直行しないお
「カノン、大丈夫か?」
「星が空にくるくる回っているー。星が今日の空は綺麗だよー」
どう考えても空なんて見えない天井を見つめて、レオンは溜息をついた。
「これから色々しようと思ったのに……」
ここまで気を許してくれるなら、ちょっと位いいかなとレオンは思ったのに。
もっとたっぷりカノンを甘やかして、こう、そういう雰囲気にもって行こうと思っていたのに。
だが、とレオンは考える。
「これは、傍にお酒さえなければ結構簡単にカノンをそういう雰囲気に持っていけるって事だな!」
「けいかくどおり~」
カノンが目を回しながらそう口走った。
そんな意識がぼんやりとしているカノンをレオンは黙ってじっと見つめて、
「……我慢しないで襲うか」
「ふにゃ! くすぐったいよ、きゃははは」
「……今ちょっとエロい感じに首筋触ったのに、色気もなんとも無い……ちくしょうー」
そう悲しげにレオンが呟いて、酔っ払ったカノンを抱き上げた。
こうなってしまうともうベッドに寝かしつける方が良さそうだ。
そう思ってレオンはイオに話しかけて、
「じゃあ皆で楽しんでいてくれ……あれ? レンヤとルカは?」
「ああ、うん、あの二人は、ルカちゃんがレンヤに抱きついた途端、レンヤがルカを抱き上げて何処かへと走り去って行ったよ? やっぱりあの服は刺激が強かったかな?」
「……羨ましい」
「まあまあ……所でレオン、酔いざまし草という面白アイテムがあったりするんだけれど、どうする?」
レオンが暫くじっとイオの方を見て、
「……何でもっと早く言わない」
「いや、このままベッドに直行するんだったら悪いから」
「……こんな状態のカノンを襲えるわけ無いだろう……うう」
「……うん、レオンは良識があるね、というか本当にカノンちゃんを大切にしているね」
「……いや、うん、そうだな、ベットニチョッコウデモイイカナ」
「……レオン、無理しなくても良いと思うよ? さて、草、草、草っとー、ほいっ!」
イオは酔い覚ましの草を使った。
途端にぱちりとカノンがレオンを見て、そしてすぐににこりとカノンが笑った。
「なんかレオンがすごく嬉しい事を言ってくれたような気がしたんだけれど、夢かな?」
「それは夢だな」
「本当に?」
「うん、それより果物を食べないか? ほら、あーん」
「あーん。もぐもぐ、ごっくん。それでね、レオン、さっき……」
「今度はカノンが俺に食べさせてくれないか?」
「いいよ! お肉ぅ~」
あっさりと話を逸らされたカノンは、嬉しそうにレオンにお肉を食べさせている。
そんなこんなで、途中からレンヤから逃げて来たルカと、それを追いかけてきたレンヤも加わって、皆で楽しくカノンちゃん奪還パーティを楽しんみはじめたのだった。
神殿にやってきたホーリィロウは、神官に話を聞いて顔を蒼白にさせた。
「そんな馬鹿な! 僕は……」
けれど神官は首を振るのみ。
その様子にホーリィロウは絶望を覚える。
何でこんな事に……。
「君が、レオン達と一緒に魔王カノンカースを助けたりするからだよ、ホーリィロウ」
そう言われて、ホーリィロウは声の主を見た。
金色の髪の彼は、相変わらずきらきらと輝いて花びらが周りに降り注いでいるようだった。
「……ミラン様、何故こちらに?」
「ん? ああ、あれが出来上がって準備も済んで時間の余裕が出来たから……レオンに会いに行こうと思ってこちらに来たが、なんでもホーリィロウが勇者で無くなったと知ってね」
「……何故、ミラン様がご存知なのですか?」
「“光の神”様に直接聞いてね」
「……カノン君を助けたから、だから僕は、勇者という魔王へと挑戦する権利を失ったと、そういう事……ですか?」
「そういう事になるね」
そうにっこりと笑うミランにホーリィロウは苛立ちを覚える。
声も姿もミランは恋敵のレオンにそっくりだが、中身が全然違う。
それ故にホーリィロウはレオンとミランの見分けがつき、そしてミランの方を特に苦手としているのだが……。
けれど何事も無かったように笑うミランに、ホーリィロウはいつもの余裕をなくしていた。
確かに色々な考えがあったといえ、カノンを助ける手伝いをしたいとホーリィロウは思った。けれど、
「……それでは、何故僕を勇者に選んだのですか? ……ええ、そうです! カノン君が好きな僕を!」
好きだから手助けしたいと思って当たり前だと、ホーリィロウは思う。
それを知らぬ我らが“光の神”ではあるまい。
それならば、初めからこんな力なんて与えなければ良かったのに。
期待なんてさせなければ良かったのに!。
「……本当の筋書きは、昔、魔王カノンカースと出会っていた君を勇者に仕立て上げて遊ぼうと思ったのだけれど予定外の事が起こってしまった。だから、腹いせかな?」
「! そんな……」
酷すぎる、そう口に出そうとしてホーリィロウはそれ以上何もいえなくなる。
ミランのすぐ傍に、ミランにそっくりな別の誰かがいた。
レオンではない。
恐ろしく神々しい圧倒的な力を感じる。
威圧感は、魔王カノンカースとしての垣間見せられたそれに似ているが、その対極に位置する強い光の力を感じた。
これは一体なんだとホーリィロウは思う。
そう、あえて言うのであれば何処かレンヤに似た……。
ミランはそんな様子のホーリィロウに笑いながら告げた。
「この方が我らが神“光の神”だ」
そう言われて、“光の神”はホーリィロウに笑いかける。
けれどその瞳は冷たいままだった。
次話は一時間後です