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物理的な意味で

 水面に一滴の水滴が落ちて波紋を広げるように、カノンはレオンの声にうっすらと意識が戻る。

 瞳には倒れたレオンと、その手が自分に触れている事に気づく。

 ごめん、僕は……。

 欲望に負けてミランの誘いに乗ってしまった。

 大した対価ではないから、大した事はないのだろうと思っていた。

 そしてカノンは自分の力を過信していた。

 それがレオンを巻き込んでしまった。

 忠告されていたのに……。

「……レオン……は、巻……こま……ない、で」

「……意識が戻った? ……レオンに触れたから?」

 少し驚きを含んだミランの声だが、その響きが違う。

 溢れ出る気配も。

 カノンはそれが大嫌いな相手だと気づいて、けれどそれでもレオンが助かるならと思う。

 そんな彼が、冷たく呟いた。

「……気に入らない」

「……お願い……」

「……ああ、少しレオンから光の力が流れて、それが上手く混ざらないのか。……魔法は意志によっても制御されるから。……だが、それはレオンがこの私に逆らった事に他ならないな。先ほどの言動も含めてどうするか」

「……止めて……」

 レオンだけは何とか守ろうと、カノンはか細い声を上げる。

 それが彼の機嫌をさらに悪くする。

「……レオンは私と似ているのに、人間なんてただの私が作った動く人形に過ぎないのに、どうしてお前たちはそれを愛する」

 人間なんて光の神である自分が気まぐれで作ったただの道具で、動く人形に過ぎないのに。

 それを、愛す魔王達。

 光の神である、自分の事は嫌うくせに。 

 そこで支配しているミランが懇願してくるのを聞く。

 レオンは見逃して欲しいと。

「ミランも、レオンを助けてくれといっているな……ここでレオンを殺したならどうなるだろう?」

「……やめ……」

「君は歴代魔王の中では特に気に入っていたのだけれど、そのお願いは聞いてあげられないな」

「やめてぇ……やめてぇ……」

 カノンが心が引き裂かれるような切ない声で哀願する。

 それを光の神は笑って聞いていた。

 そして、ミランを支配している光の神が何か魔法を使おうと手を振り上げたのだった。


 レオンと別れたホーリィロウは走っていた。

 ミランがどういう性格なのかもホーリィロウは知っていた。

 臆病な所があるが、冷酷になりきれない、残酷になりきれない……変人ではあるがそういう存在だった。

 否、簡単に残酷になれるのは、それが残酷であると理解していないからなのだろう。

 その鈍感さが、足元をすくわれる原因になる事をホーリィロウは知っていた。

 ミランのそういった所は、ホーリィロウは気にいっていた。変人だが。

 あの時のミランの表情が酷く憔悴しているのにホーリィロウは気づいた。

 ホーリィロウはもっとミランの様子に気をつけるべきだったのかもしれないと後悔する。

 カノンに会えると、ホーリィロウは舞い上がってしまい異変に気づかなかったのだ。

 だが後悔よりも今はすべき事がある。

 真っ先にミランを支配下に置いたのは、捕らえている魔法を知っているから。

 用心深いかの神だが、抜けている……もしくは他の理由があるのか、それとも傲慢か。

 ここには、魔法に詳しい魔族が一人居て、ホーリィロウが彼に聞きに行く事を見逃した。

 そもそも彼を抑えておこうという気は、かの神に無い様で、それも奇妙に思えた。

 だが、好都合だ。

 部屋の番をしているものに鍵を求めるのも時間が惜しくて、部屋を、ノックもせずホーリィロウは蹴破った。

「ルカさん、貴方の知識をお借りしたい!」

 突然乱入したホーリィロウに、ルカは驚く様子もなく、

「それは先ほどの魔法の事か? あちらの方の」

 その細く白い指は、西側の塔を指差している。

 ルカのその答えに、ホーリィロウはルカのその手を握った。

「それなら話は早い! 今、カノン君があの魔法で捕らえられて、レオン様もそちらに向かいました。けれど、捕らえている魔法はかの神が手を貸しているもので我々の手に負えないものです。あれを何とか壊したいのです!」

「……わかった。レンヤを頼む」

「う、うん。わかった」

 そう答えるイオにルカは微笑む。

 イオ達は付いてくるとは言わなかった。足手まといになると彼らは理解しているのだ。

 だから今彼らは出来る事をする。

 そして、瞳を閉じたレンヤに、何処か後ろ髪を惹かれるようルカは見て、立ち上がる。

 そこでルカは自分の首飾りの首の後ろ辺りに触れた。

 それは普通の首飾りではちょうど留め金のあるあたりだった。

 さらっと金属と布が擦れあう音がして首飾りがルカの首から取り外される。

 それを見ていたホーリィロウが、

「……自分で取り外せるのですか?」

「……我が愛おしいレンヤにつけようと思っていたもの。それを取り外し出来ないようにはしない。……我はレンヤに嫌われたくはないのだから」

「それなのに付けていたのですか?」

「……レンヤに守られるのも我は好きだし、それをレンヤが望んだから」

 そう少し恥ずかしそうにルカは笑って、ホーリィロウに手を伸ばした。

「転送するから、掴まって欲しい」

 力を取り戻したルカという魔王は、ホーリィロウでも感じ取れるほど強い力を持ち、いつものような何処か弱々しさを感じさせる可愛さはなりを潜め、頼もしく思えた。

「……こんな物理的な意味でも力をお借りする事になるとは思いませんでした」

「予定が狂う事は良くある。……行くぞ」

 その言葉を合図に、ルカとホーリィロウの姿は掻き消えたのだった。

次回の更新は一時間後

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