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幼少期の黒歴史(10)

 レオンがもうこない。それに思の他がっかりしている事にカノンは気づいた。

「カノンちゃん、なんだか寂しそうだね?」

 "妖精族"との混血であるセーレに言われてカノンは首を振った。

 レオンは人間だ。それ故にカノンはあまり情を移してはならない。

 それにそれは昨日の出来事だ。

 あまり長くくよくよ悩むのも性に合わない。が、

「でもカノンちゃんキスされて顔が真っ赤だよね。もしかしてファーストキス?」

「な……ち、ちが……」

「え? 他にも相手がいたの?」

「……いません。初めてです、はい」

 そう答えながらこの年にもなってファーストキスか、しかも子供に奪われるとかどんな展開だ、とカノンは心の中で毒づいた。

 やっぱり年齢的のもっと大人が良かったとカノンはちょっと悲しく思って、けれど今のこの姿で相手が大人だったらと思うとそれはそれで嫌だなとカノンは思った。

 もっとも、もう終わった事なので考えるに値しない。

 レオンはお嫁さんになってよとか背も追い越してやるとか言っていたけれど、うん、考えるのは止めよう。

 止め止めー、止めだから、考えないから、子供の言う事だし、キスなんて全然気にしてないし、僕は心が広いんだとカノンは繰り返して、異様な気配に立ち止まった。

 現在近くの森でかくれんぼをしているのだが、"それ"はまっすぐにカノンを見つめている。

「? カノンちゃん、どうしたの?」

 そのセーレの問いかけと共に少し離れた場所から悲鳴が上がった。

「うわあああ」

 その声の方角へとカノンは走り出して、逃げてくる子供達と遭遇する。そして、

「あれ……は?」

 大きな木の高さ程度の岩の巨人だった。

 岩には光の筋がいくつも通っており、動くたびに点滅する。

「……魔物」

 セーレが怯えたように叫ぶけれど、カノンは違う事に気づいた。

 これは、あまりにも光の力が強い。

 そしてその岩の巨人はカノンをじっと見ている。

「……セーレ、父様達を呼んできてほしい」

「わ、分った、でもカノンちゃんは?」

「……あいつの狙いは僕らしい。だから……」

「で、でも……」

「早く! 他にもまだいるから!」

「わ、分った」

 セーレがそうかけていくのを確認して、その岩の巨人にカノンが目を移すと同時にその巨人は腕を振り下ろす。

 そしてしゃがれた低く震わせる声で、その石の巨人は声を発する。

「……ここに何の用だ、魔王よ」


「カノンちゃんのお父さんを呼んできて、カノンちゃんが……」

 そう他の子供に伝言してセーレはカノンのいたほうに向かった。

 セーレだって一応"妖精族"の血を引いており魔法だって少しは使えるのだ。

 だから手助けできるのだと、セーレは森の中、音のするほうに走り出した。

 けれどそこで、一人の人と出会う。

 岩の巨人に立ち向かう、それ自体が淡い光を放っているような銀色の髪をした魔族。

 カノンの父のトリューカースに似ているがそれよりも剣のような鋭さがある。

 セーレですらも、危険な事など忘れて魅了されてしまうような美しく鮮烈な強い力を感じる魔族。

 けれどその顔はカノンにとても良く似ていて。

 そんなかの魔族とセーレは目が合う。

 金色の双眸がふっと優しげにゆがめられ、その人は悪戯っぽそうな顔で人差し指で、黙っていてというように唇に触れる。

 セーレは思わず頷くと、今度はその魔族が森の外へと指差す。

 逃げろといっているのだ。

 それでもセーレが躊躇していると、その岩の巨人が腕を振り上げる。

 けれどそれもその魔族はつまらなそうに一瞥するだけで砂のようにさらさらと、解けるように零れ落ちていく。

 その圧倒的な力に怖さを覚えると同時に、セーレは酷く興奮を覚える。

 これでこそ我が"主"。

 無意識の敬愛にセーレは気づいていなかった。

 そんなセーレに、その魔族は何事かを唱えて、セーレは気づくと森の外に居た。

 突然の事に、目を白黒させていると、カノンの父達が森に入っていくのが見えた。

 そして、その日を坂にカノンはこの村から消えてしまったのだった。


 全ての岩の巨人を倒した所で、カノンの父であるトリューカース達はやってきた。

「魔王である僕が何故ここにいる、出て行けという事らしい」

「……王族か?」

 その問いかけにカノンは考え込むように黙って、

「……"光の神"が以前嫌がらせで僕にけしかけてきたものと同じだった。"光の神"単独かそれとも両方か……確かにここは人の王の棲家に近い。そこに魔王が居れば警戒はするだろうし、人の王は"光の神"に近い存在だ……どれを取っても僕達は敵だ。だから知られてしまった以上ここはもう離れた方がいいと思う」

 顔を見合わせてそしてレイルとトリューカースは頷いた。

「わかった」

 そうレイルが答えてトリューカースも名残惜しそうだが頷く。

 カノンももう少しだけ楽しみたい気もしたが、あまり情を移すのは良くないと自身を戒める。

 こうしてカノン達は、何かを聞かれる前にその村から居なくなったのだった。


これにて過去編終了です。長々とお付き合い頂きありがとうございました。

……本当は2、3話で終わらせる予定だったのにどうしてこうなった。

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