子供はつらいよ(2)
レイルは怒りに震えていた。
アレほど初心な雰囲気を纏ったトールに触れた初めての男が自分で無いなんて。
自分だけのものにしたかったのに。けれどあの上手なキスも他の男が仕込んだものだったのだろうか。
そう考えると、レイルははらわたが煮え返るようだった。
許せなくて許せなくて、けれどトールのことは諦め切れなくて。
トールの全てをレイルは自分自身で塗りつぶしてしまいたかった。
そんな事を考えていたためか、いつもなら負わない怪我を負って瀕死の重傷を負ってしまう。
「死なないで!」
そう叫ぶトールの姿に、レイルは笑みを零す。声を出す事もできず、小さく唇で『愛している』と呟くと、トールが大きく目を見開いたようだった。
伝えるべきことは伝えたと、レイルはそのまま意識が徐々に薄れて……次に目を覚ました時には、自分のすぐ傍にトールが眠っていた。
その顔がとても綺麗で、そういえばトールの顔をこんなにまじまじと見たのは久しぶりだと気付いた。
そこでその双眸が揺れてゆっくりと目が見開かれる。
その瞳がレイルを映した瞬間、大丈夫ですか、レイルと叫んだ。
その様子があまりにも切羽詰っていて、そして、些細な事に嫉妬していた自分にレイルは笑ってしまう。
「僕は……本当に、貴方が死んでしまうかと……」
「ごめん、トール」
そんなトールにキスをして、首につけていた首輪を取る。もう、こんなものは必要ない。
レイルは決めたから。
「トール、今更だが、私の恋人になってくれないか?」
「……その前に、『愛している』と言ってもらえませんか?」
ねだるように微笑むトールに、レイルは勝てないなと苦笑して、
「愛しているよ、トール。だから私の恋人になってくれ」
「はい。僕も貴方の事を愛しています、レイル」
そう、レイルとトリューカースは唇を重ねたのだった。
「僕には幼馴染の四人がいまして、その四人の誰かと子をもうけなければならなかったのです。けれど結局四人とは出来なくて」
彼らはその時は優しくしてくれた。いy、そのときまでは優しかったと思う。
結局、女性の魔族との間で子を産み、そして彼女にもそれだけの関係だからと言い切られた。
本当は彼女の事が、少しだけトリューカースは好きだったからそれはとても辛かった。
そんな、悲しそうなトリューカースをレイルは抱き寄せる。
「そうか、辛い事を聞いてしまった」
「いえ……その後、その四人にそれでも愛していると軟禁されかけて、それ以来ずっと引きこもっていたのですが、貴方に惹かれて出て来てしまいました」
「そうか……その四人に報復を」
「……一応幼馴染なのです。昔からずっと遊んでいた……だから、酷い事をしないでください」
ただし遊んでといったお願いをするたびに、彼らも自分の願いをかなえるよう要求した。
あの四人の誰と比べてもトリューカースは弱かった。
それでも優しかったのだ、昔は。
遊ぶ代わりにキスをねだられて、幾度となくそれをした。
決定的な亀裂は、彼らの別荘に軟禁されかかった事。
「貴方が悪いのです。我々の四人の中から選ばなかったから」
劣情と怒りと悲しみが入り混じった声。
そこまで自分を何故求めるのか、魔物だから魔王に惹かれている、ただそれだけのはずなのに。
そんな憂いだトリューカースび優しく囁きかけるように、レイルはいった。
「なら、これからのお前の未来は、私のものだ。もう誰にも渡しはしない」
「うん……」
レイルの盛大な告白に、トリューカースは本当に幸せを感じて優しく微笑んだのだった。
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