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仮題「さて、事の次第を話そう(4)」

 これは、カノンとレオンが魔王城で暮らすようになった頃のお話。


「な、何て事だ……」


 カノンは、ある本を読みながら肩を震わさせていた。

 その黒い背表紙の本をこの前からやけに熱心にカノンが読んでいる事をレオンは知っていたのだが、内容に関してはぐらかされてばかりいた。

 正確には、はぐらかされたのを口実に、レオンはカノンをベットに引きずり込んでいたから、それ所ではなっていたからなのだが。

 とはいえ、気になったので試しにレオンはカノンに聞いてみる。


「どうしたんだ? カノン……どうして椅子に座ったまま後ずさる」

「こ、この前からこの話題をすると、必ず……するじゃないか」

「良いじゃないか。別に、夫婦なんだし」

「う、それは……うう……」

「それで今日は話してくれるのか?」


 レオンは微笑みながら告げると、カノンが顔を青くする。

 小さくぷるぷる震えているカノンも本当に可愛いなと、欲情しながらレオンが見ていると、


「……歴代勇者と魔王の記録だ」

「……何で今更そんなものを?」


 いぶかしそうに見てくるレオンにカノンは、


「まあ、あれだ。一応昔の記録を見て、色々参考にしようかなと」

「参考?」

「勇者と魔王の関係かな……」

「……今までバットエンドばかりじゃなかったのか? レイルさんとトリューカースさん以外」

「そう、父様達以外はそうなんだけれど。それでもどうやって暮らしていたか、とか、ほら……人間との生活って、どうやっていたのかなって。レオンとこれからもずっと一緒に生きていくんだし」


 そう恥ずかしそうに頬をかくカノン。

 その様子に、レオンは理性の糸が切れそうになるのを必死で絶えていると、そこで珍しくカノンがにやりと笑った。


「とはいえ、とても有意義な話も見つけられたんだけれどね」

「? どんなだ?」

「そうだなー、例えば……レオン、僕に手を出してくれないかな?」


 可愛らしく小首を傾げてお願いしてくるカノンに、レオンは即座に手を差し出す。

 すると、その手を見ていたカノンがある一点を見つめて、そこにそっと口付けして、軽く歯でかむ。


「あ……」


 ぞくりと、得体の知れない快感のようなものがレオンに走り、体をこわばらせる。

 それを見ていたカノンが、にたっと笑い、


「ふふふ、実は、レオンの事を“美味しそう”って思うその場所が、レオンの性感帯だと分ったのです!」

「……つまり?」

「魔物としての欲求だって思っていたけれど、こう、好きな相手にエロい事したい、ぺろぺろしたい、という欲求を、“美味しそう”と僕達魔物は思うらしい。しかも、“美味しそう”と思う場所が、好きな相手の性感帯だと分ったんだ!」

「ああ、それで今……」

「そう、これは、魔族を妻にした場合も同様に発揮されている、れっきとした特殊能力なのです!」

「という事は、“美味しそう”と思われた、つまり愛された人間は殺されないんじゃないのか? そうなってくると歴代魔王と勇者が破局した理由が分らないんだが」


 そこでカノンが物凄く嫌そうな顔をした。

 それはそれは、もう二度と思い出したくないとでも言うかのような表情である。

 けれど、すぐにカノンは深々と嘆息して、


「魔物といった魔族は魔王に影響するだろう?」

「そういえばそうだな。それで?」

「それで、魔王が勇者を好きになったとするだろう?」

「それは、まあ」

「場合によっては強靭な精神力で耐えた魔王もいたみたいだけれど、初期の頃は、愛するあまり、その“美味しそう”という性感帯を探る感情を“満月の夜”の衝動が上回り、重なって、捻じ曲げられて、恋人である勇者を殺すんだ」

「つまり、感じる場所を見分ける能力が、“満月の夜”の衝動と重なって増幅されて、殺したい、喰らいたい、というものになると?」

「そう。ちなみに、その時出る喰らい尽くしたいって衝動は、恋人が死んだら収まるらしいんだ。元々高位の人型の魔族は、人間なんて正気では食べる気なんてしないから、その恋人の前で歴代魔王は慟哭したらしい」


 その話を聞きながら、レオンは黙った。

 確かに恋人の死=愛する人がいなくなるという事で、“満月の夜”の衝動が収まるわけだが……。

 歪んだ感情が見えて、レオンは唇の端が引きつる。


「……魔王に恋人が存在するのすらも許せないとか?」

「そう。“光の神”のやりそうな事だろう? 大好きな魔王に恋人がいる事、それ自体許せないからその恋人である勇者を消したい。しかも、自分から手を下すのではなく、魔王に殺させたい」

「滅茶苦茶恨むだろう、魔王が……まさか、恨みという感情でも良いから自分に持ってほしいとか、そんなわけないよな」


 そんな、まさかそんな事を考えていたりしないよな、と思って口にしたレオンだが、カノンは肯定するように首肯し、


「憎しみという感情で満たして自分のことで魔王が一杯になるのが“光の神”は嬉しかったらしい、と、呪うような赤文字でえがかれていた」

「自分で恋人を殺したら、魔王自身トラウマになるんじゃないのか?」

「それもまた、“光の神”には嬉しかったらしい。自分以外の存在を愛するのが許せなかったらしいから。ちなみにその後は、魔王は魔族と結婚するらしい」

「……魔族は良くて人間は駄目なのか?」

「魔族は、“闇の神”の作り上げた眷属だから、元は同じものだから良いらしい。一方人間だと、“光の神”は自分の眷属である人間が、自分を差し置いて魔王のくっつくのが許せない、と」 

「俺、よく無事だったな……」


 今更ながら、レオンはそう思う。

 カノンは随分と前から、あの酒に酔ったその時からレオンに対して好意を抱いていたようだから。

 けれどすぐに、あの、ルカという自分達の孫が未来から来たから大丈夫だったのだと気づく。とはいえ、


「それでもどうしてレオンは、初めの頃見逃されていたんだろう。僕達歴代の魔王に好意をもたれた勇者は、“満月の夜”の衝動が失敗すれば、別の方法で、勇者を追い詰めて魔王に殺させようとするはずなのだけれど」

「……無意識の内に羨望があったのかもしれない」

「? どういう意味?」

「俺が、“光の神”と似ているから。自分と重ねて追憶体験をしていたのかもしれない」

「……レオンとあいつを一緒にするな。例えレオンでもそういうことを言うのは僕が許さないよ? レオンはレオンだ。それ以外の何者でもない、僕が愛するただ一人の存在だ」

「カノン……それに、あの“光の神”はすでに先約済みだろう?」

「まあ、そうだけれど……」


 小さく呟くカノン。

 そんなカノンを、レオンが近寄り抱きしめた。


「未だに、まだ夢の中にいるような気持ちになる」

「そうなの? じゃあ、僕がレオンを襲って、夢心地から目を覚まさせてあげようか?」

「……カノン」

「そもそもこの“美味しそう”って感情自体が、性感帯センサーだったなんて知らなかったよ! 気持ちよくさせてあげるから、レオンを襲う……レオン?」


 そこで黙ってにっこり笑うレオンに、カノンは気づいた。

 その微笑が、とても危険な物だと経験的に気づいたカノンは逃げ出そうとした!

だが、カノンはすぐに捕らえられてしまう。


「ま、待ってよ、せっかくこんな凄く良い事が分ったわけで、だから……」

「そんなものなくても俺は、カノンがどうされると気持ちよくて、何処を触れられると気持ちが良いのか知っているぞ?」

「そ、そんな……ひゃうっ」

「ほら、な。今日もたっぷりと気持ち良くとろとろにしてやるから、楽しみにしていろよ、カノン」

「ひぃいいいいい」


 悲鳴を上げるも、すでにレオンに捕らえられたカノンは逃げられない。

 こうしていつものように、カノンはレオンにベットに引きずり込まれてしまったのだった。

書き損ねた設定があったので、追加です。

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