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天国と地獄

 そしていちゃいちゃして、その日は色々と有り過ぎたために疲れて眠ってしまったレオンとカノンだったが、朝起きて再びいちゃいちゃしていた時、その時のレオンの一言が、カノンの逆鱗に触れた。

「カノンは誰彼かまわず誘っているから不安なんだ……」

 レオンはカノンがもてるから不安だと言ったつもりだったのだが、カノンは先ほどからそっぽを向いている。

「僕は誰でもいいってわけじゃない! それなのに誰彼かまわず誘ってるなんて……」

「だ、だって、ホーリィロウだって好きじゃないか、カノンの事……。誰彼かまわず魅了して……」

「そんなの、僕が好きなのはレオンだけなんだから関係ないだろ!」

 そう言い切られて、レオンはぎくりとした。

 まるでレオンの中にある不安と嫉妬と……カノンへの劣等感を見透かされた気がした。 

 レオンはカノンが好きで堪らなくて、カノンへと憧れて、その潔さもまっすぐさもその全てが愛おしくて……それ故に、無我夢中で手を伸ばした分今更ながら、レオンはカノンが離れてしまったらどうしようと不安なのだ。

 こんな自分で本当にいいのかと。

 まだレオンはカノンに自分が王族であるとも伝えていない。

 そんなレオンをじっと見つめてカノンは溜息をついた。

「……レオンはもっと自身を持て」

「でも、カノンが魅力的過ぎるから……今でも本当に俺なんか……痛っ」

 そこでレオンはカノンに軽く頭を叩かれる。

 音の割りに痛くなかったのは良いとして、カノンは両手でレオンの顔を掴み、覗き込む。

 恐ろしく神秘的で綺麗な美しい顔が真剣な表情と相まって、レオンは目を逸らせない。

 そこでゆっくりとカノンの艶かしい赤い唇が開いた。

「……レオン、僕に対して失礼だと思わないのか?」

「……誰彼かまわず誘っているなんて言って悪かった」

「……確かにそれも失礼だが、それよりも……僕が、この魔王である僕がそんな大した事無い、それこそ路傍の石のような、それも魔族でなく人間を好きになると思うのか?」

「それ……は……」

「僕は、他でもないレオン、お前を選んだ。レオンが思っているほど、レオンは……」

 そこでカノンはとても優しげに笑って、軽くレオンにキスをし、微笑む。

「……たいした事のない奴じゃないよ。……大好きだよ。それにレオンは可愛いしね」

 とカノンは悪戯っぽく笑う。

 レオンは褒められるのは嬉しいのだが可愛いと言われるのは何処か変な感じがする。

 確かに昔は可愛かったが今は少しは男らしくなっていると、レオンは自分では思っているから。

 だから照れくささを隠す意味もこめて、

「……俺は、可愛いじゃなくてこう、カッコイイだろう?」

「可愛いよ」

「カノンじゃあるまいし」

「僕じゃあるまいしってなんだ」

 頬を膨らませて、再びカノンはそっぽを向いてしまう。

 さてどうやってなだめようかな、とレオンが考え始めたところで、部屋のドアが開いた。

 状況を知らないイオが楽しそうに笑ってレオン達の方に来る。

「どうだった二人とも首尾は……なるほど」

 二人の様子を見て、イオがにこりととてもとても優しげに笑った。

「……もう、そういうプレイだと思うしかないなー」

「そういうプレイって何だ」

 そう呟くカノンにイオは笑って答えない。代わりにレオンの方を見て、

「……何で襲わないの? これ」

「……なんだか、愛されているなって。だからこれを壊したくないというか……それで昨日は気がついたら時間が過ぎていたというか。でも、こうカノンが誘っているんじゃないかって気もするんだよな……」

「だからなんで僕が誘っているなんて言うんだ!」

「だって目の前にカノンがいると、俺、襲いたくなるし」

「! ばかぁぁぁ!」

 そう言ってカノンはレオンをぽかぽかと叩いてから、何を思いついたのかレオンの背後に回り抱きつく。

「……カノン?」

「……僕がレオンの前を、見える所をうろうろしているのがいけないんだったら、後ろから抱きついてやる……」

 そう言ってカノンはレオンに抱きつく手の力を強め、体を密着させてくる。

 じんわりとカノンの体温が伝わってきて、レオンは天国と地獄を行き来しているような感覚に陥る。

 カノンが無自覚なのは、レオンは分っているのだがこれはもう……。

 なのでカノンの手をレオンは自分から引き離して、そのまま前に倒してからベッドに押し倒す。

「レ、レオン?」

「……俺はいつだってカノンの事で一杯一杯なんだ」

 カノンは何かを言いたそうにしているが、レオンはそのまま唇を重ねる。

 軽く吸われてつい開いてしまったカノンの唇の間から、レオンの舌が潜入してきて絡めとる。

 レオンとのキスは凄く好きだなとカノンはぼんやりと思う。

 これだけでカノンはとても幸せで、その身をレオンに任せたくなってしまう。

 といったように流されそうになるカノンだが、すぐ傍で状況をにまにまして見ているイオに気づいてカノンは、はっとした。

「イオが見ているんだ! 駄目!」

「……イオ、部屋から出てくれないか? 俺、これから……カノンを襲うから」

「うん、分かった。それじゃあ頑張ってねー」

 とイオが楽しそうに去ろうとするのでカノンは叫んだ。

「待って、イオ……そうだ、何か僕たちに話すこと無い!」

 服の中に指を忍ばしてくるレオンに、カノンは必死になって抵抗しながらイオに問いかけた。

 そこでああとイオは思いだしたかのように軽く手を叩いて、真剣な顔でカノンに答えた。

「……昨日から、ルカちゃんとレンヤが都市の方の宿に戻っていないみたいなんだ」


お気に入り、評価ありがとうございます。とても励みになります。


次回更新は、近日中に。よろしくお願いします。

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