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私を惑わすな

ルカはふっと目を覚ました。

 周りは白い空間。ルカの使えない"予知能力"の影響で、引っ張り込まれたようだ。

「起きたか?」

 目の前で笑う彼は、その姿では随分と久しぶりのように思えた。

 以前会った時は、確かルカが物凄く叱ったのだが……今の彼はそれよりも古い。

 分っていたもののとりあえず確認もこめて、ルカは問いかけた。

「"光の神"か」

「そうだ。そして……お前を"レンヤ"から遠ざけた」

「? どういう意味だ?」

 そんな何も分っていないようなルカの様子に、"光の神"は嘲るように笑い、

「今お前は、魔王城にいる」

「そうなのか」

「"レンヤ"はいないぞ?」

「ふむ。では迎えに来るのを待てば良いな」

 まったく動じる様子の無いルカに、"光の神"は戸惑ったように、

「……不安や、"レンヤ"が来ないかもしれないと思わないのか?」

「何故そんな事を考える必要がある?」

 ふん、と、少し偉そうに腰に両手を当ててルカが答える。

 だが少しも様になっておらず、それに"光の神"はさらに毒気を抜かれたらしい。

 ただ、すぐに"光の神"はルカが少しも動じないの事に気づいて、それが癪に障って、

「……今、魔王カノンカースとレオンを引き離そうとしている」

 と、ルカの嫌がりそうな事を言ってみた。だが、

「……あまり酷い事をすると、後悔するぞ?」

 怒る所か心配そうに、ルカは"光の神"を見て、"光の神"はそれに苛立ちを覚える。

 この魔王は今、魔法を一つも使えないはずなのに。

 そう考えて"光の神"はにやりと悪どい笑みを浮かべた。

 立っているルカに近づいていく。

 ルカは特に逃げるような様子も無い。

 守られすぎて無防備になっているのだろうかと思って、"光の神"は、そんな獲物に喰らい付くような獰猛な感情を持つ。

 目の前のこの獲物も、"光の神"の大好物に他ならないのだから。

 そして、腰に手を回して逃げられないようにして、ルカの顎を掴んで上を見上げさせる。

 "闇の神"と同じ赤い瞳が、不思議そうに揺れている。

 "光の神"はルカの柔らかな唇を親指でなぞりながら、

「あまりこの私に、生意気な口を聞かない方がいい」

「だが……」

「……犯すぞ?」

 そう言えば、ルカは怒って睨み付けて来るだろうと"光の神"は思った。

 そしてルカが"光の神"へ憎しみというただ一つの感情と想いに支配され、一杯になった所で乱暴に犯してやろうと思っていた。

 この"光の神"である自分に忠告をする生意気なルカという魔王。

 そんな彼からはさぞ甘美な悲鳴が聞こえるだろうと、"光の神"は舌なめずりをする。

 "光の神"への憎しみで心は支配され、その身を貪る事で全てを奪えるだろうと"光の神"は心が躍る。

 そして……ルカと共にあり幸せそうな"レンヤ"に屈辱を与えられるだろうと、暗い気持ちで"光の神"は見ていたのに。

 そう言った途端、目の前のルカが顔を赤くした。

 予想外の初心な反応に、"光の神"は特に初めてというわけではないのに、何故か酷くいけない事を言ってしまったような恥ずかしいような衝動に囚われる。

「な、何で顔を赤くする……」

「す、するに決まっているだろう! そういう事には……我は疎いのだ」

「いつも"レンヤ"とあんなに凄くて激しい事をしていたのに?」

 そう、"光の神"が問いかけると、ルカがピシッと石のように固まった。

 ルカの顔からすうっと血の気が引いて、体が小刻みにプルプルと震えだす。

「……何故、激しいと知っている」

「……いや、見ていたから」

「……そういえば部屋とかに誰も居ないのに、見せ付けてやるってレンヤが言って……」

 ルカは恥ずかしさのあまりに、顔を今度は赤くして瞳に涙を溜めている。

 "光の神"は珍しく、なんとなく慰めた方がいい気がして、

「いや、いつも見ていたわけではなく、たまたまで……」

「……見ていたんだ」

「ええっと……可愛かったぞ?」

 フォローにならない事を言ってしまい、ルカがさらに顔を真っ赤にしてしまう。

 それに"光の神"は慌ててしまう。

 こんな事は初めてで、どうすれば良いのか分らない。

 先ほどまでの残酷な感情は消え去り、今は優しく可愛がってあげたい、そんな奇妙な感情が浮かんでくる。

 けれど、どうすればそれを表現できるのか"光の神"は分らない。

 そこで"光の神"はふとレオンが良くカノンの頭を撫でている事を思い出した。

 なのでおそるおそる、顎に触れていた手を離して、ルカの頭を撫でてやる。

 少し驚いたようにルカが"光の神"を見上げて、そして微笑んだ。

 その表情に一瞬"光の神"は目を奪われる。

 けれど、すぐにそんな感情や行動をしてしまう自分が怖くなって、"光の神"はルカを突き飛ばし、

「……もう、私を惑わすな……」

 そう弱々しく叫ぶ。

 "光の神"はもう、期待なんてしたくなかった。

 ルカは"光の神"に言いたい事があったのだが、倒れこむ浮遊感を感じて、ルカはそこで目を覚ました。

 窓から差し込む朝の光。

 けれどこの見慣れた天井は、

「魔王城?」

 そうルカは呟いたのだった。

お気に入り、評価ありがとうございます。とても励みになります。



次回の更新は近日中に。よろしくお願いします。

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