第3話 掃除は恋の匂い
新しく1歩を踏み出した俺、坂田みなとは学校が楽しくて楽しくて仕方がない。
そんなおり、東庄からある誘いを受けて…?
ったく…信号長すぎだろ!
「みなと、足、足」
「うるさいな!学校に早く行きてぇんだよっ」
泣いた日のことをクッキー事件と呼ぶことにしたのだが、それのあとから俺は学校が楽しくて楽しくて仕方ないのだ。今までなにも話せなかった俺が馬鹿みたいだ。ほんの些細なことでも全部プラスに、自惚れる勢いで。それを考えるだけでこんなにも変わるんだ。
「おはよう華岡君!」
「あ、坂田おはよう」
…えへへー、嬉しいな。もうさん付けの日々がようやく終わったんだ。
これでたまきと同じだ!
「あれ、華岡ってみなとのこと呼び捨てだったっけ」
「あぁ、実はな…」
ークッキー事件翌日、放課後
「じゃ、坂田、掃除よろしく、ゴミも捨てとけよ」
「はーい…」
ちっ、なんだよあのマザコン・デブちん教師がよぉ…くそぅ。一人で掃除とかまじかよもう……たまきに手伝ってもらおうとしたら「東庄とでぇと♡」とかいって逃げやがった。東庄に聞けば「えっ、そ、そんなこと言ってたの?参ったなぁ…」とかいいつつにやけてるもんだからほんとあいつら死ねばいいと思うよ、うん。
テスト後でクラスには残れないせいもあって、誰も残ってない。一人で掃除だ。つらぁ…ってまあ、自業自得か。
ードタドタッガラッ
「!?」
「…!坂田さん!?」
「華岡君?どうしたの」
「いや、明日の地学の教科書忘れて」
「あぁ…」
…ってこれしか返す言葉ねぇのかよ俺!?会話終了じゃねぇか。会話、会話…くそ、たまきと話すときは次から次へと出てくるのにっ。
「そういや坂田さん、地学いつもすごいよね」
「…!そ、そんなことねぇよ…」
とは言いつつもそんなことあるのだ。地学はマイナー教科なのかクラス人数はかなり少なく、そこで成績トップをとれば華岡君にも自分を認識させることができるのでは、と、まだ話もできなかった高二の最初の頃に思ったのだった。
それを今、ようやく突っ込まれたのだ。一年以上も頑張った甲斐があったというものじゃないか!
「あと綾瀬にも地理とかよく教えてるし」
「な、なんでしってんの!?」
「綾瀬がよく『みなとのおかげでなんとかなりそう!』って言ってるじゃん?」
「あー、いやでもあいつ俺がどんなに教えたってすぐ忘れるからよぉ」
はは、と相手が笑ったから俺もつられて笑った。こうして二人でこんなに長く話したのは初めてかもしれない。
…そこで今まで感じていた違和感にようやく気づいたのだ。
「坂田さんは………綾瀬に……よね」
…そう、そうなのだ。
今なら、いってもいいよな。
「華岡君!」
「なに?」
「あ、あの…さん付け、じゃなくてもいいよ」
「あ、そう?じゃあこれから坂田って呼ぶ」
ふふ、と、華岡君は何が面白いのか笑った。なんか俺も嬉しくなって、へへ、と、笑った。
「ずっと違和感感じてたんだよね」
「え…?」
「でもなんかタイミング失っちゃって。いきなり坂田って呼ぶのも変かなって」
………!華岡君と同じ気持ちだったなんて!
「そ、そうなのか。普通に呼んでくれて構わなかったのに」
「はは、そっか。ごめんごめん。…あ、掃除一人なの?手伝おうか?」
あぁ、なんて優しいんだこの人。
「えっ、い、いいよそんな!」
「いや、元々今日俺掃除の日だし」
「…じゃ、お願いします」
ここで断ったらほんとに華岡君帰っちゃいそうだから、素直に頭をぺこっと下げてお願いした。
そして華「ストップストップ!」
「なんだよ!」
「回想長すぎだわ!掃除の説明まで求めてないし!」
「うるさいな!嬉しかったんだよ!」
「まあまあふたりとも」
……あ。俺やらかした。
華岡君近くにいたのに。
「嬉しかったんだよ!」
うっわ恥ずかしい!…恥ずかしい!!!
「い、いや違うんだ掃除が一人よりも早く終わって嬉しいということで…!」
「あぁ、ならよかったよ、大したことではないけど」
いやもうこちらとしては大したことありまくりなんですけどね!手帳に書き込んだわ!
「おはよ~」
「おはよ東庄っ」「おはよう」「はよ」
相変わらず朝ギリギリに来る東庄。たまきが愚痴ってたのは言わない方がいいのかね。
「ねぇねぇあのさ、夏休み暇?」
「終わりの方はテスト勉強したいから控えてほしいけど。なにかあるの?」
東庄の今朝の第一声は夏休みについてだった。華岡君がごもっともな反応をする。
っとここでおい受験生と言われそうなので言っておくが、俺たちの高校は大学付属で、きちんとそれなりの成績を持っていればエスカレーター式に大学入学ができるのだ。
ただ、その「それなり」すら危ういのが…
「ちょ、ちょっと待って東庄、わ、私は夏休み後のテストがまじ命運かかってるから勘弁…」
たまきなのであった。
「そんなにやばかったっけたまき」
っと東庄が聞くが、こいつは彼氏なのにたまきのやばさを理解してないのだろうか。
「みなととか華岡とか、あんた(東庄)とかとはもうやばいのレベルが違うのよぉお…」
「わかったわかった、こうしよう」
「そもそもなんなのかすら聞いてないぞ?」
「あ、そうだった」
そういって東庄はスクバのなかから海の写真が眩しいチラシを見せた。
「ここいこう!」
「「「………?」」」
…どこ?っていうかなにしに?
「たまきも華岡もテストがっていうなら8月頭にさ、四人でお泊まりしようよっていう」
「いいね東庄!ナイスアイデアだよっ」
そりゃおめーらはいいだろうなおい!
むしろ俺邪魔じゃね!?
と思いちらっと華岡をみると苦笑いしたまま顔がひきつってた。同じことを考えてるかもしれない。たまきと東庄のバカップルは「でしょでしょっ楽しそうでしょっ水着とかさー」「えー恥ずかしい」「えー。たまき絶対可愛いよ♡」「んなわけないでしょばかっ♡」「ありがと、ばかっ♡」とか勝手に盛り上がってるのでちょいちょいと華岡の腕をつつく。
「ん?」
「これ…俺ら行っていいのか?」
「ほらあれだよ、流石に二人でお泊まりだと年齢的にも怪しいじゃん。親から許可おりにくいとかじゃない?」
「あー…ってじゃあ俺ら人数合わせかよっ」
「はは、そーかも」
…四人でってことは…ひっ、華岡君も一緒じゃん!華岡君と、おとまり……?遊びにいったことすらないのにいきなりお泊まり…?は、ハードル高すぎだろ!
で、でも楽しそうだ…
「…いいんじゃね?」
気づけばそう口に出してて。
「高校生活最後の夏休みだし!」
なんか青春ぽいことも言ってみたり。
「あ、坂田からも賛同を得たよ。…華岡は?」
そう東庄君が華岡君に問う。
ここで彼断ったらほんとしにたい状況になる………
「いいよ、すごく楽しそう。四人でお泊まり」
……やった!
「よーし!そうと決まればこれからは四人で朝は計画立てよッ!勝手に東庄に決められちゃたまったもんじゃないよ!」
「はは、そうだな綾瀬!俺も東庄に決められたくないわ」
「ちょっと二人とも酷くない?」
……。…あれ?
「…と?みなと?」
「…!ん?…あぁわり、ぼーっとしてた」
なんだったんだろ、今感じた違和感は。まあ…気にすることはないか!
そう、これが本当に「最期」の青春だったのかもしれないな。
つづく
今回はちょっと短めです。キリ的にここできっとかなくちゃ長すぎちゃう気がしたので…
次回から夏休み編突入です!お楽しみに!
っと言いたいとこだがほんとにセンター近くなってきすぎて白目。いつになるかは保証できませぬ