獲物の味見
「……ルカの暇つぶしの相手をしてやってくれ」
嫌そうにカノンは四人に告げると、そのまま立ち去ってしまった。
後にはルカが残っている。
「……どうしましょうか」
「我は何でもかまわないが」
四人は互いに顔を見合わせて、次代の地の四天王ユウトが
「……少々お時間のよろしいでしょうか」
そうルカに言うと、ルカが頷いたので彼らはこそこそと部屋の隅に集まり話し出した。
「どうする? 一応未来とはいえ魔王様だ」
「魔王様がじきじきに遊んでくれって」
「天国か? 私は夢を見ているのか?」
「まあ待て。そういえば動向を監視していた魔族から、あのルカ様の女装もとてもとても似合っていたらしいぞ。ちなみにその時の写真がこれだ!」
「なんと……美しい」
「ちなみに人間の手を少し借りたが」
「……多少技術が流れてしまうのは仕方がない。というかとっくの昔に流れてたわけだが」
「美しいものを残しておきたいという願望は誰にでもある。とはいえ、何でお前はこれを独り占めしていた、次代の水の四天王のネル」
「ひゅーひゅー」
「口笛を吹くな! ……後で我々の分も焼き増ししてくれ。それで手を打とう」
「分った。それでどうする?」
「ふふふ、例えばゲームに勝った者が他の人間に女装を指示できる、どうだ?」
「つまり、80%の確率で、我々がルカ様を……できると?」
「しかも回数を重ねる事に、100%に近づくのだ」
「だが女装といえば警戒されるだろうから代わった衣装を指示できると言うことでどうだ? ちょうどお気に入りの人形を一杯持ってきたばかりで、服なら何でもある」
「……今までなんか駄目だなと思っていたのに、今は頼もしく見えるぞ! 次代の水の四天王のネル!」
ネルが少しいじけたようだが、他の三人もそれで頷いた。
そして軽く共犯だと手を四人は合わせて、ルカにくるりと振り返った。
「……なんだ?」
「ルカ様、実はかくかくしかじかで」
「なるほど。それで、お前達はどんな悪巧みを我にしているのだ?」
「「「「!」」」」
そんな、素直な四人の反応にルカは笑って、
「まあいい、我の時間潰しもかねているのだから。だが……」
そこでルカは今までとは違う挑戦的な笑みを浮かべる。
赤い瞳が細められて、全てを見透かし、そして支配するようなそんな魔王らしい傲慢さと頼もしさが見える表情。
それに四天王はぎくりとする。
どんなにか弱そうに見えても、魔王という牙が彼らの中に確実にある。
その牙が、四天王には自分の喉元に突きつけられているようなそんな感覚を、ルカのその笑みに隠れる威圧感に見る。
「……大人しく、負けてやるつもりは我にはないぞ?」
四天王は、何かを早まった気がした。
ルカが再びサイコロを転がした。
「……であるから、未来の我には義兄弟、という意味での従兄弟はいるが、血の繋がった従兄弟はいないのだ」
「そうですか。血の繋がりはないのですか……」
何処かしょんぼりとした次代の風の四天王のリンツ。そこで、
「ふむ、また我の勝ちのようだ」
四人がぼとりとスカートの上にカードを落とした。
四人が全員ルカの言うとおりに、それぞれ綺麗なミニスカートのドレスを身に纏っていた。
彼らは真っ青に名って口々に叫ぶ。
「またですか!」
「だってもうルカ様は十五回やって十五勝ですよ!」
「そろそろ一回くらい負けてくれても……」
「そうですとも!」
「勝負の世界は厳しいのだよ? 大体持ちかけてきたのはそちらであろう」
ふふと笑いながら、ルカは獰猛に笑う。
ミニスカートなんてとルカは思っていたが、好み目麗しい四天王達にこの服を着せると、美しい者達を囲っている奇妙な高揚感がある。
ちらりと品定めをするように、彼らを見るごとにびくんと体を震わせる様もこれまた可愛らしい。
しかも恥ずかしいのか顔をを少し赤らめていたり、スカートの裾を引っ張って延ばしたりといった以前ルカやカノンがしていた行動そのものをしているのもまた、ルカの目を楽しませる。
自分が着なければミニスカートは最高であると、ルカはその時学んだ。そこで、
「ネルお兄様ー」
「遊んでー……え?」
唐突に二人の子供が現れた。
魔王城に簡単に出入りさせるなよという三人の冷たい視線に耐えながら、ネルは子供達を連れて部屋の隅へ。
「あれは、カノンさんの義理の弟達か」
「ルカ様はご存知なのですか?」
「いや、まあ……」
次代の炎の四天王クラウの問いかけに、言葉を濁すルカ。
ルカはその後、彼らがどうなったのかを知っている。
ネルが彼らになにやら話をすると、子供たちはネルに抱きついたり頬にキスしたりしてべたべたとスキンシップをして、
「すっごくネルお兄さん、今日は綺麗だね!」
「絶対将来お嫁さんにするからね!」
「……ああ、ありがとう。でも今日はちょっと……」
ちらりとルカの方をネルは見るので、ルカは子供の相手をしてやれと声をかけた。
再びべたべたと、ネルを触ったり色々する子供達。
「本当に彼らは仲がいいですね、ネルもああ見えて子供の面倒見が良くて……」
そうほのぼのしたような、三人の四天王達だが、
「……この頃から獲物の味見をしていたのか。そうだな、味見をしてから獲物に喰らい付くものだからな」
「ルカ様、顔が真っ青ですが」
「いや、なんでもない」
そう呟いて首を振ってからルカは、次代の炎の四天王クラウに猫耳を要求したのだった。
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