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 憂鬱な気持ちで起きたカノンは、ベッドにレオンがいない事に気づいた。

 朝からレオンの可愛い寝顔を楽しみたかったなと思いながらはあと溜息をついて、カノンはレオンを探しに行こうと部屋のドアノブに手をかけて……そのまま前方に引っ張られた。

「うわ!」

「危ない!」

 そう倒れこむカノンをレオンが支えた。

 抱きつくように支えられて、カノンは照れ隠しするように微笑んだ。

「レオン、ありがとう」

「どういたしまして。所で皆ご飯を食べてしまったから、カノン用に果物を少し持ってきたぞ?」

「あれ、今何時?」

「11時頃かな。随分カノンは疲れているみたいだったから、起こさないでおいた」

「う、うん……ありがとう」

 ちょっとどきどきしていると、そんなカノンに、

「それと、レンヤが日程を前倒しにしてこれから三日ほど、例の場所に引きこもるらしい」

「……前倒し?」

「……何でも、会わない時間が愛を育てるんだそうだ」

「……前倒しなのに?」

「『会えない時間があるのは仕方がないが、短くする事はできる。忘れていた』だそうだ。本当は一秒だって離れたくないけれど、強がりで言ってみたというのが本音らしい」

「……それで終わりなの?」

「うん。それで帰るって。それで……優しい俺は、カノンをルカに貸してもいいかなって」

「ほ、本当?」

 だとすれば、カノンにとって好都合だ。

 ルカを連れ出して……魔法で眠らせて連れて行くか。

「……本当にカノンはルカが好きだな。だが今の俺は懐が大きいからな、ははは!」

 その言葉にカノンは引っ掛かりを覚えて、

「……レオン、何か聞いたのか?」

「……別に。でも、やっぱり今晩はカノンには一緒に寝てもらおうかな?」

「なんで?」 

「ベッドに花を敷き詰めて、そこにカノンを……」

 何処か夢見心地に言うレオンに、カノンは半眼で、

「レオン……頭は大丈夫か?」

「……こういうのって喜ばないのか? 本にはあったけれど」

「寝にくいんじゃないかな? 背中に花が当って」

「……もっとこうふわふわな感じだったりするんじゃ……」

「花って硬いだろう? じゃないとあんなに背を高くして生えれないよ。あと、花とか潰したら汁が出て服が汚れるだろう……レオン、夢見すぎだね」

 レオンは悲しそうだった。

 だからカノンは代案として、

「……まあ、ね。花の香水を僕がつけるくらいなら良いよ?」

「! せっかくカノンの甘くて良いにおいがするのに、花のにおいにされてたまるか!」

「何いっているんだ! まったくもう……まったくもう、レオンは、しょうがないな……」

 と、少し嬉しそうに笑うカノン。

 良かった、少し元気が出たみたいだとレオンは微笑む。

 どうもここの所カノンが不安そうな事に気づいていた。

 けれど、カノンはそれをいう気は無いようだった。

 気にはなるけれど、レオンはいつか話してくれるだろうと、カノンの事を信頼していた。

 それが間違いだったと気づくのはそのすぐ後の事だった。


「ルカ! わーい」

「カノンさん! むぎゅ!」

 眼の保養というべき可愛いものが二つじゃれあって、笑っている。

 そんな二人を、くわっとした表情で見て、イオが何処かへと走り去ったと思ったら、また戻ってきてレオンを引っ張っていく。

「イオ、何処に連れて行く気だ? 俺はカノン達を愛でていたいんだが」

「レオンのお母さんと、次はどのラインまで行くかについての検討会をしようかと」

「何故?」

「ほら、今可愛いものが二人いるわけじゃん。でも一人はもうすぐいなくなるからそれまでに、色々しないと」

「どうして俺を巻き込む」

「自分の好きな相手を自分好みに染め上げる事も大切だって言っていたよ。レオンのお母さんが」

「ぜひ協力させていただきますとも!」

「あと、レオンちゃんは奥手だから私が頑張らないとって言ってた」

「……勘弁してくれ」

 レオンは疲れたように呟いたのだった。


「ところでルカ、ルカは、自分の事、強いと思う?」

「……うーん、例えば魔力だけは自信があるのですが、使い方を考えないと」

「使い方?」

「相手によって効く方法が違うのです。皆それぞれ似ているようで違いますから」

「なるほど」

「ところで我は、この部屋から逃げ出したいかなと。ちょうどトランさんも先ほどイオについていってしまいましたので、我達が何処に行こうとしているのかは彼らには分りません」

「……そうしよう。女装はもう嫌だ。レオンがすればいいのに……」

 そう悔しそうにカノンは呟いて、ルカとカノンは二人でその部屋を抜け出したのだった。

お気に入り、評価ありがとうございます。とても励みになります。



次回の更新は近日中に。よろしくお願いします。

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