第4話 変化はいつの間に
高3最後の夏休み、俺たちは4人で「沖縄旅行」にきた。
…うん。
ひとまずこの設定をきちんと説明しておく必要がありそうだ。
マジでこれはヤバい。
俺史上最高に胸が高まっている。(ちなみに今までの俺史上はメアド渡したときだ)
「…ッ、…ッ、」
「ぷくッくすくす」
「ぷくッ…ふふッ」
「…こういうのでいいんだっけ」
俺の真後ろには壁。なんか明るい部屋のはずなのになぜか暗い。いい匂いもするなぁ。ていうかなんか。近いなぁ…。
じゃなくて。
「なッなんで沖縄に来てまでこんなことさせられてんの!?」
少女マンガ定番!壁ドン!
いやいやいやいや、苦笑しながらでもやっちゃう華岡君落ち着け!?
たまきめ…!
というか、まわりの無茶ブリに応じちゃう華岡君のそのサービス精神にもう乾杯…。
「はは、壁ドンなんて初めてやったよ」
「だろーな!!!」
こんなの実際さらりとやってのけるやついたら逆に痛いだろ。
そういって華岡君は元の位置に戻る。
「どーお?みなと、ドキドキしたぁ?」
聞いちゃう!?それ本人の目の前で言えってか!?相変わらずのたまきだなクソ。元凶のくせに。
「ま、まあ…うん、なんていうか。華岡君でけぇ」
実際はこうだ。
(うぉおおおおおおいやばいやばい近い近い近いなんか暗ぇ、つか近ぇ!)
こんなの言えるわけない。
「よかったよかったー」
東庄は相変わらずの棒読みだなおい!
「コホン!と、とりあえずどこ行くんだよ?」
そう、今は高3最後の夏休み。4人で沖縄旅行の二日目なのだ。一日目は移動で終わってしまったので実質遊ぶのは今日と明日。しかし、東庄の「まあ予定なんてその場で決めればいいでしょ~」との声にのせられ、結局ノープランでここまで来てしまったのである。
「海?」「それは明日ってさっき決めたじゃん」「今日風も強いし」「そこらへんまわる?」「そこを?」「カラオケ」「沖縄に来てまでやることかい?」「ゲーセン」「独りでいってら」「ねぇ」「えーゲーセン~カラオケ~」「「「帰れ!!!」」」「米軍基地は?」「やだようるせぇ」「あの」「おすぷれー?雄プレー?ホモセ?」「ねぇって」「まだお昼だよー」「ねぇってば!!」
「「「…!」」」
気づけば華岡君が声をあげてた。
「ん?どうした、華岡君」
「…あの、美ら海水族館は?」
「「「…………」」」
「…。ダメ?」
あ、あの華岡君が、す、水族館に行きたい…だと…!?
かわいすぎるだろ…
「…い、いいんじゃないか…?」
気づけばそんなこと、口走ってた。
「…!」
こくこくとうなづく華岡君。
「うん、いいんじゃないかな」
「おお!確かにいってみた~い」
東庄とたまきも乗ってくれた。
「ねぇ華岡~」
「ん?」
「あのね、昨日やってたテレビの…」
俺の目の前でたまきは華岡君の隣をなんかちゃっかりゲットして歩いていく。お前には東庄がいるだろうが。
「おやおや、二人とも仲いいねぇ」
「…お前らなんかあったの?喧嘩?」
必然的に俺の隣は東庄だ。
「ううん。喧嘩なんてしてないよ」
「お前らいつも二人でいちゃいちゃ歩いてんじゃねぇか」
「自分は変わらないよ。いつだってね。たまきが来れば話すし、たまきが来なければこんなふうになるんだよ」
「…。そんなお前、冷たかったっけ」
「…?本当に、変わらないんだけどな。しいて言えば、変わったのはたまきなんじゃないのかな」
…まさか。さっきの壁ドンだってなんでたまきと東庄がやらないのか不思議に思ってた。…いや、流石にそれはないか。やっぱたまきが一方的に喧嘩とは決めつけて避けてるんだろう。そうだ。何も変わらないじゃないか。
「お!ついた~」
「早速行こう」
たまきと華岡君は楽しそうに走って券売機のほうへ走って行く。俺もそのあとを追おうと走り出そうとしたとき。
ぐっと腕を引っぱられた。
「待って、坂田」
「ん?なんだよ?」
「いいから」
あっちを見るとたまきが華岡君の耳に顔を寄せ、なにかを囁いていた。
ずき。
はは、なに、別に嫉妬とかそんなんじゃねぇから。たまきには彼氏がいるんだから。何を嫉妬する必要があるだろう。
それより、どうやって館内を回るんだろう。4人で回るか、2対2で別れて回るんだよな。できれば、二人でいちゃいちゃ回ってもらって、俺は華岡君と二人で回りたいなぁ。そんなふうに思ってたら華岡君だけがこっちへ来た。
「東庄、一緒に二人で回ろうぜ?」
「うん。いいよ」
「え?なん」
なんで、という前に東庄は俺の口を塞いだ。その目はいつもと変わらなかった。いつもみたいに、聡明で、なにもかもわかったような目をしていた。困惑する俺をよそに、二人はさっさと館内へと入って行く。
「何ぼーっとしてんのみなと!?いこ!?…あれ、もしかして華岡とまわりたかったの?ごめんね~」
…!気づけばたまきがすぐそこにいた。
「あ、あぁわり。…ってそんなんじゃねぇから!」
たまきは楽しそうに館内へと走って行った。
…そしてそれからたった30分後。今の状況を端的に言おう。「迷子」
いや、俺が迷子になったというよりたまきが迷子になったんだ!
ちょっと目を離したすきにどこいったんだあいつ…。ちいせぇガキじゃねぇんだからさ…。しかも連絡してもいっこうに返事もこないし、電話も出ない。
東庄に連絡したら「こっちでも手分けして探す」とすぐかえってきた。
あいつが好きそうな魚…。いるかとか…?う~そんな狭い水族館じゃないから大変だ…!かといって本部みたいなとこいって「迷子のお知らせです」とかされるのもなんだかこっちが恥ずかしい。高3にもなって迷子かよ!
しばらく一人で散策していたら。そう、たまきが一番いないだろとたかをくくって全然見なかったコーナーに、たまきがいた。
あたりは暗く、蒼い。幻想的な音楽が雰囲気を作る。
そんな、深海魚とくらげのコーナーの、はじっこ。とても美しいとは言えない深海魚の目の前に、たまきがいたのだ。
「……」
「……」
話しかけていいのかわからなかった。いつもなら平気で話しかけるのに。
…いや、何を躊躇している?普通に話しかければいいじゃねぇか。いつも通りにさ。
そう思って近くまでいく。
「…ッ」
…こいつ、深海魚なんてこれっぽっちも見てない…!目が、それを物語っている。
「たまき?…たまき!」
「…!ほぇ…?」
「ほぇじゃねぇよ。何、魚に見とれてんだよ、しかもきめぇ深海魚に」
「あぁ…えっと、ほら!こういうのも綺麗って感じれるのさ!」
「そうかよ。…東庄と華岡君も心配してる。行くぞ」
と歩き出しても後ろから追ってくる気配が感じられない。
「…」
「たまき!何ぼーっとしてんだ、さっきから。行くぞ!?」
「う、うん!」
と前を向いてまた歩き出す。なのに…。あいつはまだあの深海魚を凝視しているんだ。何かに憑りつかれたかのように。
「たーまーき!」
「わ、わかってる!」
「なんだよお前そんなあの深海魚気に入ったのかよ、趣味わりぃな」
「うるさいな~…。あ、東庄!」
「え?」
後ろを振り返るとたしかに東庄がいた。
「見つかったんだ、よかったね」
いつもならここで二人は絶対抱き合うのに。たまきは走って東庄のところへいくのに。…考えすぎ?
「華岡は?」
「たまきをみんなで手分けして探してたんだよ?」
「あ…、ごめん」
そうだ、せっかく二人こうやって会えたんだし。
「つかお前ら二人で回ればいいのに」
「いいのいいの。私たち別れたから」
…あぁ、やっぱり。やっぱりそうなんだ。
その時、たまきのスマホに着信が入った。
つづく
さぁ、いつのまに二人は別れてたんでしょうね。
次回は番外編、というか、4.5話みたいなの書きます~ちょー短いけどね!