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シリアスは歩いてくる?(1)

 宿に戻ってからふとトランが思い出した様に付け加えた。

「そういえばあのキノコ、酒につけて売ったほうが高く売れるんだよな」

 そんな訳で手分けして、酒と漬けるための瓶を買いに行ったわけだが。

「酒が売り切れ?」

 すぐに任務から脱出しようとするレオンの襟首を掴みながら、カノンは酒屋の親父さんから聞いて首をかしげる。

「……お酒は作るのに時間がかかりますよね? それがこれから数ヶ月無いって……何故売り切れなのですか?」

「いや、なんでも有名な勇者御一行の戦士が無類の酒好きらしくて、全部買い占めていってね」

「全部買い占めてって……樽の跡を見た限り、20以上……」

「ちなみに二段に積んであったんだがね……」

「それ、全部一人で飲むのですかね?」

「そう言っていたな」

 親父さんとカノンは沈黙する。どう考えても人間の体に入る量じゃない。

「まあ、有名な勇者様達だから、そういう事もあるのだろう。じゃあそろそろ店を閉めるから……もしも五日後でいいなら、隣町から仕入れて数本は用意できるが?」

「あ、いえ、そこまではいいです。ありがとうございます」

「そうかそうか、所でお嬢さんは、ここにいつまで滞在するんだい?」

 唐突にお嬢さんといわれてカノンは、目が点になる。

「あの、僕は男なんですが」

 その言葉に、親父さんはえっという顔をして慌てたように、

「え? あ、いやすまない。あまりにも別嬪さんだったもので……最近美少年やら、美少女やらが攫われる事件が多発していてね。その半分は魔族の仕業らしいが……」

「残り半分は?」

「人買いだよ。そういうのは魔族にも貴族にも高く売れるからね。それに最近、そういった美少年やら美少女所か、年をいった人まで声をかける変態勇者が出るそうだから気よつけたほうがいい」

 最後の下りはうちの勇者ですとは言えず、カノンは黙って頷いた。

 そして、ふと自分が掴んでいたレオンの襟首がやけに軽いことに気付く。

 よくみると、服だけになっていた。

「あーいーつーはー」

「さっき、こそこそ上着だけ脱いであっちに行ったから、今から追いかければ間に合うんじゃないかな?」

「教えてくださいよ!」

「いや、何となくこの前、妻に趣味で高い模型を買ったことがばれた時に似ていて、つい」

 とりあえずカノンはありがとうございました、と酒屋の親父さんに挨拶して走り出したのだった。

 そんなカノンを見ている人影に、カノンは気付きつつも無視したのだった。


「お前のようなのが勇者だと? 笑わせるな!」

 ちょっと大き目の通りに人だかり。それと怒声。

 カノンは非常に嫌な予感を覚えて、人だかりを覗き込むと、案の定レオンが居た。ついでにイオとトランもいる。

 大きい野生的な筋肉質の男、背中に巨大な斧を背負っている。その男が今の言葉を発したのだが、それに対してイオが食って掛かった。

「そっちこそ、そんなヒョロヒョロのにこやかな勇者で大丈夫なんですか!」

「お前……ホーリィロウ様に、なんて事を!」

「ふん、レオンの事を馬鹿にする奴は僕が許さない。トランもそうでしょう?」

「ああ、貴方方にとってはレオンは矮小な存在に見えるかもしれないが、これでも我々の大事な勇者です」

 これでも、という言葉に反応したレオンだったが、

「所で魔法使いはいないのか?、やけに美人だという話だが?」

「ここにいますよ!」

 カノンは人だかりを飛び越えて、一番前面にすとんと飛び降りる。そこで、戦士が少し殺気立つ。

「魔物……か?」

「ハーフです。所で僕は途中からですので何があったのか教えていただけますか?」

「そこの勇者が打ちの僧侶をナンパしたんだ」

「ごめんなさい。跡でたっぷり言い聞かせておきますので、許していただけないかなと……」

「許せるか! 見ろ、僧侶の奴が怖がっているじゃないか!」

 指差す先には白装束を纏った、くすんだ銀髪の少年が、彼らの勇者の後ろで顔を赤くしてレオンを見ている。

 その子は、カノンと目が合うときっと睨みつけて、俯いた。

 これはひょっとして?。

「……もしや、僧侶の方はレオンに一目ぼれを……」

「するわけが無いだろう! あいつが大人しいからって好き放題やって……」

「レオン、あの子に何やった?」

それにレオンが困ったように、

「いや、道を聞かれただけだが……」

「よくそんな嘘を!」

 憤る戦士を、そこで勇者ホーリィロウが宥めた。

「まあまあ落ち着いて。僕達だって鬼じゃない。その償いをしてもらえればいいさ」

「償い……なるほど、そちらが本来の目的ですか」

「人聞きが悪いな。僕は君に仲間になって欲しいのに」

 そう、ホーリィロウがカノンに手を伸ばす。それを人影が遮る。

「レオン?」

「……カノンは俺の“幼馴染”で仲間です。貴方にお渡し出来ません」

「君はそうかもしれないけれど、カノン君か、彼はもしかしたならこっちが良いかもしれないよ?」

「お断りします」

 カノンは、ホーリィロウを見て即座に言い切った。

 それに、レオンはちょっと驚いたような顔をして微笑んだ。

 対するホーリィロウは相変わらず不気味なほどにこやかなままだ。

「これで話は終わりです。それでは……」

 そういってカノンの肩に手を回して背を向けるレオン。

 肩に手を回された時、必然的にレオンにくっつくような形になり、レオンの体温を少し感じてカノンはどきりとした。

 そこで、カノンの腕が引っ張られる。

「僕に触るな!」

 とっにカノンは振り払った。目がホーリィロウと合う。

 その瞳に宿る不穏な気配に、自然とカノンも挑戦するような好戦的な気配を瞳に宿す。

「……やっぱり君はそういう顔の方が綺麗だね」

「お褒め頂ありがとうございます。それでは僕は失礼します」

「でも、僕達に喧嘩を売って、ただで済むと思っているのかい?」

「そちらが仕掛けてきたのでしょう?」

「さて、何の事だか。……けれど、僕たちが本気を出せばどうなるか分かっているでしょう? レオン様?」

 名前を呼ばれて、レオンが立ち止まり振り返って睨みつける。

「……それで、俺達にどうしろと?」

「カノン君を賭けてゲームをしないかい?」

「生憎だが、カノンを商品にするつもりは無い。カノンは物では無いしね」

 レオンが問題外だと言い切る。少し怒っているようだ。

 でも、こういう時の顔をカノンは今まで見たことがなかった。

 思いのほかしっかりしているというか、頼りになるというか……。

 こんな顔で口説かれたら、誰でも一発で落ちるだろうに。

 本当にレオンは残念だよなと、人事のようにカノンは思った。

 そして、カノンの事を物じゃないからとかまったく、だが本当に仲間思いなレオンにカノンもほんの少しだけ手助けしたくなる。

 きっと、ここで敵対するのはレオンにとっても良くないだろう。だから、

「いいよ、僕が相手になってやる」

「カノン!」

 レオンが慌てたように叫ぶ。そして、イオも、

「カノンちゃん、考え直したほうが良い。あいつらの仕掛けてくるゲームってカードゲームなんだけど、今まで殆ど負けたことが無いんだ」

「ふーん。カードゲーム、ね。イカサマしているって事?」

「それは俺を侮辱しているのか?。そんな事せずとも光の神の加護を受けている僕達には、そんなものは必要ない」

 そう自信満々に言い切るホーリィロウにカノンはふふと笑った。

 それに、カノンは不敵に笑い返す。

「イカサマを見つけたら、貴方の負けですよ?」

「余裕だね。それだけ自信があるのかな?」

「ええ、もちろん」

 カノンと心配そうな、イオとレオン。そこでトランが、

「カノンが大丈夫だといっているんだ。何か考えがあるのだろう。今まで旅をしていて、言ったことだけは必ずやる奴だと俺は知っている」

 その言葉に、イオとレオンが黙る。

「話はまとまったかな?」

 微笑みかけるホーリィロウ。

 そんな彼がカノンには滑稽で仕方が無い。

 今自分が相手にしているのは誰だと思っているのだ?。

読んでいただきありがとうございました。


あと一回今日は更新できるかな?

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