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物語  作者: 出門 陸
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あべこべのピトス

 地球上のあちらこちらで、人類は戦争をしていました。今まで行ってきた様々な開発のせいで地球環境が悪くなって、水や食べ物や住むところが足りなくなったからでした。

 そういったふうに地球上で、人類はお互いのものを奪い合う戦争をしていました。




 そんな中、宇宙人が地球にやってきました。人類に対してとてもとても友好的でした。

 しかし、万が一にも侵略されると大変なので、地球の国のリーダーたちは、一旦戦争をやめて、宇宙人への対応をみんなで相談しました。

 本当にひさしぶりに、国の垣根を越えて人々が武器を持たずに話し合いました。

 連日夜を徹して行われた会議の結果、彼らは宇宙人を歓迎することにしました。もちろん、混乱が起こったりしないように、宇宙人のことは一般の人には公表しませんでした。


 歓迎を受けた宇宙人は大変喜んで、地球の人々の悩み事を解決してあげることにしました。

 国のリーダーたちは、壊れてしまった地球環境を元に戻す手助けをして欲しい、と頼みました。

 宇宙人は、天気を操る技術を人類に教えました。これで地球環境を元に戻すことができると言いました。

 早速国のリーダーたちは「科学者たちの努力で人類を救う技術ができたので、争いをやめて世界中みんなで協力しよう」と大々的に発表しました。

 これからはもう争わなくてもいい、と世界中が大喜びしました。




 それからというもの、世界は一丸となって天気を操る技術の実用化に取り組みました。技術も資源も人材も、ありったけのものをつぎ込みました。

 そして、何年もの後に、とうとう、“壊れてしまった地球環境を元に戻すための技術”が完成しました。これでもう戦争なんてしなくてもいい、と世界中が大喜びしました。


 天気を操る技術で、地球環境は少しずつよくなっていきました。上がってしまった地球の温度を下げて、気候が変わってしまった場所を元に戻して、地球はかつての美しい姿を取り戻していきました。

 人々が水や食べ物や住むところに困ることはなくなりました。国のリーダーたちは、宇宙人にできる限りのお礼をしました。




 あるとき、この技術があれば自然災害を防げるのではないか、と考えた人がいました。台風の進路を変えたり、大雨を降らせる雲を消したり、日照りが続くところに雨を降らせたりすれば、と。

 それはいい考えだ、と多くの人が思いましたが、しかしその意見はすぐには採用されませんでした。


 というのも、その頃になると“誰が天気を操る技術を管理するのか”ということで、また世界で争いが起こり始めていたからでした。

 天気を操ることができれば、干ばつや豪雨などを起こして自分に都合の悪い国を攻撃することもできます。

 この技術が原因で争いが起こるので、“地球環境は元に戻ったからもうこの技術は必要ないんじゃないか”と考える人が出始めていました。


 しかし、この技術を実用化するために世界中が多くのお金や資源を使ったのも事実でした。

 だから、この技術をなるべく長い間使いたい、と考える人がいるのも自然なことでした。


 結局“人の命が最優先だ”という理由で、この技術は自然災害を防ぐためにも使われるようになりました。

 半分ぐらいの人が喜んで、半分ぐらいの人が不安になりました。




 技術のおかげで、世界の自然災害はほとんどなくなりました。しかし、技術は完全なものではないので、ときどきどこかで災害が起こってしまいます。

 その原因が技術の不具合なのか、単なるミスなのか、それとも意図的に行われていることなのかを確かめる術を、多くの人は持っていませんでした。国のリーダーたちも、自分に秘密で他の国が手を組んでいるのではないか、という疑いを抱くようになりました。


 そして、どこかの国で災害が起こる度に政治的な衝突が国家間で起こるようになりました。

 国同士でお互いの腹の内を探り合う、昔のような状態に戻っていきました。

 それはやがて、戦争に発展していきました。自分と仲の悪い国がいい気候に恵まれているのに、自分は大きな自然災害に見舞われたある国が“これは自分の国が密かに攻撃されているに違いない”と考えたからでした。





 その戦争で、世界は大きく三つの勢力に分かれて争いました。それぞれの国に味方する勢力と、戦争を傍観している勢力がありました。

 せっかく奪い合う戦争をする必要がなくなったのに、疑心暗鬼に陥ってまた戦争を始めた人類を見て何を思ったのか、宇宙人は地球を去りました。


 戦争が激しくなるにつれ、世界中に影響が出てきました。今まで資源を輸出していた国や、機械を造っていた国、農作物を作っていた国などが戦火にさらされて、流通が滞り始めたのです。

 また、多国籍企業の海外拠点も影響を受けて、世界中の経済が混乱しました。物価が乱高下して、多くの人が生活に困りました。

 こうなると、どの国も傍観しているわけにはいかなくなりました。初めは二国間だけのものだった戦争は、世界を大きく二分しての争いになりました。


 この戦争の手段は、互いの国をミサイルや砲弾で攻撃するだけではなくなりました。天気を操る技術を使って、台風や大雨を相手にぶつけてやることもできたのです。

 最初は“本来は人類全てを幸福にするための技術を戦争に使うのはおかしい”と使うことに反対している人たちも多くいました。しかし、実際に使ってみると非常に強力だったので、“戦争の早期終結のためにはやむを得ない”ということになりました。

 そのため、戦争の目的は次第に“天気を操る技術を自分たちだけで管理すること”、“相手から天気を操る技術を奪うこと”、“天気を操る技術で相手を叩きのめすこと”へと移り変わっていきました。二つの陣営は、天気を操る技術を奪い合うのに必死になりました。

 そして、自分の手元に技術がある間は、ありったけの自然災害をぶつけて相手の国土を徹底的に叩き潰そうとしました。


 そうして戦争は、地球環境をめちゃくちゃにしながら続きました。せっかく元の美しい姿を取り戻した地球は、以前にも増してひどい有り様でした。




 そんな戦争のさなか、あるとき一方が天気を操る技術を相手から奪おうとして、誤って壊してしまいました。

 壊れてしまった天気を操る技術のせいで、地球全土をかつてないほどの災害が襲いました。嵐や大雨や日照りや豪雪や温暖化や寒冷化などが、世界各地で一斉に起こりました。






 そして、地球全土を襲った大災害が収まったとき、人類はもういませんでした。生気のない地球だけが、あとには残りました。


 荒れ果てた大地に植物が再び芽生え、やがて命あふれる美しい姿を地球は取り戻すのですが、それはずっとあとの話です。

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