考えるな、感じるんだ
「主人がお待ちです」
二回ノックされてから、案内人の魔族が顔を出した。
因みに、現在、ステーキ肉(カノンの分。カノンは果物しか食べないことになっている)の争奪戦が三人の間で行われていた。
「肉、肉を寄越せ――――!」
「ふ、いくら我らが勇者様レオンといえど、肉は渡さない!」
「肉、肉、肉、肉」
飛び交う矢に短剣に剣撃+魔法。
とりあえずカノンは結界を張ってその中から三人が出られないようにする。
正確には壊したり汚したりしないようにしたわけだが。
「なんでこんなに醜い争いを……」
カノンはそう呟かずにはいられない。
食事というものは、あれほど仲の良かった仲間をかくも……いや、世の中弱肉強食だし仕方がない、のか?。
そして案内人も案内人である。
その惨状を見ても顔色ひとつ変えない。よく訓練されている。
「ご主人がお待ちです」
再度、案内人が告げると、三人が争うのをようやく止めた。それを見計らって疲れたようにカノンは三人に告げた。
「……三等分して三人で分ければ良いのでは?」
その言葉に、三人は顔を見合わせたのだった。
「はっはっはっは、よく来たな汚れた勇者よ!」
色々な所から角のようなものが生えたお面をかぶった変な生き物が一人大きな部屋で待っていた。
レオンは声から昨日会った魔族と推察する。が、
「……なんで俺が汚れているんだ? カノン」
「何で僕を見るんだ。僕が知るわけ無いだろう?」
小声で言ったのに、何故か彼まで届いたようで、
「あ、カノン様の事をまた呼び捨てにした?!」
「「「「………………………(レオン一行)」」」」
「ああ、沈黙が痛い。ぴりぴりしちゃう!」
こそこそとレオン達は輪になって話す。
「あいつ、なんだろう……レオンと同じ臭いがする」
イオが、とてもとても深刻そうに顔を真っ青にして告げた。それにレオンは顔をしかめて、
「失礼な! 俺はあんな変な奴じゃない。なんだその目は! そんな目で俺を見るなー!」
うわーんと嘘泣きするレオンをカノンとイオとトランは無視して、無いわーと三人で呟いた。と、
「聞こえているぞそこ! 誰が変な奴だ! 私は強いんだぞー!」
大丈夫じゃない答えを叫ぶその魔族に、全員でふうっとため息を付いてから、レオンが一応主役なのでその魔族に言った。
「取り合えずそこの不細工、俺が勇者レオンだ。連れて行った美形を返してもらう!」
「不細工!、今不細工って言ったか!」
そこで被り物を、頭から抜いた。中から出てきたのはやはり昨日の魔族。
彼は自分を指差して、
「これが私のハンサム顔だ! 不細工など断じて無い」
漆黒の黒髪に金色の瞳。確かに美形である。きらりと光り輝く白い歯がうざい。
だが、それ以外にも張り合う変な奴がもう一人。
「ふ、この俺のイケメンな俺に勝てるかな!」
きらりとレオンも歯を光らせる。
それを見てカノンは頭痛がした。そしてすぐ傍に先ほど案内してくれた魔族が残っている事に気づく。
試しに聞いてみた。
「……どうしてあんなになるまで放っておいたんですか?」
「いちいち考えますと、疲れますよ」
顔色一つ変えない。よく出来た魔族だとカノンは思った。
そして、似たもの同士の戦いは更にヒートアップする。
「自分でイケメンといっていて恥ずかしくないのか、この変態勇者が!」
「自分こそハンサムとか自分の事を言って、恥ずかしくないのか! この変態魔族」
「黙れ、バーカ」
「馬鹿って言った奴が馬鹿なんだからな!」
口喧嘩のレベルが子供の喧嘩レベルになっていく。
どうするんだよこれとカノンは思った。そこで、
「そもそも人間の美形ばかり攫ってどう使用って言うんだ! 喰うのか!」
「下品なやつめ! 美しいものはただ愛で、鑑賞するものだ! 触れるものでは断じて無い!」
「はん、本当か? だったら今すぐそいつ等を呼んで来い!」
「良いだろう、君達、来るんだ!」
ぱちんと指を鳴らすと、転送されてくる銀髪美少年が沢山。
「ふふふ、私の美しさを引き立てるのに彼らは素晴しいと思わないか? 穢れた勇者よ」
「きゃー、リンツ様素敵!」
一斉に褒め称える少年達。
いい加減カノンは頭が痛くなってきた。こんなのが魔王の次に強い魔族?。これが?。
もう泣いていいかな、これ。
そこで珍しくきりっとした顔でレオンが問いかける。
「何故、銀髪美少年ばかりなんだ?」
「決まっている、カノン様が銀髪だからだ!」
嫌な沈黙が支配した。視線がカノンに集中する。
その視線がリンツを讃える少年達からの嫉妬の視線が多数混ざっている事にカノンは気付く。なので、
「……気持ちが悪い。戦略的撤退をします」
くるっとその場から立ち去ろうとするカノンに、焦ったようなリンツが、
「ま、待ってください、カノン様ーっ。というか良いのですか? 任務遂行できませんでしたという事で」
「……分かった。もう少し話を聞こう」
生きていくって本当に大変だとカノンは思った。そこで、
「ふ、男としての魅力で引き止めたと……ああ、すみません調子に乗りました、許してください」
仕方が無いので、カノンは静観する事にした。
そして、再びリンツはレオンへと向き直り、上半身の衣服を脱ぎはじめた。
脱いだその上半身は、意外に筋肉質で着やせするタイプであるらしい。
そして腕を曲げて、力瘤を作ってみせる。
「ふふふ、勇者よ、お前のような優男に、このようなものは出来まい。私も日々トレーニングを重ねてようやくこうなったのだから!」
魔族なんだから体鍛えるより魔法の研究しろよとカノンは思った。
そもそもどんなに体を鍛えようと、魔法で一発だろう……剣使うわけじゃないんだから。今だって装備していないじゃないか。
しかし、それに呼応するかのようにレオンが不敵に笑い、
「ふ、その程度で筋肉自慢とは! 恥かしくないのか!」
「貴様! わが筋肉を愚弄する気か!」
「そんなの筋肉じゃない! 贅肉だ!」
「く……言わせておけば……良いだろう、そこまで言うのならばお前の筋肉の力、試してやる!」
いつから筋肉の戦いになった。カノンはいい加減頭痛を覚えるどころか、何も感じなくなっていた。
「勝負は腕相撲。三回勝負だ!」
「そうすればそこにいる少年達を返してもらえるな!」
そこで少年達がブーイングっする。
「ええー、ここのほうがいい生活できるのに!」
「それに周りは美形達ばっかりだし、リンツ様素敵だし、きゃっ」
「それに給料が良いんですよ――!」
とかなんとか。気持ちは分かる。気持ちは。
でもカノンは理性で考えるとそれは駄目なんじゃないかと思う。そこで、
「……一回帰ってからまた来れば良いんじゃないか?」
レオンが珍しくもっともなことを言う。が、
「えー、めんどくさーい」
何だろう、イラッとする。そもそもなんでこちらが悪者のようになっているんだ。その腐った性根を叩きのめしてやりたい……これは年長者の務めだよな、近頃の若い者は本当に……。
「カノンちゃん、怖いからもっと穏やかに笑って、ね?」
「イオ、僕はそんなに怖い顔をしている?」
「美人が台無しだから、止めた方がいいよ。ね☆」
カノンは笑みを消して無表情になった。実はそれも結構怖かったが、イオは黙っていた。
さっきの笑みよりはましだ。
「だが、そちらが負けたらカノン様を貰う!」
「カノンは商品じゃない!」
「ふん、カノン様を商品にしないなら、私は勝負しないもんねー」
そうそっぽを向くリンツ。仕方が無いので、レオンの傍に行ってカノンは袖を引っ張った。
「レオン、僕を景品にして」
「でも……いいのか?」
「勝算は?」
そこで清々しい笑みをレオンは浮かべた。
「100%だ!」
「健闘を祈る!」
パシンと手をカノンとレオンは打つ。
その様子が気に入らないのか、リンツがその姿に似合わず、けっと呟いたのだった。
お気に入り、評価ありがとうございます。とても励みになります。
後一話で一区切り……今日の更新は、無理、か?。