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恋の食感  作者: 紫雨蒼
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第1話 日曜会の夕暮れ

幼馴染みとの日曜会の夕暮れ。

俺たちは恋ばなに花を咲かせたのだ。

この頃が一番平和だったのかもしれない。

どうしてこんなことになったのかは分からない。

ただ、高3の俺はそれなりに恋愛もしてきて。

それでいて確実に言えることがあるのだ。

「こんなに人を好きになったのは初めてなんだ」

「う、うん………あのね、みなと」

「なんだよ」

「…ミルクティー、こぼしてるよ」

「ハイーっ!?」

確かに見てみると右手に持っているティーカップが傾いており、机やら床やらにミルクティーが広がっていた。

「うわぁあ!ちょ、ば、なんでもっと早く言わねぇんだよ!」

「え、だってみなと、すごく真剣そうだったから……」

「ったく何ヘラヘラしてんだッ早く手伝えよっ!」

「へ?あ、めんごっ!」

っと、申し遅れた、俺は坂田みなと。一応高3の女やってる。

んで、このさっきからヘラヘラしてるこいつは綾瀬たまき。男っぽい名前だが、女の子だ。

俺たちは家が隣なこともあり、幼稚園から高校までなんだかんだ同じ…まあ俗に言う、幼馴染みってやつだ。中学校にあがったあたりからテスト前の日曜日に近所のカフェで勉強会を開いている。通称「日曜会」。まんまじゃねぇかと文句が来そうだが文句はたまきまで。フリーダイヤル、

「とかないからね!?」

「おふ!?お前心が読めんのか!?」

するとまたたまきはヘラヘラ笑うのだが。

なんとかミルクティー事件はは収束し、ふぅ、と、椅子に座り直す。

「えーっと、なんの話してたんだっけ」

「俺の恋愛トークだろうが」

「あっ、そうだったそうだった。乙女になったね、みなと」

「ちくしょう…リア充目線で語りやがってよぉ…」

すると、たまきはぽっと顔を赤らめ、またヘラヘラ?いや、にやにや?口角がふにゃける。

「い、いや別にそんなんじゃぁ」

「もうお前死んどけよ…」

満更でもなさそうな顔してんじゃねぇよ!

「あ、東庄だ」

「お前な」

あー、だめだ、東庄からのメッセージだろう。

じゃあその間に。

そう、たまきはリア充だ。東庄かける、という、俺とたまきと同じ学校の同じクラスの男子だ。

一体いつ付き合い始めたのかは知らないが割りと最近告げられた。俺はてっきりネットの女と付き合ってるとばかり思ってたから一体いつのまに別れたのやら。

「来週の日曜日デートいってくるね♡」

「あーはいはいよかったねー」

「だって東庄と半年記念だもの」

「はぁ!?半年!?」

たまきからリア充宣言されたのは三ヶ月前のことのはずなのだが。

「ずっと言ってなくてごめんね」

「お前…三ヶ月も俺に黙ってたのかよ…ショックだぞ、幼馴染みの絆はどこへ………」

「わわわわ、ごめんって、だってなんか東庄は同じクラスのやつだし、なんかみなとは好きな人いるし、なんか言いづらくて…」

「そんな優しさいらねぇよくそぅ…」

「そ、それで?華岡君をこんなに好きなんですって話だったよね」

…そう。話は最初にようやく戻れそうだ。俺、坂田みなとはこれまた同じクラスの、華岡のぼる、という男子にこ、恋心を…うぁあ、恥ずかしい!

「うん…中学校の時もお前にはいろいろ相談してたから、わかってるとは思うけど、でもそれでも前とは明らかに違うんだ、この気持ちはっ」

「うん…私にはイマイチそこの違いはわかりかねるけど」

「そうだな、分かりやすく言えば、今までは見た目から入ってた。だからその、おかずとかにも、してた」

「きも」

「塾のあの人をおかずにしたお前に言われたくない」

「ごめん許して」

たまきの弱味ならなんだって握ってるぞ俺は。幼馴染みって怖いね!

「あの人をおかずになんてできない」

「まあそれをいったら私だって東庄のことおかずにしたことなんてないし、これからもしないよ」

「珍しいな欲求不満女が」

「だって東庄とは妄想なんかしなくたっていづれできるもんね」

「お前帰れ」

「ふへへ」

って違う違う!たまきののろけ話じゃねぇんだよ今日の「日曜会」は!

「気持ち、伝えればいいのに」

たまきがボソッという。よく言われるけど、現実問題さ。

「いやだから無理だって」

「なんで?」

「はぁ?」

……きょとん顔で俺を見るたまき。この顔は、ほんとにわかってないパターンだ。

「…友達以上恋人未満どころか、知り合い以上友達未満だぞ、俺ら」

そう。そもそも華岡君と話すようになったのも、たまき繋がりだ。たまきの彼氏である東庄君が華岡君と仲がいいので、たまきといれば東庄がいるのは当たり前だがそれに華岡がプラスされるのだ。

それまでは机も離れてたし、ただのクラスメートだった。気になりはじめても俺はコミュショーだから話しかけられなくて。

でも、そう、突然。

たまきのせいで、こんなに近い存在になってしまった。

………なんて、こんなことたまきには言えないけど。前のままのほうが幸せだった、なんて。

「えー、そーお?普通に話してんじゃん」

それはお前がいるから東庄君がついてきて、東庄君がいるから華岡君がついてくるっていう二段階を経てるからだ。

という台詞を飲み込む。

「別に俺から話しかけるわけでも、向こうから話しかけてくるわけでもねぇし」

「もっと話しかければいいのに、好きならさ」

「わ、わかってるよ!で、でもな、なんていうか、いざとなると声がでねぇんだよぉ…!」

「出ました乙女みなと!可愛い~」

「可愛くねぇよ殺すぞ」

「うわぁ、こわぁい」

またヘラヘラ笑う。ほんと、ムカつくこいつ…!(ガチギレじゃねぇよ?)

「明日は、テストだ」

「全然勉強してないけどね」

たまきは世界史の教科書を広げつつ、はぁ、とため息。

「…ごめん。勉強したきゃ、やれよ」

「ううん、いいのいいの。それで?」

「テストだから、クッキー、渡そうと思ってる」

「うん?」

「クッキー」

「なぜに?」

「……」

特にテストだからという理由はない、ただ話せるきっかけを、たまきでなく、自分で作りたかった。

「なになに?手作り?」

「まさか!いきなり手作りとかドン引きだろ」

「そんなことないけど~女の子からの手作りとか嬉しいっしょふつー」

「むりむり、お土産だよ」

「あぁ、ゴールデンウィークどっか行ったんだったね…って今更それ渡すんかい!一ヶ月たってるわ!」

「しょーがねぇだろぉ、すぐ行動できねぇんだよぉ」

可愛い、可愛い、とたまきはまたヘラヘラ笑った。

どこが!

「とにかく!明日は絶対クッキー渡す!」

「うん!」

「聞けよ、俺のプラン」

「うんうん」

俺の考えた作戦は次のようなものだ。

明日のテスト終了後、素早く華岡君の席まで行く。(たまきや東庄君が来る前に)そしてスクバからあたかもたまたま持ってました感を装ってクッキーを渡す。直前でどもらないようにきちんと台詞も用意している。「華岡君、これこないだのお返」

「ちょっと待った」

「なんだよまだプランは途中だぞ」

「こないだのって、なんかあったの?」

「メール交換してくれた」

「それかなり前じゃね!?」

…返す言葉もない。今が高3の六月。確か高2終わる頃だったから、かれこれ三ヶ月前のことか。

「渡す理由がもうそれくらいのことしか…」

「せっかくメール、みなとがあんな勇気出してまで交換したのにまだなにもないのかよぉ」

「う、うるせぇよ」

そう、三ヶ月前のあの日。忘れもしない、終業式の日だった。


「華岡君っ」

帰りのHR後、さっさと帰ろうとするのが華岡君だった。それを知ってるから俺は急いでスクバをもって彼を追いかけた。

「あぁ、坂田さん」

「あ、あのっ、これっ、嫌だったら捨てていいからっ!」

相手の返事なんて聞いてる暇もないほどすごい速さで相手の手の中にメアドを書いた手紙を押し込め、焦りすぎて下駄箱と反対方向に走った。

あんなにドキドキしたのは、初めてだったかもしれない。


「懐かしいねぇ、すごい顔赤かったなぁ」

「今思えばあの時お前すげぇ喜んでくれたけど、すでにリア充目線だったってことだよなぁ?ん?」

「ごっ、ごめんっ!」

「…ま、それのお礼ってことにしておく」

「違和感を感じざるを得ないけど…まあ他にないなら仕方ないなぁ」

「ぐ…」

辛辣なこと言ってくれるな、たまきよ。

「ま、まあ大丈夫だよ、華岡いい奴だしね!」

「それなぁ!…ってわけだからそれでクッキー渡して、そのまま少し話せたらなぁって」

「…今度はほんと?」

「ほんとほんと!マジでやるから!応援してよな」

「おう!頑張れみなとっ!みなとならいけるよ!」

たまきのヘラヘラ顔も、なんだか全然腹立たしくなくて、本気で応援してくれる幼馴染みに、「ありがと」と言ってから、「日曜会」はお開きとなった。


ただ、俺は言っておくべきだったのだ。たまきに。


つづく



モデルになってくれた、私の友達に感謝。

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