同じ言葉を繰り返す
レンヤを待つ間レオンは考えていた。
「……やっぱり時間を置くのはまずい。カノンが心の整理をつける前に何とかしないと」
カノンちゃんを連れ戻す作戦会議は一向に進まない。
延々と同じ言葉を繰り返すレオン。
一応先ほどレオンの父母に状況を話して、迎えに行く許可を貰った。
ついでに一緒に連れて行く勇者も探そうとしてくれたのだが、レンヤがいるからという事と、事が事なのであまり部外者を入れたくないということでその話は流れた。
カノンは魔王であり、人間の敵なのだ。
加えて、レオンは昔から勇者と魔王の関係がどうだったのかという事も知っていたので、ライバルはあまり増やしたくなかった。
そんなこんなで、レオンの部屋で現在作戦会議という、会議が踊るというか、レオンが一人でダンスをしているような状況になっていた。
一つの話を延々と繰り返すレオン。
イオは、あまりにもレオンがおかしいので不安に駆られて、
「あのね、レオン。もしも……もしも、カノンちゃんが戻ってこなかったらどうする?」
「俺が狂う」
「あ、うん。そうか。じゃあ……」
そこでそんなイオに、レオンは少しだけ諦めたように笑って、
「イオ、ありがとう」
「ん? 何が?」
「……俺、本当はカノンが今まで無理をしてて、俺の事を思い出したくないくらい嫌っていたんじゃないかって不安だったんだ。俺が人間の寿命に比例して換算したら、カノンより俺が年上かもって冗談を言った時に、若い子がいいなら魔王城に帰るよっていっていたから」
「そうなんだ。でも、それは深く考えなくてもいいんじゃない?」
「でも、冗談めかして本音が隠れているって事、結構あるだろう? それに、俺は不安そうだった時に、無理にでも聞き出しておかないといけなかったのに……」
「でもカノンちゃん。レオンの事を好きだから、レオンのために離れようとするかも」
「何でそれが俺のためなんだよ!」
そこでレオンは声を荒げて、机を大きく叩いた。
「俺は、カノンと一緒にいたいんだ! カノンのいない人生なんて、生きていて死んでいるのと同じようなものだ! カノン、俺のカノン!」
「レオン、落ち着いて」
「ずっと欲しくて、ようやく手に入ったと思えば取り上げられて……ふざけるな! ふざけるな……」
「レオン……」
「あの手紙を相談して、イオに、そういう考えがあるんだって教えてもらえて、今だってそういう理由だからって自分を誤魔化すので精一杯なんだ……」
「……でも、カノンちゃんに会えたとしてそれでも断られたら?」
「カノンを攫ってくる」
「どうやって?」
「何だってやってやる。カノンが手に入るならなんだって……」
そう何処か狂気じみてきたレオンに、イオは瞳を泳がせなら、
「で、でもほら。"勇者"じゃないレオンは魔王城には入れないから……」
「入れなくてもカノンが出てくるまで外で待てば良い。そう、ずっと……」
「……『口説いて連れ戻すにも、時間が足りない。いや、それでも魔王城まで今から出発して』とかわけの分からない事を言っているから突っ込まなかったけれど、そういう意味だったか。レオン、落ち着こう」
けれどレオンはぶつぶつと同じ言葉を繰り返す。
そこで珍しく、トランがレオンの肩を叩いた。
「所でこの紙の端、水で濡れたようなしわがあるようだが」
そう示されたのはカノンの書置きで、確かに端がよれている。
「……カノンが泣きながら書いたと?」
「おそらく。泣くというのは、嫌々やっていたからだろう」
レオンがその紙をトランからひったくる。
確かに、端のよれが見て取れる。
でもそんなもの、たまたま水差しから零れた水に触れただけかもしれない。
他にも理由なんて幾らでも考えられる。
都合の良い夢だけレオンは見れない。
それでも、何処かで期待している自分がいるとレオンには分っていて、
「……今は、良い様に考えよう。レンヤに力を借りれば、すぐにでも分るだろうから」
「うんうん。だから落ち着こうね、レオン」
イオもトランも同意している。
「……面と向かって言われていたら、俺もどうしていたか分らなかったな。はあ」
「今はさ、カノンちゃんが戻って来た時に、レオンが悩んだ分だけカノンちゃんにどうしてもらおうか考えればいいんじゃない?」
レオンは暫く黙ってから、にやりと怖い笑みを浮かべた。
「……なるほど。イオは良い事を気づかせてくれた。くくくく」
「えっと、レオン?」
「そうだよな、そうだよな……ふふふふふ」
なにやら怖い声を上げるレオンに、イオは何かを早まった気がして、けれどもうどうにもなりそうにもないので、イオは心の中でカノンに謝ったのだった。
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