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忘れてた下

「魔物を飼いならす人間が森の奥に住み着いている?」

「はい、それで貢物を要求して、その……」

 気の弱そうな村長がそう話す。

 街道から離れた深い森の中にあるやけに豊かな村に立ち寄った時に、そう頼まれたのだ。

「魔物を飼いならすか……」

 ポツリとカノンが呟く。

 やはり魔物とのハーフだと、思う所があるのだろうかと幼いホーリィロウは思う。

 だから幼いホーリィロウはカノンの手を握って、

「……大丈夫だよ?」

 少しカノンが驚いた顔をして、すぐににこりと笑い幼いホーリィロウの頭を撫ぜた。

「……ありがとう」

 そうカノンに言われるのがくすぐったくて、けれど嬉しくて幼いホーリィロウは微笑む。

 後になって考えれば、カノンは魔王なのだから、魔物を飼いならす事も支配する事だって出来るのだ。

 だから人間が飼いならすという言葉が奇妙に聞こえたのだろう。

 そしてやってきた先で見たその悪い男達は、魔法で魔物の檻を作りけしかけているようだった。

 魔物でもなんでも、襲うのであればまず弱いものから狙いを定めて襲う。

 強いものとばかり戦っていては自分のみが危うい事を、本能を含めて彼らは知っているのだ。

 群れからはぐれた者が襲われやすいのも、抵抗する力が小さいためだ。だが、

「な、なぜ俺たちに……」

 逃げ惑う男達を彼らの捕らえていた魔物が襲う。

 そこに立っていたのはカノン一人。

 強い異能を持つカノンを前にして、彼と戦うのを危険だと魔物達は判断したのだ。

 たまたまカノンが一番早く彼らの前へと躍り出たのだが、それは幸運だったのかもしれない。

 魔物は、傍にいる男達全てを含めてもカノンよりはよほどましだと判断したようだった。

「……賢明な判断だな」

 魔物に襲われて、ぼこぼこにされる男達。

 その魔物達は珍しく命を取られるまでの事はしないようだった。

 それこそ、誰かにそうするよう命じられたかのように。

 そして全員が伸びたかと思うと、魔物達はそのまま森の奥へと消えていったのだった。

「それで、こいつらはどうする?」

「村に連れて行こう。生死は問わないが、報酬はもらえるといっていたし……カノン?」

 ぼんやりともっと違う場所を見ているカノンに、ベクトルが声をかけると、用があるからとカノンは駆け出す。

 付いて行くとそこには、カノンほどではないがとても綺麗な魔族が一人、捕らえられていた。

 怯えたように見上げるその魔族の手をカノンはそっと握って優しげに何事かを囁くと、その魔族は驚いたようにカノンを見上げて、

「魔王様」

 そう、カノンの事を呼んだのだった。


 その言葉はカロッサにもベクトルにも、幼いホーリィロウにも予想外だった。

 信じられない面持ちでカノンの事を三人共見るも、その捕まっていた魔族は嬉しそうにカノンに抱きつく。

 そしてカノンは困ったようにけれど否定せず微笑んでいる。

 けれど、捕まっていた魔族の次の言葉に全員が言葉を失う。

「あいいつら、近くの村の奴らとグルなんです!」

 話によると、この魔族……“妖精族”という見目麗しいが力の弱い人型の魔族……を捕らえて売り飛ばしているらしい。

 村人達は、流れてきた者達を使いそれをやっていたが、その流れ者が力をつけて反抗して今回のような事になったらしい。

「それで、その場合どう対応する? 人間達」

 そう誰の名前も呼ばずにカノンは問いかけた。

 それはまるで魔王による問いかけのようだった。

 それにごくりとつばを飲み込み、ベクトルが答える。

「……人の法律でもそれは禁止されています」

 そうかとカノンは頷く。

 嘘をつくことも逆らう事もベクトルたちは出来なかった。

 もしもカノンが本当に魔王であれば、それは自分達の手に負えない恐ろしい魔物なのだ。

 けれどそれでも本当に魔王なのかを問いかける事も出来ず、四人は歩き出したのだった。


 そして村に着き、事の次第を問いただした所、自暴自棄になった村長や村人達に大量の魔物が放たれて、幼いホーリィロウ達も巻き添えを食いそうになる。けれど、

「去れ」

 そう小さくカノンが呟くと一転魔物達は人を襲うのを止めて、森の中へと消えていく。

 その力こそ、魔王たる証と言っても良かった。

 そして傍にいる村人や村長たちは気絶している。

 それをカノンは一瞥して、幼いホーリィロウやカロッサ、ベクトルに微笑んだ。

「今まで楽しかった、ありがとう。後は、この人間達を頼む」

 それが別れを告げているようで、幼いホーリィロウは少しでも長くカノンと一緒にいたくてつい問いかけた。

「カノンは、本当に魔王なの?」

「……そうだ」

「僕、カノンのこと好きだよ! お嫁さんにしたいくらい!」

「! ……ありがとう」

 そう微笑むカノンが少しも本気でない事に気づいて、幼いホーリィロウはさらに続ける。

「必ず、会いに行くから……だから、待ってて!」

「……楽しみにしている」

 そう答えて消えてしまうカノンに、その答えが社交辞令だと、幼いホーリィロウにも分った。

 けれど、その時ホーリィロウは決めたのだ。

 いずれ勇者となり、カノンに会いに行くと。


次回更新一時間後

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