上げた船の乗組員(らしき人々)はそれぞれのライフシップから平然と降りてきて、潜水士候補生達に「なかなか見事な救助だったぜ」「これからも頑張れよ」と声をかけると、何処かに姿を消してしまった。


― まさか・・・! ―


 A、B、Cチーム全員の頭の中に“やられた!”という言葉が浮かんだ。つまりは何か?何処からか人まで借り出して漁船3隻を燃やし、又俺達をはめたのか?もしかしてリーダーを決める試験だったのか?


「あんまりです!教官!」

「又僕達を騙したんですね!」


 生徒達に詰め寄られると、ロビーは慌てて謝った。


「いや、すまん。俺は反対したんだけどな、こいつらが・・・」


「あら、人のせいにする気?あなただって、面白そうだからやろうやろうって言ったじゃない」


 Cチームのメンバーに睨まれて、ロビーは困ったようにぼさぼさの頭を掻いた。


「まあ、いいじゃないか。みんな結構楽しめただろ?やっぱり遠足はこうでなくっちゃな」


 きっとクリスはいつもこんな調子でBチームを黙らせているのだろう。彼等は“全くしょうがないなぁ”と言う顔で苦笑いをしている。


「でも、みんな素晴らしかったわ!潜水も一般も機動も一丸となって船舶火災に立ち向かったの!これこそがチームのあるべき姿よ。もうみんな立派なSLSのライフセーバーね!」


“全然そんな事、思ってないくせに・・・・” と頭の中で考えながらも、シェランにそんな風に褒められると、少しは認めてもらっているようで嬉しいAチームであった。




 ひとまず解散という事になったが、ジュードはマックスがまだ降りてきていない事に気が付いた。シェランが去り際に「後で教官室に来るようにマックスに伝えて」と言っていたが、自分は余りマックスに好かれていないだろうと悟っていたジュードは、キャシーと帰ろうとしていたエバを呼び止めた。


「何で私があいつにそんな事を言いに行かなきゃならないのよ」


 ふくれっ面でエバは反論した。


「だってこういう時は女の子に居てもらった方が絶対いいんだよな。男同士だと妙に見栄を張っちゃうし。それに前にマックスが、エバはその辺の男よりずっとしっかりしている。時間にも正確だし、操船課の授業もきっちり受けてる。あいつが船長になったら安心だなぁ・・って」




 もちろんこれはジュードの作り話である。だがジュード自身が日ごろ思っていることなので口にしたのだ。


 エバは「ふーん?」と疑るような目つきでジュードを見上げた。


「分かったわ。行ってきてあげる。ついでにどうしてあんな風になったのか聞き出して欲しい・・・でしょ?」


 さすがはエバ・クライストン。やっぱりその辺の男よりずっとしっかりしている。


 にこっと微笑んだジュードに顔を近付けると、エバもニヤッと笑った。


「で?何を奢ってくれるの?」

「え・・・・」


 さすがはエバ・クライストン。その辺の処もしっかりしている。


「オレ・・・金無いから・・・談話室の自販機のジュースとかじゃ駄目かな?駄目・・・だよな・・・」


 オロオロしているジュードを見て、キャシーは思わず横を向いてくすっと笑った。


 エバは目を細めてジュードを見た後、腰に手を当てて胸をそらした。


「いいわよ。但し、ジュードも一緒に飲んでね。一人で飲むなんて嫌だもの」

「え?2人で?」

「そうよ。ショーンもジェイミーも連れてきちゃ駄目。2人っきりよ」




 2人っきりという言葉に少し戸惑ったが、別に談話室でジュースを飲むぐらいいいだろう。個室でなければ女の子と2人で居ても問題にはなるまい。


 入学してすぐ乱闘事件に巻き込まれ、シェランやチームメイトに多大な迷惑をかけてしまったジュードは、自分の行動には慎重になっていた。






 仲間達の声が聞こえなくなった頃、マックスはベッドからやっと出てきた。今、チームの仲間と顔を合わせるのはとても恥ずかしかったのだ。彼は辺りに誰も居ない事を確認すると、船から降りてきた。


「みんなもう帰っちゃったわよ」


 船の上から響いてきた声にドキッとして振り返ると、エバがにっこり笑って彼の後ろから降りてきた。


「どうしたの?らしくないよ、マックス」


 エバが側に来ても、彼は彼女の顔を見る事が出来ずに、ずっと横を向いて立っていた。普段の彼なら「うるさい」とでも言って帰ってしまうのだろうが、それも出来なかった。


 マックスはずっと自分の中で抱え込んでいた過去を、誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。だが最初の一言をどう切り出していいのか分からなかったのだ。


「そうだ。いい所を知ってるんだ、あたし・・・」


 エバは急にマックスの手を掴むと、びっくりしている彼を引っ張って走り出した。沢山の船やボートが並んでいる港の中を抜けると、時々釣り人達が糸を垂れている埠頭がある。エバはその先端まで彼を引っ張って来ると、背中を押して一番前に立たせた。


「ほら、ここだったら誰も居ないし、聞いているのは海だけだよ。あたしはね、時々ムカつくことがあったらここに来て叫ぶんだ。そしたらスッキリするの。マックスもやってみない?」


 マックスは力が抜けたように微笑むと、目の前に広がる海を見つめた。確かにここにはあんなにも恐れていた炎は無い。大嫌いなランディもライバル視しているジュードも居ない。


 背中に触れているエバの手が、何故かとても暖かく感じられて、マックスはゆっくりと彼の歩んできた道のりを語り始めた。

 





 20歳でファイヤー・ファイターになって3年間、とても充実していた事。大嫌いで、それでいて憧れてやまないランディ・マクレーンの事。そして、炎に負けて全てを失った事・・・。


「何度もカウンセラーに通って治療を受けた。どうしても、もう一度ファイヤー・ファイターと呼ばれたかった。・・・・だけど駄目だったんだ。結局・・・俺は自分の心に負けたんだ」



 エバは胸の前でぎゅっと手を握り締めた。こんな時、何をどう言ってあげたら男の人は心を軽くする事が出来るのだろう。女同士なら一緒に泣いて苦しみを分かち合えるのに・・・。エバはただ、自分の心に浮かんだ思いを言葉にするしか出来なかった。


「まだ、負けたわけじゃないわ。やり直すためにライフセーバーになりに来たんでしょ?だったら教官に全てを打ち明けて相談しなきゃ。炎が駄目でも、何とかなるかも知れないじゃない」



 本当はそんな願いなど、決して通らない事は分かっていた。ファイヤー・ファイターもライフセーバーも、何か一つでも恐れるものがあれば務まらないのだ。無論、嵐の海も灼熱の炎も恐ろしいものに違いない。だがそれに立ち向かう勇気が無ければ、彼等は人を救う事は出来ないのだ。


 マックスもそれは充分理解していた。だがエバが一生懸命な瞳で自分を見上げているので、頷きながら微笑み返した。


 彼はこの時初めて、リーダーなんかになれなくてもいいから、ライフセーバーになりたいと思った。彼等と同じチームで居たいと心の底から願った。






 陽が沈みかけた頃、マックスが暗い表情で自分の教官室に入ってくるのをシェランはじっと見つめた。


「遅くなってすみません」


 部屋の中に張り詰める空気に、マックスはもうどんな言い訳も通じないだろうと感じた。


「何故、黙っていたの?海難救助に火災は無いと思った?」

「はい・・・すみません」


 本当にそう思っていたのだ。ライフセービングは海に落ちた人を助けるだけだと思っていた。そうでなければ応募しなかっただろう。


 だがSLSの任務はそれだけでは無かった。船舶火災やアルガロンのような巨大な石油採掘場の火災。山岳レスキューから要請を受ければ、山や河川の事故を手助けに行くこともある。


「知らなかったでは済まないわ」


 シェランは机に手をついて立ち上がると、彼の側にやって来た。


「あなたはこの訓練校だけじゃない。私や、そして仲間を・・・ずっと苦しみを分け合ってきた、そしてこれからも分かち合っていくチームメイトを(たばか)ったのよ」


「そんな・・・そんなつもりありません!」


 マックスは涙のにじんだ両目を手で覆った。


「俺は決して、あいつらのいい仲間じゃなかったかもしれない。でも騙すつもりなんか無かった。本当です!」


 シェランは小さく消えるような声で「信じてください」と呟いたマックスの顔を覆っている彼の手を掴むと、顔から引き離した。


「では、嘘を真にしなさい。これはあなた自身の問題。誰も助ける事は出来ない。あなたが自分で乗り越えていかなければならないのです。もう一度彼等の仲間として、チームに戻りたいのなら・・・!」




 シェランは彼の手を放すと、東向きの海の見える窓辺に立った。もう既に太陽がここからでは見えないビルの谷間に隠れ、オレンジ色の空に広がるグレーの雲が、一日の終わりのコントラストを作り上げている。シェランにとってこの時間帯はとても好きな時間だった。一日の仕事を終えて、ほっとしながら家路に着く時間。


 だがこの次の言葉を言い終えなければ、今日は終わらない。例えどれ程彼を追い詰める事になると分かっていても、それが教官としての勤めなのだ。



「もし、8月中に克服できなかったら・・・・あなたは9月になっても2年に進級は出来ない。これがどういう意味か分かるわね」


 落第・・・・それはつまり退学を意味する。ここは不要なものを必要とはしない。一度落ちたらもう後は無いのだ。






 シェランの教官室を出て、寮の部屋に戻ってきたマックスだったが、実は何処をどう通って戻って来たのかさえ覚えていなかった。気が付くといつもの部屋に居て、向こうの壁際のベッドではショーンがいつものように布団に潜って眠っている。


 マックスは自分のベッドの端に座ると、疲れ果てたように大きな溜息を付いた。あんなに努力しても克服できなかったものが、一ヶ月やそこらでどうにかなるはずが無い。ジュード達が退学になりそうだった時は他人事だったが、まさか自分が1年の中で一番に退学になるとは思ってもみなかった。


― きっと今の俺をランディが見たら、こう言うだろうぜ・・・・ ―


 マックスは顔を上げると、ニヤッと笑って皮肉たっぷりに呟いた。


「お前は本当にどうしようもない奴だ。だから何も掴む事は出来ないのさ・・・・」







 マックスがシェランの教官室を訪れていた頃、Aチームの他のメンバーはいつも何かあった時に集まる本館2階のミーティングルームに居た。もちろんショーンも来ている。


 彼はマックスが戻ってきた時に自分が居ないと心配するかもしれないと思って、ベッドに細工をしてきたのだ。エバが最後に部屋に入ってくると、皆で彼女を囲み話を聞いた。



 マックスが消防レスキューを辞めたのには、そんな理由があったのかと思ったが、考えてみれば厳しい訓練を乗り越えて、やっとファイヤー・ファイターという栄誉ある仕事に就いた人間が、3年足らずで辞めてしまうと言うのもおかしな話だろう。


 しかし理由が分かった所で、自分達に何が出来るだろうと考えると何も思いつかなかった。心の病ほど厄介なものは無く、ましてや彼等は心理カウンセラーでも何でもない。体の傷なら薬を塗っておけばいいが、心に出来た傷は自分で癒していくしかないのだ。



 ジュードはつい最近まで、自分が乗り越えられなかった水圧への恐怖を思い出した。少年の頃に受けた体験を、深く潜れば潜るほど鮮明に思い出してしまう。きっとマックスも炎を見る度に、その恐ろしい体験を思い出すのだろう。それを克服できたのはシェランのおかげだった。


「1人では乗り越えられない壁だって、誰かが居れば乗り越えられる事だってある。オレ達はチームだ。みんなが自分の為に努力してくれていると知ったら、マックスなら乗り越えてくれるかもしれない。オレはそう信じたい」


 ジュードの言葉を聞いて、ネルソンがぎゅっと握り締めた拳を前に差し出した。


「マックスの為に・・・・」


 後の13人が彼の拳の上に順々に手を重ねた。


「マックスの為に・・・・!」







 メンバーは手分けして、そういった体験を持つ患者の事をネットや書物で調べたり、技術研修館内のパイロット育成用シュミレーションルーム(映像を映し出して飛行訓練を行なう部屋)を借りて、火災現場の映像を流してみたりと、思いつく限りの事は全てやることにした。


 もう殆ど退学だと諦めていたマックスも、仲間達が自分の為に時間を割いて必死になってくれているのを見て、もう一度やる気を奮い立たせたようだ。




 授業を終えると、マックスはシュミレーションルームにこもって仲間が用意してくれた様々な火災現場の映像を見る。映像と分かっていても、真っ暗な部屋の中、大画面で見る映像は迫力があった。


 とりあえずマックスが耐えられなくなって叫び声を上げるまでは1人にしておく。その後すぐに電気をつけて映像を消す。秀才のキャシーはマックスが耐えられなくなる時間を計ってデータを取っていた。


「今日は何分?」


 ショーンがキャシーの持っているデータ表を覗き込んだ。


「10分。これでも我慢した方よ」


 映像室でショーンとキャシーの会話を聞きながら、ジュードは大きな窓の向こうにいるマックスを見た。7月も後一週間で終わる。8月に入れば夏休みでジュードとキャシー以外は全員帰郷するはずだ。


 だが今のマックスの状態では、一週間で克服するのは絶対に無理だ。キャシーは去年のクリスマス休暇の時、女の子1人で寮に残すのは危険だという事でシェランの家に行っていたから今年もそうするだろう。・・・とすると・・・・。


「オレだけかぁ・・・・」


 ジュードは困ったように頭を掻いた。


 だがそれは他のメンバーも考えていたらしく、休暇の終わる一週間前には戻るので、それまでマックスと2人で頑張ってほしいと言ってくれたし、ショーンやネルソン、ジェイミーの同じ機動の仲間は、実家に顔だけ出したらすぐ戻ると約束してくれた。






 8月に入って1年生から3年生までが帰郷してしまうと、本館の鍵は閉められ、時々寮の管理責任者であるロビー・フロストが様子を見に来る以外は、まるで廃墟のように静かだ。


 マックスは今まで一度もジュードと2人きりになった事はなかったし、チームメイトではあるが、友達だと思ったことも無かった。どちらかと言うと彼の前ではいつも冷たい態度を取っていたと思う。


 だがジュードは「別に俺1人でよかったのに」と言ったマックスに「オレは実家に帰らないんだ。旅費が無いから。だから去年の休暇も1人でここに居たんだぜ」と笑った。




 ジュードはSLSの敷地内で焚き火をする許可を得ると、50センチほどの(やぐら)を組んで実際に火を点け、マックスを慣らしていく訓練を始めた。マックスが慣れてきたら徐々に櫓を大きくしていくのだ。


 昼頃になると、シェランとキャシーが毎日昼食を持って来てくれた。キャシーはシェランに借りた服を着て、いつも嬉しそうにジュードとマックスに見せに来る。キャシーのヘアスタイルは、編み込みにしたり、三つ編みにした髪を後ろで丸めたりと毎日凝っていて、どうやら妹が出来たみたいで楽しいのか、毎日シェランがセットしてあげているらしい。


 ジュードとマックスも彼女達が来ている間は訓練を休んで、水際ではしゃぐ2人を浜辺に座ってぼうっと見ていた。


「ほんと。仲良し姉妹だなぁ・・・」


 マックスが呟くように言った。


「だろ・・・・?」

「これはお前、大佐を口説くより先にキャシーに認めてもらわなきゃ駄目だぞ」

「・・・・・」


 ジュードは一瞬言葉を失った後、マックスの肩を掴んだ。


「何で、何で知ってるんだ?オレ、言った覚えないぞ!」

「バーカ、年の功だよ。お前より5つも上なんだぜ」


 マックスは真っ赤になってうろたえているジュードにニヤッと笑いかけたが、自分でなくてもチームの人間なら誰でも知っているだろうと思った。


「そうだよなぁ。マックスはもう23歳だもんな。じゃあ、恋愛経験も豊富なんだ」

「え?いや・・・それは、ピートかサムにでも聞いた方がいいと思うぞ」


 どうやらマックスも余り経験が無いようだ。







 休暇も一週間を過ぎると、ネルソン、ジェイミー、ショーンの順に機動のメンバーが戻ってきた。5人分の食事を用意するのは大変だろうが、シェランとキャシーも根気良く昼食を運んでくれた。


 この頃になるとマックスは小さな櫓の炎なら近付くことが出来るようになってきた。もう青ざめて冷や汗を流すことも無い。


 櫓の高さが2メートルを越す頃、Aチームの他のメンバーが一斉に戻って来て、寮は急ににぎやかになった。身長より高い炎の前で平然と立っているマックスを見て皆は喜びの声を上げ、良く頑張ったとマックスの肩を叩いた。

 





 夏休みの終わる3日前、ジュード達は皆で協力して、木製のゲートを作っていた。高さ3メートル、幅2メートルの門を15台。全て灯油をしみこませたわらで覆い、それを1.5メートル間隔で砂の上に立てていく。全てを立てるとその門に火が放たれた。


 20メートル以上に亘って並んだ門の前に、防火服に身を包んだマックスが立っていた。これが2年になる為に彼が通り抜けなければならない試練なのである。燃え盛る炎を見上げてマックスは思わずつばを飲み込んだ。


「全員、用意して!」


 シェランの掛け声と共に、消火器を持ったAチームのメンバーが門の両側に並んだ。シェランはゲートの前でじっと立つマックスの側に行って、彼を見上げた。


「最終試験よ、マックス。これを通り抜ければ、あなたはみんなと一緒に2年生になれるわ」

「はい!」


 シェランの「GO!」という合図と共に彼は炎に向かって走り出した。


― 大丈夫だ。絶対に抜けられる。あんなに頑張ったんだから・・・! ―


 思いは皆同じだった。炎の中を走るマックスも、自分の為ではなく、休みを返上してまで付き合ってくれた仲間の為にくぐり抜けたいと思った。そして、出口で待っているあいつの為に・・・・・。


 顔を上げたマックスの目に、自分の名前を呼びながら、必死に手を振っているジュードが見えた。


“もうすぐだ。もうすぐ・・・・”


 そう思った瞬間、うなるような音を立てながら赤い炎の柱がぶつかってきた。ジュードも炎の中にマックスの体が隠れたのを見た後、彼が砂の上にうつぶせになって倒れているのに気が付いた。


「中止だ!」


 ジュードの叫び声に、全員が一斉に消火栓を開いた。ジュードはまだ燃え盛っている炎の中に飛び込むと、気を失っているマックスを肩に担いで消化剤にまみれながら出てきた。すぐにマックスの防火帽を取り、口に酸素ボンベを当てる。掛け声を掛けながら手際よく担架に乗せ、すぐ医務室に運んだ。





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