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振り返れば奴がいない


「お断りします! 痛いのは嫌です!」

 レオンは言うも、拳を握り締めて繰り出してくるその魔族を素手で受ける。両手を押さえて、ぎぎぎと力比べをする。

 それを見て更にその魔族は苛立ったように、

「嫌だといって止める奴がいると思うか! さっさと抵抗を止めろ!」

 だからといって大人しくやられる奴はいない。加えて、相手はレオンだった。

「無理矢理はいけないと思います!」

「何の話だ!」

「卑猥な話です!」

「更に悪い! 気持ち悪い事を抜かすな!」

 としばらくぎゃあぎゃあ話して、二人はその状態のまま黙る。

 その沈黙を破ったのはレオンが先だった。

「……何故俺が殴られなければならないのですか? だって初対面ですよ?」

 その問いかけに、ふんとその魔族は見下したように笑って、

「分からないのか? 自分がどれほど酷い仕打ちを私にしているのかを!」

「えっと、初対面ですよね」

「初対面だ。だが、お前の事は話を聞いて知っている。情報収集は基本だからな」

「はあ、それで、どのような理由で?」

 それに深々とその魔族はため息をついて、それから、

「……お前と私はキャラがかぶっているんだ」

「………………('・ω・`)」

「そんな顔をするな! こっちは死活問題なんだ!」

「いや……そうか、うん。でも別にそれほど迷惑かけて無いんじゃ……」

「一見そう見えるだろう? でもだな、アピールポイントって大事なんだ」

 レオンは、はっと思い当たる。

「まさか……お前もカノンを……」

「呼び捨て……呼び捨てだと? 死ね!」

 怖ろしい程の魔力と殺気に、レオンは命の危険すら感じて、けれど戦おうと剣に手をかけるが、

「レオン! こんな所に居た! 」

 そんなカノンの声に、レオンが来るなと叫ぼうとして、どうしてか魔族の殺気が瞬時に治まる。

 よく見ると、目の前の魔族が顔を真っ赤にしてカノンを凝視している。

 そしてカノンの目がその魔族を捕らえた途端、その魔族は脱兎のごとくカノンと反対方向に逃げ出した。

 それを呆然と、見送ったカノンはポツリと呟く。

「僕はそんなに怖いのか?」

「いや、カノンがモテモテなだけだと思う」

「は?」

 間の抜けた声をあげるカノンに、レオンは苦笑する。

 本当にカノンは自分がどういう風に見られているのか分かっていないから困る。

 その方が、レオンには都合が良いといえば良いのだが。

「……あいつか」

 当のカノンはといえばじっと、先ほどの魔族の逃げていった方向を見ている。

 それが何処となく深刻そうで、レオンはチャンスとばかりに駆け出そうとして、カノンに足を引っ掛けられた。

「レーオーンー。逃げられると、本っっっ気で思ったの?」

「えっと、もしかして怒っていますでしょうか?」

「これから寝るまでお説教タイムだ。素敵な子守唄だろう?」

「いーや―――!」

 誰もいない廊下に、レオンの悲鳴がこだましたのだった。


「うう、いやだ。お説教は……むにゃむにゃ」

 しくしくと泣いたように寝言を呟くレオン。

 ちょっと言い過ぎたかな、と起き上がってカノンはレオンを見るが、その無防備な寝顔に体の血が騒ぐ。

 美味しそう。

「……いや、駄目だから。というか、昼間のあれ見ておいしそうとか無いから」

 そう自分にカノンは言い聞かせる。

 現在深夜二時を回った所。ダブルベットなので、カノンはレオンと寝ていた。

「うん、カノンちゃんはレオンとだね!」

 イオと一緒に寝ようと言ったらそう言われてそうなってしまった。

 お互い右端と左端に眠っているから、別にどうということも無い。

 無いはずなのに、どきどきしてカノンは眠れない。

 そんな折に、魔力を感じた。それを読み取って、カノンはレオン達に見せた事の無い冷たい表情になる。

「招待されたのだから、いくとしよう」

 そう呟いて、レオン達を起こさないようにこっそりとベッドを抜け出す。

 そんなカノンが部屋を出てすぐに、レオンがまぶたを開いた事など気づきもしなかったのだった。


 欠けた月の青白い光が降り注ぐ庭園。

 そこに昼間レオンとやり合っていた魔族が立っていた。

 強い魔族らしい……何処か高貴で、自信に溢れる特別な者。その美しさに普通ならば見惚れてしまうだろう。だが、

「それで、僕をこんな所に呼び出してどういうつもりだ?」

「少しお話をさせて頂きたかっただけです。魔王様」

 その言葉に、カノンの目がすっと細くなる。

「……武器や魔族の兵の準備等をしているかみたが……」

「ありましたか?」

「非常に上手く偽装されていた」

「ばれてしまいましたか。さすがは魔王様、といった所でしょうか」

 あっさりと認めてしまうその魔族に、カノンは冷たく告げる。

「逆らうつもりか? この僕に」

 その問いかけに、怯える所かむしろその魔族は笑みを深くして、

「……本当は興味が無かったのです。僕はまだ名前を襲名していないのですが、父が貴方の父君に懸想をしていた事もあり、準備をしていたのですが……気が変わりました」

「それで、逆らうつもりか?」

「……貴方を追い落とすつもりはありません」

「信用しろと?」

「逆らうつもりならば、とっくの昔に貴方の大切な勇者達と共に葬っていますよ?」

 そう、何処かおかしそうに残酷な事を口にする魔族。

 確かに言われたとおりだが、レオン達が殺されると聞いてカノンの中から殺気が湧き出てくる。

 そこで彼は、笑うのを止めて真剣な表情になった。

「そんなに勇者達といった人……光がいいですか?。同胞の闇ではなく?」

「何の話だ?」

 意味が分からないと思い、聞き返す魔王を彼はじっと見て、ふうっとため息を付いた。

「分かりました。僕にもまだ、可能性は残されているという事ですね。所で魔王様、僕はまだ名前を襲名していないので、リンツとおよび下さい」

「……リンツ、か。分かった、覚えておこう」

「それでは、今日ですね、勇者達と茶番をいたす事にしましょう」

「……そういえば昼間、やけにレオンに突っかかっていたがどういうことだ?」

「似たもの同士なので衝突した、それだけです」

「そういうものなのか?」

「そういうものです。それでは失礼させていただきます、魔王様」

 と、去ろうとするリンツ。けれどすれ違いざまに魔王の頬にキスをする。

「な?」

「本当に可愛らしいですね、魔王様」

 何処か楽しそうに笑いながらリンツは去っていく。

 カノンは、リンツの触れた頬に手を当てる。

 まだ感触が残っている。何なのだこれはと、人よりも長い時を生きたカノンは思ったのだった。


「あれ、君、いたの?」

 知っていたくせにとレオンは舌打ちする。そして牽制も忘れない。

「カノンに手を出すな」

「まだ君のものでは無いでしょう?」

 冷たい火花が散って、けれどレオンのほうが先にきびすを返す。カノンが戻る前にベッドにいなければならない。と、

「君もほどほどにした方がいいよ?」

 そう忠告されてレオンはふりかえると、そこにはもう誰もいなかった。

 それを見て、もっと強くならなければとレオンは心の中で思ったのだった。

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