裏切り者おおお
大きな広間。
天井は高く、中には幾つもの不気味な彫像がたってる……以下略。
その一角に、玉座に座る前魔王トリューカースと、その恋人のレイルがいた。
どちらも薄ら笑いを浮かべており、けれど瞳は虚ろげだった。
そんな二人の横に、低く丸いテーブルが置かれており、その上には鳥篭が乗せられている。
色とりどりの石やレース、布で飾れた鳥篭の中に鳥は居なかった。
けれどどんなとりよいも美しい生き物が一人、銀色の枷で手を拘束され、その鎖は鳥篭の上で留められて、膝を付くように彼は飾られていた。
彼はレオンと目を合わせると、ブワッと涙を溜めて叫んだ。
「ち、父様が変態になった! レイルのせいで! 僕の事賞品だって飾るんだ!」
「何を言っているのですかカノン。こんなに可愛いのに」
「ですが父様! この服はないです!」
そう叫ぶカノンの白い服からは、太ももの片方が上の方まで覗いている。
全体として新妻が着る、白い裸エプロンのような露出の大きい服だった。
けれど涙目で叫ぶカノンに、父であるトリューカースは首をかしげて、
「? 可愛いでしょう? カノンの可愛さと美しさがとても生えるでしょう?」
「……レイル、父様をこんなにおかしくして……後で覚えていろ」
「いや、可愛いと思う。私も」
「! ……レオン、レオンは僕の味方だよね? こんなのおかしいよね?」
レイルまで可愛いと言われてしまったカノンは、レオンに目を移して期待の眼差しでじっと見つめる。だが、
「あー、うん。可愛いと思うぞ?」
「レオンの裏切り者おおお」
「だってカノンが元から可愛いんだから、どんな姿でも可愛いに決まっているだろう」
「う、で、でも……」
「ああ。後でたっぷり逃げた事も含めて可愛がってやるから、楽しみにしていろよ?」
カノンがさあっと顔を青ざめさせて大人しくなる。
そういえばカノンはレオンから逃げてきた挙句、レオンに出会った瞬間逃げ出したのだ。
これはもう、お仕置きルートしかない気がするのだが、その恐るべき現実にいかに対処しようかカノンは考えて……思いつかなかった。
そんな風にカノンが、新たな危機に焦ってそこから逃げ出そうとしているのは良いとして。
「それで、僕の可愛いカノンに手を出そうとしているクソガキに、身の程を教えてやろうと僕は思っているわけなのですが……どうします? レイル」
「そうだな。私がレオンと戦って……殺そうか」
その言葉に、カノンとレオンが固まる。
殺すと恐ろしい言葉を、何の感慨もなく言ってのけてしまう……そしてそこで、レオンは嘆息した。
「"光の神"が何かをしたのですか? また操られているのですか?」
そう面倒そうなレオンの仕草に、トリューカースを支配する光の神が、
「……お前は邪魔だ」
「……カノンは渡さない」
「……居なくなる人間が、何を言っているんだ」
そう見下すように笑う彼に、レオンは思う。
まずは、カノンの父、トリューカースが完全に支配されているかどうかが分らない。
そしてそれが支配されていないとしたなら、そこを取っ掛かりとして……レオンは決めた。
「お父様! お話があります!」
「誰がお前のお父様だぁああああ」
そう勢いよくトリュカースは立ち上がったのだった。
当りだ、完全に支配されていないとレオンは思った。なので、
「良いんですか! こんなカノンの目の前で俺を殺したら、貴方はカノンに嫌われますよ!」
カノンを溺愛している父に、レオンは揺さぶりをかける。すると、
「嫌われ、る? でも……」
「カノン、俺を殺したら父親の事を嫌いになるか?」
その問いかけに、カノンはうんと答えようとするも、何かが答えさせないように唇が震える。
けれど、レオンが居なくなるかもしれないと思った瞬間、カノンの中で激情が溢れて気がつけば叫んでいた。
「レオンに酷い事する父様なんて、大っっ嫌い!」
「大嫌い……カノンが大嫌い……」
蒼白にして顔をぶるぶると振るわせるトリュカース。
その様子から、レオンはそっちは大丈夫だと判断する。
けれど今度は剣を持ったレイルがレオンの方に歩いてくる。
「小賢しい真似を……」
そう憎々しげなレイルに、今度はレオンは同じ魔王の恋人として揺さぶりをかける事にした。
「所でレイルさん。実はカノンの女装姿、凄く可愛かったんです」
「……それで?」
歩みを止めるも件からは手を放さないレイル。そんなレイルに、遠まわしにレオンは続ける。
「きっと、カノンのお父様にも似合うと思うんです」
「……何が言いたい」
「俺たちを見逃していただければ、母に貰ってきたカノンへの女装セットを差し上げてもよろしいのですが……どうしますか?」
トリューカスがその話を聞いて顔を蒼くして、
「レ、レイル……まさかそんな事を僕に……」
「……ちなみに、どんなものだ」
「これです」
そうレオンはドレスを取り出した。しかも下着まで一式そろっている。
それをレイルは見てから、ふうっと溜息をついた。
「……いいだろう」
「ちなみにカノンの場合、逃げました」
逃げ出そうとしているトリュカースの方を見ながらレオンは暗に、今追いかけないと逃げて隠れられてしまうぞ、と言う。
そんなレイルはレオンからドレスを受け取ってすぐに、かの恋人に囁く。
「……トリューカース、逃げるな」
「い、い……いやだぁああああ」
案の定、トリューカスは逃げ出した。
それをドレスを持ったレイルが無言で、けれど獲物を追い求める瞳で追いかけていく。
後には……レオンとカノンが残ったのだった。
お気に入り、評価ありがとうございます。とても励みになります。
次回の更新は近日中に。よろしくお願いします。