妖怪『ドウワカイテヨ』
実家に帰って、何もしないから痺れを切らされたみたいです。
ついこの間まで年の瀬だったと思っていたのに、なんか知らないうちに年末31日になっており、私は焦っていた。とても焦っていた。泡を吹きそうなほど焦っていた。
その理由は、今年の目標であった『年が変わるまでになろう童話祭の童話を書く』という目標がもう叶いそうにもないからだった。
現在31日の夜九時過ぎ、帰省して実家で過ごしていた私以外の家族は皆紅白歌合戦を見て悲喜交々の感想を述べていた。その喧騒を一人パソコンの部屋でこの話を打ち込みながら聞いていた私は、まるでそれがツイッターのタイムラインのようだと思った。
私にしたところですでに夕食時、家族で乾杯していてアルコールを摂取しており、こういっては言葉は悪いかもしれないけど、このような頭の悪い話以外書けそうもなかった。
童話祭に参加するだけの能力は酩酊している現在の私には出せそうもなかった。
いや、無論普段も出せない。
しかしそれでも私は、絞って絞って今年中に童話を書くつもりだった。
いや、本当です。
実家に帰った時に行う予定のタイムスケジュールも帰る前に、事前に決めていたんだ。
本当だ。
それが実家に帰ったら色々とトラップが仕掛けられていたのだ。天は赤い河のほとりとか金田一少年とかマスターキートンとかハロー張りネズミとか、そういうトラップが仕掛けられていたのだ。そのれらの魅力的な紙媒体に次々と着手していくたびに、どんどんとスケジュールがずれていって、で、結局現在酩酊してこのような話を書いていた。
んで、
なんで今、童話を書くわけでもなく、黙って家族で紅白を見るわけでもなく、酩酊して眠るわけでもなく、なろうというとても真面目な場所において、こんな言い訳のような無様で得体の知れない話を書いているのかといえば、それは簡単である。
妖怪が出たからである。
うん。
妖怪だ。
あ、酩酊しているけど大丈夫ですよ。
そこまでは酩酊していない。
間違いない。
妖怪だ。
妖怪が出たのだ。
私は見た。
だから、
「妖怪が出たああ!」
って思って、急いでパソコンを立ち上げてこのページに来たのだ。で、皮肉にもこういう時に私は自分が物語を書くことで何かしらのストレスを解消しているんだなあって本当に思う。
で、
私の故国であるこの東北地方の片田舎では、毎年なまはげがどこぞかしこぞで出てくる。だから妖怪に関しては特にそこまで驚くこともないんだろうけど、でも私は驚いた。
だってそれがあまりにも私にとって個人的な妖怪だったからだ。
そいつの名前は妖怪『ドウワカイテヨ』というらしい。
無論本当かどうかは知らない。だって私はイタコじゃないし、霊能力者でもない、霊能力者の代わりに学校の先生になった妖狐でもない。鬼の手も持っていない。そういう研究もしていない。だから知らない。知るわけねえ。
でもとにかくその妖怪は『ドウワカイテヨ』という。
言ってくるのだ。
そうやって、
「ドウワカイテヨ」って。
私は、最初にその妖怪を見たとき驚いた。本当に驚いた。実家の階段を登った先にある角から出てきたのだ。「ドウワカイテヨ」って言って。だから階段から転げ落ちそうになった。年末に実家で死ぬところだった。恐ろしいことだった。家族が、来年年賀状を出せなくなるところだったし、初詣にもいけなくなるところだった。
その後もストーブの灯油を入れるためにストーブを停めて蓋を開けたらそこから出てきたり、屋根の雪下ろしのために命綱をしようとしていた時もでてきた。その度に私は「ぎゃああ」って言った。薬缶にお湯を沸かしてそれをポットに入れようとしている時にも出てきた。火傷しそうになった。ちょっとお墓まで散歩に行っていた時にもでてきた。転びそうになった。命の危険性を感じた。この妖怪は私を殺しに来ているのかと思った。
妖怪はその度に「ドウワカイテヨ」と言ってきた。
最初は私も「書くよ!」とか「うるせえ!」とか言っていたんだけど、とにかく今でも変わらずにその妖怪は私の前に姿を現すたびに「ドウワカイテヨ」と言ってきていた。
その後、今に至るまで妖怪は私の隣にいる。
私の隣に、こうしてキーボードを打ち込んで文字を連ねている私の隣に、その妖怪はいる。
「ドウワカイテヨ」
「ドウワカイテヨ」
「ドウワカイテヨ」
妖怪は私の隣でずっとそのようなことを言い続けていた。
このままではノイローゼになる!
私は思った。
童話は書く。書くよ。ちょっと待ってよ。でも今年中っていうのはもう無理だろう。でも童話は書く。参加表明しているんだから書くに決まっているじゃないか。ちょっと待ってくれよ。くださいよ。頼むよ。それにほら、お正月はほら、箱根駅伝があるんだから、それを見たら書くよ。
だから待ってくれ。
それでも妖怪は「ドウワカイテヨ」と私に言い続けていた。
だから私は、妖怪が「ドウワカイテヨ」と言うたびに、心の中で「ゲイラカイトヨ」と唱えて妖怪からのその精神攻撃を防ぐことにしたんだ。
「ドウワカイテヨ」
「ゲイラカイトヨ」
「ドウワカイテヨ」
「ゲイラカイトヨ」
お正月飛ばすように買ったゲイラカイトが家にあった。
買ってよかったと私は思った。
「ドウワカイテヨ」
「はいはい、ゲイラカイトね、飛ばすよ、お正月になったら飛ばすよ」
だから待ってくれ。
童話も書くし、ゲイラカイトも飛ばすから。だから待ってくれ。
まあ、妖怪の気持ちもわかります。でも面倒くさい大体の事はお得意の現実逃避でブロックだ!