シリアスは歩いてくる?(2)
「うーん、困ったね。イカサマしたのに負けちゃった」
ホーリィロウが全然困っていないように頬をかく。深刻そうな雰囲気は一切見て取れない。
ちなみに彼の目の前に座っているカノンは、肩透かしを食らっていた。
「……普通に屈折を利用して全てのカードを見ているだけですか?」
「じゃあ君ならどうする?」
楽しそうに聞いてくるホーリィロウに、カノンは笑って肩をすくめる。
「全部同じ柄のカードで神経衰弱、加えて僕が先行かな?」
「……それはゲームにならないよ?」
「僕は安定志向なんです」
仕方ないな、とホーリィロウは微笑んでレオンを見た。
「カノン君は君達のものだよ。今回は僕の負けだね」
「……こういった事はやめて欲しい。特にカノンに……」
「いや、凄く魅力的だからね。“幼馴染”だったっけ」
ふふと獲物を狙うような目でカノンを見た。
そんなカノンをやらないぞというようにレオンは後ろから抱きしめる。
そんな二人の心情などカノンは全然気付かず、本当にレオンは仲間思いだなと思っていた。
二人はカノンの心中など知らず、レオンはホーリィロウを睨みつけて、
「それより、もう金輪際近づくな。でないと悪評立ててやる」
「いや、僧侶を惚れさせた君が悪いだろ。戦士は僧侶の事が片思いなのに」
さらっとホーリィロウがばらして、戦士が噴出した。
「ホーリィロウ様、何故ばらすのですか?」
「いや、レオンに僧侶が一目惚れするとは思わなくて。戦士がレオンに下手に突っかかられても困るし」
「しかし……」
「……いいね」
ぴりりとした殺気が放たれて、戦士が黙る。
その殺気にカノンは酷く反応してしまうが必死で抑えた。
今すぐ狩るか、といった衝動があるものの、レオンに後ろから抱きすくめられる力を強くされて、無理、と思った。
なんだろう、レオンが触れているだけでカノンはどきどきする。
それを悟られる方が怖い。と、
「まったくカノンがいるから、お金の管理しなくて楽なんだから、やらない」
「それが理由か!」
下からパンチを繰り出すも、それをレオンは容易に避ける。
「はははは、遅い、遅いぞ!」
「く、着々と逃げる能力だけ上がってる。だが……」
カノンは暗く笑った。
まさかそんなどうでも良い理由で引き止められているとは思わなかった。
がんばった……いや、それほどがんばったわけではないが、そんな自分が馬鹿みたいだ。
だから、憂さ晴らしさせてもらおう。
「いいだろう、その腐った性根を根本から叩きなおしてやる!」
そう、土煙を上げつつものすごい速度でカノンはレオンを追いかけていったのだった。
後に残った、イオとトランの二人はそれを見送って。
それからくるりとその有名な勇者ご一行にイオは言った。
「ついでですので、その酒樽を一つ譲っていただけませんか?」
「は! 美人な気がする、そこの綺麗なお姉さんて……」
「あらん、わ・た・しの事?」
後ろから見た時には分からなかったが、振り向いた顔は、明らかに男で、美形で無くて、女装しているのはまだ許せるとして、全体からかもし出される雰囲気も含めてレオンは本能的に感じた。
こいつは攻めだと。
「チェ、チェンジで……」
「ふふふふ、最近ここら辺を騒がせている美形の変態勇者さんが引っかかったわ。お持ち帰り~♪」
「やめ、俺は受けじゃない!」
しかしすぐにそのお姉さんのようなお兄さんの肩に担がれてしまう。
「大丈夫、誰もが初めはそう言うのよー。すぐに可愛がってあげるわねー」
「……何故に女言葉」
「馬鹿が引っかかるからよ、うふ」
「いやー、あ、カノン助けて……」
雨の中の子犬のような目で、カノンに助けを求められるが、カノンはにこやかに手を振った。
「ザマーミロ」
「ひ、酷いって……カノンに手を出したら許さないぞ?」
そこで、お姉さんのようなお兄さんがカノンをレオンとは違う方の肩に担ぎ上げる。
敵意が無いの油断したカノンはじたばたと暴れる。
「ちょ、何で僕まで担がれて……」
「あー、物騒なものに手を添えないでね勇者様。心配しなくても依頼が有って……俺はギルドの者だよ」
と、そのお姉さんのようなお兄さんは告げたのだった。
ギルドは、一言で説明すると依頼を受ける場所である。元々キノコの魔物を倒したので、依頼達成としてお金を貰いに行く必要がカノンには有ったので手間が省けた。
簡素な応接間に通されて、香りの良い紅茶が出された。
「最近、美人さん達が攫われる事件が多発していてね。あの格好で引っかからないかと試していたのだ」
「……心臓に悪いのでやめてください」
「実は結構君、タイプなんだよね」
レオンがカノンの後ろに隠れた。それはいいとして、
「それで僕達に何を?」
「ああ、魔王の配下、四天王が一人風の王が住まう城があるのだが、そこにいる美人さんを帰して欲しいんだ。一応勇者だし、この位だったら、かの魔族に相手してもらえると思うんだ」
「生きて帰ってこられるレベルだから、ですか」
「評判は散々だが君達のレベルは中々のものだよ。そうすれば、人買いの方の対処に専念できる。本当にここは小さな町なので人手不足なんだ」
はあと溜息をつくお姉さんのようなお兄さんにカノンは頷いた。
「僕達でよければ、ぜひ依頼を受けさせてください」
「助かるよ、依頼料はこれくらいで?」
提示された金額も、中々良い。というか凄くいい。これで当分宿代と食費に困らない。
神様ありがとうとカノンは思った。
ちなみにカノンは魔王である。
「……本当に俺達のレベルでどうにかなるのか?」
レオンが珍しく、真剣な表情で聞き返す。
お姉さんのようなお兄さんは、数回目を瞬かせて、意味深に笑った。
「……大丈夫ですよ。貴方方なら」
「カノン、依頼を断ろう。止めた方がいい」
それにカノンは必死になって首をふる。せっかくのチャンスなのだ。こんな機会めったに無い。
「嫌だよ、お財布係の僕は、見過ごせないよ」
「いいから止めろ」
「何で急にそんな……僕は受けるよ。ここにサインすればいいんだね」
とレオンの反対を押し切って、サインしてしまう。
「はい、契約成立ですね。もし破ると違約金がかかるので、注意してください」
「……わかった」
レオンが珍しく溜息をつく。
けれど、これはカノンにとって渡りに船なのだ。だから、逃すわけにはいかなかった。
「カノンちゃん、レオンもお帰り。お酒分けてもらって、作っている最中だよ」
「……イオ、一つ聞いてもいい?」
「なぁにー」
「……僕が夢を見ているのかな、樽の半分ぐらいまでお酒が減っているんだけど」
「夢じゃないよー。さっきトランと飲み比べして、僕が勝ったからねー」
「商品に手を出してどうするんだ……そういえば二人がお酒大好きなの忘れてた。はあ、原料だけだと買い叩かれるんだよな……でも他に代わりが無いから、いけるか?」
そう、キノコの山を見詰めてカノンが嘆くと、イオが唐突にカノンに襲い掛かった。
「酒は飲めども飲まれるな……てね」
「や、ちょっ樽ごとは……らめぇ――――!」
カノンは樽に放り込まれた。ざぶんと酒が飛び散る。これでもう酒は使えない。そもそも、
「大丈夫か、カノン?」
笑い転げるイオを尻目に、レオンが様子を見ると、酒に漬かったカノンがレオンを見上げた。
その顔には妖艶な笑みが浮かんでおり、レオンは目を離せなくなる。
次の瞬間、カノンがレオンに手を伸ばして自身に引き寄せてキスをした。
突然の事に慌ててレオンは逃げようとするもカノンは放さない。
何度もちゅっちゅと唇が触れて、レオンは自分の体に力がはいらなくなる。
そしてそのままぐらりと倒れこみ、レオンは意識を失う。
それを見届けたカノンはくすりと笑い、唇を舐める。
「ごちそうさま」
そういつにも増して色香を漂わせながら、カノンは倒れこんだのだった。
ちなみの事の顛末は、酒に全員が酔っていたため記憶に無い。
また、次の日、カノンが何故酒を飲ませた、酒は苦手って言ったのにー、とイオを責めたのは言うまでも無い。
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