表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋の食感  作者: 紫雨蒼
2/7

第2話 割れたものの行方

さあ、クッキーを渡すことを決心した俺、坂田みなとは張り切って学校へ向かう。

さあ、渡そう、そう彼に近づいたそのとき。


クッキー、いれた、…よし、忘れ物なし!

「いってきまぁす!」

「いってらっしゃい…なによ、今日はやけにテンション高いわね…」

「お母さんには関係ねぇし!」

たたっと駆け出すその1歩………

「おわわっ」

「はは、朝から張り切ってるなぁみなと」

もう十何年も住んでる家の段差につまづいた俺を、隣にすむたまきがヘラヘラ笑いながらみて、おはよ、と言う。

「忘れ物ない?」

「もちろんだ、クッキー持ったぞ」


たまきが言ってた意味がようやく分かったのは学校ついてからだ。

「筆箱忘れた!!!」

「ほら忘れ物あったじゃん!」

いつもならたまきのほうが抜けてるのに今日は俺が張り切りすぎてるのだろうか。

「わり、貸して」

「もちろん~…あ、ごめん!自分用しかないや」

「なんだよお前ほんと使えねぇ奴!」

「なになに、テスト前に騒がしいねぇ」

はいやっぱり来ました、東庄。

「あ、東庄おはよ、なんかね、みなとが筆箱忘れたんだってぇー」

「そりゃ珍しいね…貸そうか?」

「いいの!?」

「うん、ちょっと待ってて…」

そういうと、東庄は自分の筆箱を持ってきて、筆記用具を机にばらまく。

「……」

「やっぱり」

「ん?ちゃんと消ゴムもあるよ」

「いや違う!」

たまきは知ってたのか、やっぱりとかいってため息。

なんだこれ!このご時世鉛筆かよ!しかも短すぎんだろ!持てるか!

「ほら、書けるよ?」

持ってるよこの人!!!

「ちょ、違う子に借りるわ…」

「おはよー」

「!?」「おはよう華岡」「おはよー」

不意打ちすぎ!たまきがほらおはよ、って言いなさい、というように袖を掴む。

「おは、よ、華岡君」

「おはよう」

うわ、朝からこの笑顔は反則だろ…テスト満点とれる気しかしねぇ…

「あ、あとこれ。別に盗み聞きするつもりはなかったんだけどね」

「ふぇ…?」

相手が目の前にいるってだけで動転なのに、相手が俺に何かを差しのべている…?しかもそれは。

「俺余分に持ってきてるから、良かったら使って」

いやもうむしろ良かったら貸してください。俺の本意を遥かに越える、神器(筆記用具)…!

「え、あ、ありがとう…」

嘘マジかよもうテスト満点確定だなおい!

「良かったね、みなと」

とたまきが耳打ちする。

へら、と笑って返した。


「はい止め、後ろの人回収」

オワター…いくら華岡君のシャーペンでも学力は素直だ…メンブレぱねぇ…

っとそんな暇はない、終わったらすぐにクッキーを渡さなければならないのだ。ついでに言えば、シャーペンを返す口実も思いがけず作れた。ほんと俺は今日ついてる。

ガタンっ。

思ったより勢いよく席をたってしまったせいで椅子の音が響き、なんかびびってしまう。

ちらっと華岡君をみると、彼はまだ席をたっていなかった。よし、行こう、今ならチャンスじゃないか。

ふぅ、と深呼吸。うまく笑え。変に笑うな。どもるなよ、俺。台詞をもう一度頭の中で暗唱、「華岡君、これこないだのお返」

「華岡ー」

の間に耳障りなノイズ。声の方を見る。

「……え」

…たまきが、華岡君と二人で話していた。

え?な、なんで、え、お前なにやってんの。頭の中がなんででいっぱいになる。足がすくんで動けない、金縛りにあったみたい。

「みなとーっ!」

「……!あー?」

ほら、こっちこっち。

そうたまきが口パクしてるように見えた。

「…いや、トイレ」

「え?みなと………?」

あぁ、俺はほんとに素直じゃねぇや。

たまきなんか気にせずそこでいってれば渡せたのに。トイレなんかいってどうすんだよ。もう帰りのHRはじまっちまうよ。

「みなと!」

あぁ、鬱陶しい。

「なんだよ、お前もトイレかよ」

廊下は人がいるから、いつも通り。

「なんで渡さないの?昨日あんなに頑張るって張り切ってたじゃん」

「トイレ行きてぇんだからしょうがねぇだろ」

「せっかく私、なかなかみなとが行けないの見計らって華岡に話しかけたのに!」

ぷちん。と、何かが切れるような、弾けるような、そんな感覚。

トイレに人がいないのも相まって。

「っざけんなよたまき!」

「……え?あっ、え、ごめん、ごめんって!」

あぁ、このヘラヘラ顔、ほんっとにむかつく。

知ってる、そうやって謝ったらなんでもすむと思ってる。ヘラヘラやり過ごしてたらみんなに許してもらえると思ってる、うまくやっていけるとおもってる。でも。

そんなの俺に通じると思うな!

「何ヘラヘラ笑ってんだよ!」

「……っ、え、みなと。その」

「…お前が、余計なことするからっ」

「…余計なこと……?」

この期に及んで未だにわからないのか、いきなり怒鳴り出した俺を怯えながらもきょとん顔が隠しきれていない。

「余計なことだ!俺はもう行こうと思ってた!それが、お前のせいで!」

「はぁ…?ひ、人のせいにしないでよ!終わったらすぐ行くって言ってたじゃん!だから私はっ」

「お前にどうこうされなくたって自分できっかけぐらい作れるッッッ!」

「今まで作れてないじゃん!」

「だから今回作ろうと、お前からでなく自分からきっかけを、自分で作りたかったんだよ!」

「……!」

そこでようやくたまきはハっとした表情になる。俺もなんだか疲れて、はぁ、はぁ、と二人の荒息だけが響く。

「……ッ」

「たまきっ」

たまきは無言でトイレを後にした。


HRと掃除をサボったということで担任に明日の掃除は一人でやれという説教を受け、一人で学校をあとにする。たまきはもう先に帰ったようだ。

どうしよう、筆記用具返せなかった。あそこで意地をはったから。あそこでいってれば。でもそれじゃ、またたまきのおかげになってしまう。

「じゃあどうすりゃよかったんだよ…っ」

「坂田さん」

「………!?」

わかりやすいほど肩がビクッと震えた。嘘だ、そんなわけない。

恐る恐る後ろを振りかえる。

「…は、華岡君!あっ、え、えっと!ひ、筆記用具だよな!ごめんっ」

「あぁいや別に大丈夫だよ。今帰り?遅いね…あ、そういやHRもいなかったっけ。大丈夫?」

あぁ神様…もうありがとうございます…

「あ、あぁっ、全然大丈夫だ、そ、そのありがとな…っ」

そう言いながら彼に筆記用具を渡す手は自分でもわかるほどに震えていた。

「良かったよ、役に立てて」

ちらっと、背の高い彼の顔を伺う。その顔はまたあの笑顔。

…わかってる。別に俺のためだけの笑顔でないことくらい。でも、それでも、落ち込んでいた俺を元気付けるには十分すぎた。

「うん、ありがと…そういや、華岡君 もなんでこんな時間に?」

「あぁ、なんか東庄の相談事受けてたからさ」

「へぇ、東庄君にも悩みとかあるんだ」

「綾瀬のことで。…あれ、坂田さん知らないの?」

……たまきのこと?

あぁ、こんなとこまでたまきは邪魔してくるんだ。

「たまきが?さあな」

「なんか、東庄に会うなり泣き出しちゃったみたいなんだけど、理由はちっとも言わないからどうしようって、東庄に相談事かけられたから、それで話してた」

「そ、そっか。…で、今二人は?」

「東庄と綾瀬は普通に二人で帰ってったよ」

…なんだ、なんだよ。もういろんな感情がごちゃごちゃ。

「坂田さん、綾瀬と仲いいからなんとかできるかもね、俺じゃなんもできないからさ、よろしく」

「う、うん、わかった。ありがと」

何がありがとうだ。どこもありがたくねぇよ。

なんとなく気まずくてすぐ別れたいのは山々なんだが、バスの方向が同じなので、バスがつくまでは一緒に帰った。嬉しいのに、嬉しくない。笑いたいのに、笑えない。

「あ、じゃあまた明日」

「あ、あぁ、またね華岡君…!」

最後までぎこちない俺ってなんなんだろ。


「…ただいま」

「おかえりなさい…あらずいぶんとテンション低いわね」

「…お母さんには関係ない」

「夕飯は…」

「いらね」

そのまま自室に籠れば妹がマンガを読みながらゲラゲラ笑っていた。ほんと、こういうとき一番困るのだ、二人部屋って。

「みなとおかえりーぷはっははっ」

「……」

「ねぇおかえりってば、ねぇこれみてあははっ」

「……」

「ねぇーえ」

「うるさいなもう!」

「…みなと……?」

布団を頭から被る。

妹はご飯を食べに出ていったようだ。


今日は散々だ。朝からこけた。筆箱を忘れた。…クッキー渡せなかった。最後の最後まで、たまきのせい…おかげだった。

筆箱忘れて華岡君に筆記用具貸してもらえたのはラッキー、って思うけど、今となってはそれすらもたまきの差し金ではないか?とすら思う。だってタイミング良すぎたじゃねぇか。

…メールしようかな。

そう思ってスマホを開くと通知が一件。たまきからだった。

『今日はごめんね、わざとじゃなかったんだけど。でも確かにお節介だったよね。ごめん』

『あぁ、こっちも突然怒鳴ってごめんな』

送ればスマホを投げ出した。

…あぁ明日のテストの勉強もしないとなのに。

「えっと明日は数学…」

………っ。

スクバの底からそれはでてきた。

「…………割れてる」

クッキー。

渡せなかった、クッキー。

「…っ、う、ひっく…」

甘い。一人で食って、涙でしょっぱいのに、やっぱり、後味は甘い。


「いってきま………たまき」

家を出るといつも通りたまきがいた。

「おはよう、みなと…昨日はほんとにごめんね」

「いいよ、俺さ、昨日泣いたんだよね」

「え?」

「そしたらスッキリした!」

「うん?」

「クッキー渡せなかったくらいでぐちぐちしてる自分に笑えてきた!なんか昨日帰りこんなことあってさ…」

と昨日の帰り会ったことを話した。

「えー?役に立ててよかったぁ?それみなとに気ぃあんじゃないのー?」

「はは、まさかぁ、でももうこうなったらいっそ自惚れてみるわ!」

「そーそ、その意気だみなと!」

それからはもう、学校着くまで止まらなかった。

「こないだもなんか廊下ですれ違ったとき目あった気がした!」

「みなとのこときになってるんだ!」

「そうだっ、しかも挨拶したらなんかいつもより笑顔度高かった!」

「みなとをハッピースマイルで落とそうとしたんだ!」

「そうだよな!」

はは、楽しい。

そうだ、何をぐちぐちしてるんだ。悩んでたって仕方ないじゃないか。自己嫌悪したって、終わったことは仕方ねぇじゃん。

ならいっそ。

全部プラスに変えてやる!


「華岡君おはよう!」

どうだ?俺笑えてる?

「あ、おはよう」

「寝癖着いてるぞっ」

ぽん、と相手の背中を叩いて、恥ずかしくてまたよくわかんない方向に駆け出す。

今日から変わりそうな、そんな一歩。


つづく


友達のリアルの事件をかなーりフィクション化したらこうなった。

でもほら、明るい兆しが見えてます。

次回はさて、どうなるのか!みなと頑張って、あと、たまきうざいから引っ込んで!

東庄脇役すぎてごめん!

華岡君はもう完全に私のイメージでごめん!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ