また、会おう
ルカにキスされた“光の神”は全力でこの危機にどう対処するか考えていた。
触れる唇は柔らかくて心地よくて、そのまま自分から求めてしまいそうのなのが非常に“光の神”は恐ろしかった。
そこで、そうか、ルカの呪いを解けばもう少しましになるだろうと思って、唇が離れた瞬間を見計らい、“光の神”は呪いを弱めた。
そこでルカがあれっという顔をする。
「……我は一体何を」
「……私を押し倒してキスをしていたんだ。放してくれ」
そう、ルカを見ることが出来ず横を向いた、顔を赤くして何処かばつが悪そうな“光の神”が言う。
そんな“光の神”の初心な反応に、ルカがむらっと来た。
「な、何をする! ……んんっ」
再びルカにキスをされて、今度は舌が入ってきそうになって“光の神”は逃げ出そうとじたばたする。
そこでルカが唇を離した。
「……我にされるのが嫌なのか?」
「……余り私の気に障る事をすると、あそこにいるレオンを解いて新しく作り直すぞ? 所詮人間である私の道具なのだから」
嫌いとはいえなかったのであえて答えず、けれどこれをルカは拒めまいと“光の神”は勝利を確信し笑う。だが、
「どうしてそういう事をすぐ言うのか」
と、嘆息気味に言ってから、ルカは“光の神”を見てにやぁと悪どく笑った。
それに“光の神”は嫌な予感を覚えて、どうにか逃げられないかと周りを見回して、けれどすぐにルカの手で正面に顔を固定されてしまう。
そして再び“光の神”はルカにキスされた。軽く触れるだけのキスであったのだが。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ。
そこでルカが唇を満足そうに放して、ご馳走様でしたというかのように自身の唇を舐めた。
一方“光の神”は魂が抜けたように白く燃え尽きたような感じになっていた。
だが、ルカはそこで止めるつもりは無いようで、
「さーて、次はどうしようか」
「ひぃ」
“光の神”が悲鳴を上げた。
さすがにやりすぎな気がしたレオンは、先ほどの呪い解除で元に戻ったカノンと共にルカをとめようとする。
「ルカ、流石に可哀想だから止めてやれ」
「僕も一応、こいつの事は嫌いだけれど、まだこいつはルカの恋人じゃないんだから」
一瞬、“光の神”がほっとしたようだが、そこで、
「だって! こんな可愛い反応するのに! 主導権握れるのに! こんなめったに無い機会は我として……」
ルカが駄目な発言をした。けれどそこまでしか言えなかった。
「ルカ……何をやっているんだ?」
その声に、今度はルカがびくっと体を震わせたのだった。
声の主はレンヤだったのだが、顔笑っているが唇が少し引きつっている。
「ルカ……こんな事をやっていたんだな。俺は覚えていなかったが……」
「えっと、だってこんなに可愛いからちょっと位良いではないか! いずれレンヤになるんだし」
そう言い訳するルカの手を引いて、“光の神”からルカをどかす。
そしてレンヤは、“光の神”に、
「……ルカが迷惑をかけました」
「まったくだ! 何だあれは! この私に! 私に……」
“光の神”は声が小さくなってしまう。
嫌ではあったのだが、嫌でなかったというか……こういった好意を向けられて、キスされて、何処か心地良かったと思ってしまう自分がいる事に“光の神”は気づいた。
それで、チラッとルカを見ると、目が合ってにこっと微笑まれる。
“光の神”は自然と頬が赤くなるのを感じた。
そこでレンヤは囁く。
「……ルカでは駄目ですか? 俺は……ルカで無いと駄目です」
「……ルカは、苦手だ」
「ルカには、貴方は手出しできなかったでしょう? それが何故か、考えた事はありますか?」
「……出そうと思えば出せる」
「けれど出来なかった」
そう言われて、“光の神”は自分の手を見た。
確かに幾らでも如何にかできたはずなのに、そう思ってレオンとカノンカースを見る。
その二人の姿は……“光の神”には羨ましく見えて、昔の事を思い出して、カノンカースは見ていると面白いと思った。
そして、ルカに視線を戻して、けれどすぐに見ているのが恥ずかしくなって顔を背けた。
期待していないのは、嘘だ。
「……本当に、恋人になってもらえるのか?」
そう“光の神”は問いかけて、それにレンヤが答える。
「……それは、貴方自身で勝ち取るものです。俺は、頑張りましたよ?」
「……貴方は私でもあるでしょう?」
「……努力したのですよ。けれど、だから、心が繋がっている自信があります」
心が繋がっている、それを聞いて、そこで“光の神”はレオンとカノンを見た。
「お前達も心が繋がっているのか? だから……恐ろしいはずの私に逆らうのか?」
「そうだ。でなければ、こんな所までこようなんて思わない。そうだろう? カノン」
「うん、僕はレオンと一緒に居たいから、ここに来た。こんな事、止めて欲しいから」
「そう、か……だが……」
そこでレンヤが付け加える。
「……“妖精族”という魔族が居る。あの綺麗な魔族だ。人の傍に居ても比較的大丈夫な、人と共にいられる魔族……どうしてあの“闇の神”がそんなものを作ったと思う? 本当は少しくらい、“光の神”に未練があったんじゃないかって俺は思うんだ」
「そんな事は分らない」
「……確かにそうだ。でも、こうやってここに来る方法だって残っているのは、まだ“闇の神”にほんの僅かな未練があったと思っても良いんじゃないのか? ルカはどう思う?」
「我は……そうだな。レンヤに会えたから、そう思える」
「そうか……」
そう“光の神”はそのまま少し考え込んで、一度瞳を閉じる。
逆らうレオンは、確かに苛立ちを覚えるが、彼らなりの理由も少しだけ理解する事ができて、気に入ったカノンカースはたしかに面白いと思ったが、彼からは嫌われて、手にはいらなくて苛立つ。
だからレオンとカノンカースは気に入らない。
二人が羨ましいから気に入らない。
なのに、この二人を殺せば、ルカは生まれない。
「……ルカは、俺が欲しかったものを全部くれます。その中には、今の貴方には思いもよらない物も含まれています」
「……それは、良いもの、か?」
「とても良い、素晴らしいものです」
そんな曖昧な不確実なものに頼って良いのだろうかと“光の神”は思って、けれど、それは魅力的に思えた。だから、
「いいだろう、レオンとカノンカースは見逃す。それで良いだろう?」
そう“光の神”は答えて、それにカノンは慌てて、
「ま、待って僕の呪いを……」
「満月の呪いは、どの道ルカには効かず、けれど解くことができるのだから放っておいてもいいだろう。あと、支配の呪いはお前以外は解いてやる、カノンカース。お前の呪いは、ルカを見つける印にする」
「え?」
「……“予知能力”を持たせて、繋がりを深くして、もしも再び合間見えた時に見失わないように。……どうせまたここに私は一人だ。自我も記憶も、また少しずつ薄くなる」
そう何処か諦観したように“光の神”はぼんやりと呟く。
そこで、ルカが“光の神”に手を伸ばしてキスをした。
「また会えるから」
そう言われて、“光の神”が初めて、優しげにルカに微笑む。
「……また、会おう」
こうして、魔王カノンカースとその恋人レオンの、“光の神”との因縁は決着が付いたのだった。
そして、結局“光の神”の力でカノンとレオンは元の世界に連れ戻された。
「レンヤとルカは“光の神”と少し話しがあるって言っていたけれど、大丈夫かな」
「大丈夫だよ、カノン。だって、俺達まで生きているし、なんだかんだ言ってルカは“最強”なのかもしれないな」
「流石僕の孫!」
「そして俺の孫!」
レオンとカノンはガッツポーズを取って、ふうっと溜息をついた。
「もう、俺から逃げようとしないでくれよ、カノン」
「レオンの方こそ、もう僕は逃がしはしないからね?」
そうお互いに言い合って、くすくす笑って……どちらともなくキスをする。
きっとこれからは望めばずっと一緒にいられる。
そんな二人を祝福するように、暖かな風は甘い花の香りを運んで、二人を包み込んだのだった。
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