幼少期の黒歴史(9)
さてと、今日もカノンに会いに行こうかな、とレオンが隠してあった服を取り出そうとして、
「レオン、今日もシルスの村に行くのかい?」
突然背後から声がしてレオンはびくっとする。
そしておそるおそる振り返るとそこにはミランが笑いながら立っていた。
それをレオンは睨み付けながら、
「……何でミランは知っているんだ」
「"光の神"様からたまたま、ね。ほら、僕が予知能力を継いだだろう? その関係で時折話を聞くことがある」
「……それで僕に何が言いたい」
「シルスの村に行くな、とだけ」
「……何かあるのか?」
「……いや、レオンがそんな下賎な場所に通うのが許せないだけだよ」
「下賎なんかじゃない! あそこは……」
あそこにはカノンがいて、皆がいて、とても楽しくて、あそこだからレオンは笑っていられる。
こんな冷たくて痛い場所じゃない、あの場所。
そんなレオンの様子にミランは少しだけ不満そうに、
「……そんなにあの場所が好きなのですか? レオン。駄目ですよ、女の子が一人で出歩くのは危険だ。レオンはこんなに可愛いから……」
「は?」
レオンは目が点になった。
待て、ちょっと待て。今、ミランはなんと言った?。
「……ミランは僕を女の子だと?」
「? そうだろう? レオンは女の子だろ?」
レオンは目を泳がしてから、今ここで男だと言うと色々こじれそうな気がしたので、
「じゃあもう行くのを止めるから、最後にシルス村の皆に挨拶だけしてくるよ」
「……そんなものしなくていいだろう?」
「お願いだよ、ミラン」
と、レオンハお願いしてみるとしぶしぶミランは頷いた。
そしてついでとしてミランにレオンは言っておく。
「ホーリィロウに僕の性別を聞いてみるといいよ、じゃあね」
「! どういう意味だ? レオン?」
そう問いかけてくるミランを部屋の外に追い出してレオンは着替えて窓から飛び出す。
ミランをどうにかする方法なんてレオンは分らない出来ない。
だからレオンはもうシルスの村にいけない。
ならばせめて、皆には、そしてカノンには一言だけ告げておきたかった。
そう思ってレオンは走り出したのだった。
「え? レオンもうこれないの?」
カノンの発したその言葉に頷くと皆がざわめいて、そしてどうしてと聞いてくる。
「……遠くに行かないといけないんだ。それで……」
そうレオンは心のありようがここからとても遠い場所に行くのだ。けれど、
「出来るだけ早くここに来たい。だから、その、僕……」
「そのときはまた遊ぼう、レオン」
そう即座に返してくるカノンにレオンは何だが涙が出そうになった。
皆が優しくてずっとここにいたかった。
カノンがいる場所にいたかった。
そこでカノンがレオンの頬を引っ張り、笑っているような口の形にする。
「ひぁ、にゃにす……」
「レオンは笑っていた方が綺麗だから。……辛い事もあるだろうけれど、でも、僕はレオンの笑っている嬉しそうな顔が好きだよ」
「! カノン……」
そう華やかに笑うカノンに、レオンはもう堪らなくなってカノンにキスをした。
やわらかくて暖かくて、甘酸っぱいような感覚にレオンは襲われる。
周りの子供達も、おおっと歓声を上げる。
そして唇を話すとカノンは真っ赤だった。
「な……な……」
「カノン、大好き! 僕のお嫁さんになって!」
カノンは口をぱくぱくさせて答える事もできないらしい。
でも答えが無いのなら、それは頷いてくれる可能性もあるわけで。
レオンは続けざまに宣言した。
「絶対にそのうちカノンお背を追い越すから! じゃあね」
そう、言うだけ言ってレオンは駆け出した。
レオンはもう駄目だと思った。
カノンが綺麗で優しくて強くて、だから……絶対にお嫁さんにしてやると心の中で誓う。
だからそのためにも強くなろうとレオンは思った。
心も体も強く。
見上げた自分の住む城は、レオンにとってもう暗く重苦しいものではなく、自分が打ち勝つべき何かにしか見えなかった。
「……レオン様、ミラン様に何か言いましたか?」
ホーリィロウが少しげっそりしている。
レオンはどうしてかは何となく予想がつきながらも確認する。
「僕の性別をホーリィロウに聞けって」
「……レオン様。ミラン様は、レオン様が男だと知って引きこもりました」
「別に性別はそれほど関係ないだろう?」
「……王族は基本的に女性と結婚する方が多いです。立場的にも女性を得る事がしやすいですから」
「……それで諦め切れ無いのが、"好き"って感情だよ?」
そういうレオンにホーリィロウは溜息をついた。
「……そうですね。それとレオン様、城を抜け出して……」
「皆にはお別れを言ってきたから大丈夫だよ?」
「……聞いたとき心臓が止まると思いましたよ。お立場を考えてください」
「……僕は力を受け継がなかった」
「……それでも貴方は次の王です」
そう、ホーリィロウが言い切るのを聞いてレオンは少し驚いた。
いつも次の王はレオン以外の誰かだと悪く言う話をよく聞いていたから。
そして、ミランよりの彼もそうだと思っていたから。
「そうか。うん。ありがとう、ホーリィロウ」
そうレオンは微笑む。
それにいつもつまらなそうな顔を見ていたホーリィロウは少し驚いてから、少し照れたように当然の事を言ったまでですと答えた。
それからレオンは笑う事にする。
カノンは、レオンの笑った顔が好きだといっていたから。
辛い事はたくさんあったけれど、それでもその大切な想いと記憶がレオンの中で宝石のように輝いてレオンを照らし出す。
そして再びレオンがカノンと再会できるのは、それからずっと後の事だった。
あともう一話くらいで過去編終わらせたい