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物語  作者: 出門 陸
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夜、眠る前に

 鏡を見てみた。自分が、自分を見つめていた。

 ちょっと疲れたような、ちょっと迷っているような、そんな顔をしている。何か言いたいけど言えないような、そんな感じ。

 鏡の前から離れて、ベッドにごろっと転がる。今日も一日、いろんなことがあったなぁ。

 しばらくベッドで寝っ転がって、一日のことを思い出した。嫌なことがたくさんあったし、つまらないことばっかりだし、そのくせおもしろいことは全然なかった。いつもと変わらない一日だ。

 こういうのが日常になったのって、いつからだろう。昔は、こんな風に感じたことはあんまりなかった気がする。なんというか、もっと一日が楽しかったというか。

 でも、いつのまにか、毎日が苦しくなってきていた。大変なことがいっぱいで、嫌なことだらけで、生きていくのがちょっと辛いと感じている。なんとなくだけど、生きづらい。

 けれども、僕がどんな気分でも朝は規則正しくやって来るし、朝が来たらどんな気分でも僕は日常生活をしないといけない。それがどんなに嫌だって。それがどんなに辛くたって。

 でもまぁ、生きるのが本当に嫌で嫌でたまらないのかというと、そんなことはないんだけど。ただぼんやりと“なんとなく嫌だなぁ”って思うぐらいかな。

 でも子供の頃は、こんなこと思わなかったのに。たぶん、“生きるのがちょっとだけ嫌”って思うよりも“明日はいいことがあるかも”って信じていたからだと思う。


 小さい頃の夢は、野球選手だった。早く大人になって世の中の役に立ちたいと思っていた。大人ってかっこいいものだと思っていた。やりたいことはなんでもできると思っていた。

 でも、大きくなって、野球選手にはなれないんだと分かった。大人になって世の中の役に立つのは難しいことだと知った。大人がかっこいいものじゃないと気づいた。できることよりもできないことがずっと多いと思い知らされた。

 それで、“これがいい”と言うのよりも“これでいい”と思うことの方が多くなっていった。

 小さい頃に思っていた“理想の自分”を思い出すと、胸がちくりと痛くなる。あのとき低い目線から見上げていた“かっこいい大人”に、僕は全然なれていない。妥協して、迎合して、媚びへつらって、なんとか僕は毎日を回している。

 たぶん、毎日ちょっとずつたまっていく嫌なことと、昔の自分の期待が重たいから、生きていくのが辛いんじゃないかな。相手に妥協するのは嫌なことだし、妥協している自分は“かっこいい大人”なんかとはかけ離れている。

 毎日たくさんある大変なことや、繰り返さないといけないつまらないことや、おもしろいこともない日常や、周りにあわせて妥協している自分が、“生きるのが嫌”って感じている原因なのかな。


 はぁ、やっぱりちょっと憂鬱な気分だ。こんなこと寝る前に考えるんじゃなかった。こういうときには毛布を頭からかぶると、ちょっと眠りやすくなる。

 そうやって目を閉じると、なぜだか前に友人が言った言葉を思い出した。“本当に今の世の中って、そんなに生きづらいのかなぁ?”っていう言葉。

 やりたくないことだっていっぱいやらないといけないけど、そんなの一週間もたてば忘れてしまう。できないことがあったって、それはどう頑張ってもできないんだから仕方がない。ちょっとやそっと嫌なことがあったって、ご飯は美味しい。別に僕らの気分なんてお構いなしに、青空や夜空はきれいなものだ。

 なんてことを言っていた。ちょっとずれているような気がするけど、でも世の中ってそんなものかもしれない。

 目の前にあるから物事は大きくて大変そうに見えるけど、しばらく時間がたってみれば案外どうでもいいようなことだと気づかされることだってたくさんある。

 相手が悪いと決めつけていたことでも、落ち着いて考えてみたら自分も悪かったりする。

 自分にできないことがあると、それこそ自分だけがとてもダメな人間に思えてしまうけど、結構みんなそういう思いは持っているみたい。できないことって、案外お互い様だったりもする。


 結局、世の中に対して僕は真面目に考えすぎているのかもしれない。“もうちょっと気楽に生きてみよう”なんて思ってみてもバチは当たらないんじゃないかな。

 面倒くさいことには、ちょっとぐらいは手を抜いてみたりしたっていいのかもしれない。理想通りの自分じゃなくたって、それはそれでいいんじゃないだろうか。上手くいかないことがあったって、次があるって考えてもいいじゃないか。


 ふと気が楽になった。

 今日はもう寝よう。いい夢が見られそうだ。 



 明日が、いい日でありますように。


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