好き過ぎて幸せ
宿の戻ると、カノンとルカが凄い服を着ていた。
「ほら、にゃーんって」
「「……にゃーん」」
楽しそうなイオとは対照的に、疲れ果てたようにカノンとルカがにゃーんと言っている。
そこで、レオン達が帰って来たの事に気づいた二人は飛び跳ねるようにレオンとレンヤに抱きついた。
「レオン、ようやく帰ってきてくれた……」
カノンがぎゅうとレオンを抱きしめる。
しかしこのしぐさはレオンにとって残酷だった。
「……素直に喜べない」
「? 何で?」
本当に分らない、と言うようにカノンは首を傾げるが、それもまた可愛くて。
しかもこんな服着て抱きついてきて、襲ってくれって言っているようなものだ。
「カノン、俺、カノンの事本当に大好きなんだ」
「な! ……うん。知ってる。僕もレオンの事が大好き」
そう言って、カノンは嬉しそうにレオンに前よりも密着する。
耐え切れず、レオンはカノンを自分の体から引き剥がすと、カノンは驚いた顔をして、次に悲しそうな顔をする。
心なしか頭につけた猫耳も垂れ下がっているようだった。
「レオン、嫌だった?」
「……カノン、襲っていいか、良いんだな、いいっていえ、ていうかもう我慢しなくていいよな! 俺十分頑張ったよな! ……カノン?」
若干理性の飛びかけたレオンにカノンはぎゅうと再び抱きついて、レオンを見上げる。
その表情は悪戯を思いついた子供のように輝いていた。
「ふ、ふ、ふ、レオン……僕の事、襲いたいの?」
「ああ、そうだよ! 必死に俺だって我慢しているのに、こんな風に無防備に近づいて……こんなに好きなのに!」
「くく、そこで僕は考えたわけです! ほら、こうやって抱きつくと、レオンの腕も一緒に抱きしめるでしょう?」
「うん、そうだな。それで?」
「つまり、この状態ではレオンは僕の事を襲えないんだ。だって腕が動かないでしょう?」
「……なるほど」
「うん、そういうわけで、この状態だとレオンは僕の事を襲えなくて、そして僕はレオンに抱きつき放題なんだ!」
そう言って、カノンはさらに調子に乗ったようにぎゅうっと抱きついて、顔をレオンの胸の辺りにこすり付けてくる。
すぐ傍でカノンのいい香りがするなとレオンは思いながら、
「なるほど、カノンの言い分は分った。だが、その方法には一つ問題がある」
「何かなー♪ ……あれ?」
レオンは抱きついているカノンの腕を力ずくで掴んで外してから、カノンがやっていたように腕ごとレオンは抱きしめる。
「……それで、何だって?」
「あ……ええっと、えへ? ……もしかしてレオンは怒ってるのかな?」
「怒っていないぞ。これはカノンがやった事と同じ事をしただけだ」
「あ、うん、そうだよね……これからどうするのか聞いてもいいかな? と思ってみました」
カノンはさり気なく逃げ出そうとするも、思いの他レオンの力は強い。
冷や汗をかき始めるカノンにレオンはにっこりと笑って囁いた。
「……覚悟しろよカノン」
「ふえ! んんっ、んんっ、んっ」
連続してキスされて、カノンは幸せな気持ちになる。
キスは唇を重ね合わせているただそれだけなのに、どうしてこんなに心が繋がったような、愛された感じがするのだろう。
そしてそれは、相手が大好きなレオンだからなのだとカノンは分っている。
他の誰でもない大好きで愛しくて、誰にも渡したくない自分だけの大切な恋人、レオン。
そこで今度はカノンの口の中に舌を入れられる。
舌を絡めて、軽く歯で噛まれて、ちゅうと軽く吸われてしまう。
何だろう、凄くどきどきするとカノンは思った。
そして唇を離すと、少し顔を赤らめたレオンがいて、けれど幸せそうで、だからカノンも幸せな気持ちになって笑ってしまう。
本当に嫌になってしまうくらい、カノンはレオンの事が好きで好きで好きで堪らない。
何処か陶酔するようにカノンは潤んだ瞳でレオンを見ていた。そこで、
「わー、熱々だねー。完全に周りが見えなくなってるよ、カノンちゃん」
そう、レオンに夢中になっていたカノンは、イオの声ではっとする。
気付いて、完全に周りが見えなくなっていた事に気づいて、カノンは別な意味で顔が真っ赤になった。
慌ててレオンから体を離そうとすると、今度はレオンがにやりと悪戯っぽく笑って、ぎゅうっと抱きしめてカノンを逃げられないようにする。
カノンはレオンの腕の中でじたばたしているも、やがて大人しくなる。
それを見計らってイオは声をかけた。
「お楽しみのようでしたね」
「あ、あう……」
「うんうん、いいよこの初々しい感じ。カノンちゃんはレオンの事が大好きなんだねぇ」
感慨深げに頷くイオに、カノンはなぜか酷い羞恥心を覚えて、傍にあるお酒に逃げたのだが……。
「カノンちゃん、それアルコール度数、96%のお酒……」
「……ふにゃ」
カノンが酔っ払って倒れた。それをレオンが慌てて介抱する。
そんなこんなで、主役の倒れたカノンちゃん奪還パーティは幕を開けたのだった。
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