地下都市と遥ちゃん
「え…?」
玲花はかたまってしまった。
「玲花、君はね、魔法が使える…おそらく意識的に」
浩一が言った。
玲花は手を押さえた。
急に腕に雷が走るような感覚に襲われたからだ。
「手を動かすのに特別何かを意識することはないだろ?それと同じだ、土壇場で反射的に魔法が出たんだと思うよ」
浩一が淡々と続けた。一応、彼なりに玲花を思っているつもりだった。
「それで私があなたを保護したの…」
葵が言った。
葵が玲花と目を合わせる。
でもその目はすぐに下を向いた。
「守れなくてごめん…エリちゃんを、あなたのお姉さんたちを…」
玲花は少し混乱した様子で彼女の話など聞いてはいなかった。
玲花は何かを確認するかのように体をしきりに動かしている。
「あつっ…!」
バチっという大きな音を立て、玲花の手の上で火花が散った。
「あっ!何やってるの!葵ちゃん包帯持ってきて!」
玲花は意識を失う前に感じた強い衝撃を思い出した。
その不思議な感覚は葵の話や自らの不確かな記憶を証明するには十分すぎた。
浩一は葵から包帯を受け取ると、玲花の腕に巻き始めた。
「それで…私はどうなるんですか…?」
玲花が聞いた。
「う〜ん…」
浩一が少し悩むような素振りを見せる。
「しばらくはここにいることになるかな…」
「それで、私は帰れる…の?」
玲花が聞いた。
浩一は答えない。
玲花は改めて不安を感じた、それは今までの得体の知れないものに対する不安ではなく、自分の未来に対する不安だった。
「どうなるの…?」
浩一が包帯を巻き終わる。
玲花はもう感覚が麻痺してしまっていた。
自分が魔法を使えるということに対してなんの疑問も持てなかったからだ。
今はただ不安だった。
葵がその様子を見て、何かを言おうと口を開きかけたが、浩一が軽く手でそれを制した。
「とりあえず…悪いようにするつもりはないよ、いまはまだ、こっち側の処理も済んでないからな」
浩一はそう言って振り返って部屋を出た、それに続いて葵も部屋を発つ。
彼女は何か口を動かしたが、声にはならなかった。
部屋には玲花だけが残った。
時計の針が時間を刻む、自分がいない世界はどうなっているのだろう、自分はこれからどうなるんだろう。
時計の針は止まらない。
時計の針が6時を指差したころ、一人の少女が最寄りの食堂へ向かってスキップしていた。
彼女は綺麗な衣装を身にまとい、頭には見るからに邪魔そうな大きな帽子を乗せている。
「あれ?葵じゃん、お〜い!」
彼女が大通りに出た時丁度、本部の門を潜った葵の姿が見えた。
少女は葵のところまでかけて行き、彼女の肩に手をかけた。
「あ、うん…」
葵は玲花に対して十分な道を示そうと考えていたものの、うまくそれを説明できなかった。
そんなことを知る由もない少女は不思議そうな表情をした。
「なにか…あったの……………もしかして…恋か!?」
「いや!違うよ!」
少女のあまりに突拍子もない発言に葵は思わず表情を緩めた。
「実は…」
緊張が解けたのか、葵は事情を軽く話した。
「う〜ん、それは浩一のやつが悪いな、あいつ空気読めないもん、そうだ!」
少女は何かを思いつくと、葵が来た道をなぞるように門へかけて行った。
「何するつもりなんだろ」
葵を置き去りに…
玲花は一人、浩一の部屋で物思いに耽っていた。
どれだけ考えても考えがまとまらなかった。
最初は姉と友人の死、ゴースト、魔法…
夢を見ていたような、そんな感覚だ。
長針が2を差した頃。
「やぁやぁ玲花ちゃん!」
扉を勢いよく蹴飛ばして、一人の少女が部屋に現れる。
あまりの突然の出来事に玲花は体を大きくビク付いた。
「ご飯にする?お風呂にする?それともアタシ?」
玲花は混乱し、頭の上にハテナマークが浮かんでいる。
「なんて冗談だよ〜 一応、一度は顔を合わせてると思うけど」
玲花は呆然としている。
「覚えて…るよね?え?覚えてないの?…………魔法少女なんて印象が一番大事かもしれない職業なのに…もうだめだ…おしまいだ!!!」
玲花は言葉を失っている。
少女がふざけた顔から、優しそうな顔に変わっていく。
「お腹空いてないかな?ずっと何も食べてないよね?」
玲花は自分のお腹に手を当てる、確かに何かを食べたいと感じた。
玲花は素直に頷いた。
目に少女の腰に引っかかっているモノが目に映る。
それには見覚えがあった。
彼女にとってそれはある種の希望の象徴でもあるからだ。
玲花の目にまえでゴーストを撃退したまさにそのバールのようなものものだ。
「あ…!!」
「ん…?虫でもいた?」
少女は少し動揺した様子で周りを見渡す。
「あ!もしかして、名前? 私は遥っていうの、よろしくね」
遥は玲花に向けて手を差し出す。玲花は少し悩んだ後にその手を静かに掴んだ。
「あ?何か食べたいものとかある…?なければ私の好みで勝手に決めるけどいいよね?」
玲花は首を縦に振る。
建物を出た、そこはいくつかの建物が林立している。
「ここは魔法少女連盟の本部、今いたのは研究棟」
玲花は少し身震いがして自分の体を確認したが改造手術の後なんてものは見つからなかった。
「いま、なんか怖い想像してでしょ?別にやましいことはないよ、連盟は少し不透明なところはあるけど、根っからのクソッタレはそんじょそこらと同じぐらいしかいないよ。」
玲花は少し安心した様子だった。
敷地の周りは巨大な壁に覆われていた。
中心に円筒状の巨大な建物がある。
壁はどうやら二重になっているようで、一つ目の壁を潜ると先にもう一枚の壁があった。
お城というのがしっくりくる場所だ。
「すごいでしょ?この建物でも一つ欠点があるんだ」
玲花は大真面目に遥の目を見た。
「それはね」
それは…
「何世代か前の連盟代表の趣味で一部を除いてほとんどガス灯だから基本室内で文字が読めないんだ…だから……部屋に隠れてあんな本やこんな本が読めないんだ!!!!」
玲花は少し呆れた顔をした。
「ねぇ!?何その表情!?」
門を潜るとそこには長く続く大きな道が広がっている。
向こう側にある壁の方まで続き、とても賑わっていた。
「ここはアンダートーキョー、遊びに来た外国の魔法使いがそう呼び始めたからここでもそう呼んでる、地下鉄の使われなくなった吸気口に穴開けてるんだ。これで誰にも入り口がバレない。」
玲花はその話が昨日のことだと聞いて少し驚いた。
ずっと寝てしまっていたのか、考え事をしてるうちに時間が過ぎていたのか。
あまりに現実的でないこの空間に自分が慣れてしまっていると言う感覚がはっきりとしてきた。
遠くを見渡すとやはり球体のような建物がたくさんあった。
昨日も見た光景だが、やはり同じ国、同じ世界、同じ現実とは思えない空間が広がっている。
最初はデパートや百貨店のような意識の高そうな店が並んでいた。
歩みを進めるうちにだんだんチープな雰囲気を持つ建物が増え始め,やがて完全に入れ替わる。
それと共に、人の数もだんだんを増え、ガヤガヤとより賑やかになって行った。
道ゆく人々、皆、遥と同じような衣装と帽子を被っている。
中にはドレスやローブだけでなく、迷彩服にフルプレートアーマー…ビキニアーマーなんてものも。
道の真ん中には車道のような場所があり、馬車やエミュとかいうデカい鳥、と言ったら動物はもちろん、もちろん?
自動車、といっても日製や四つ菱のような外でもよく見かけるような乗用車から、FEAT500の古いモデルにt型ファードなんて今時滅多に、絶対にお目にかかれないものまで走っている。
「カオスだろ?数十年に一度代表が変わるとそいつの趣味で全てが管理されるからこの地下空間は闇鍋になるんだ、なんで残ってる?残すやつがいるからだよ」
遥は玲花が疑問に思ったことを的確に答えてくれた。
道を横に大きく断つように巨大な交差点のようなものが出現する。
玲花は遥に手を引かれてそこを右に曲がた。
「まだまだ遠いけど、大丈夫かな?」
遥は少し進んで今度は左に曲がった。
目の前に急勾配が広がる、二人は一度立ち止まった。
「ここから疲れるぞぉ、さぁ!」
遥は歩みを進めようとすると後ろから低いクラクションのような音が聞こえた。
「遥ちゃ〜ん?何新しい彼女か?デート?」
外車のピックアップトラックだろうか、サングラスをかけたおねぇさん?が運転している。
「あら、かわいい娘!乗せて行ってげようか?」
「別にいいですけ、行き先同じなんですか?」
遥が少し語気を強くして聞いた。
「あんたがこの道通るなんて、行き先は決まってるだろ?……で、どうする?」
玲花は遥の顔を見つめ、無言で問いた。
遥は目線を一度、車に向け少し嫌そうな顔をしてから。
「じゃあ、お願い」
おねぇさんはサングラスの中でウインクした。
「おっけ〜じゃあトランクにのってね」
二人はトランクの上で肩を並べて座る。
車が動き出すと標高が徐々に上がっていく。
玲花は車に揺られ、また考え事を始める。
…いかちゃん
「玲花ちゃん?」
玲花は体を大きく痙攣させた。
「ほら見てよ」
遥に言われ景色を見渡す。
とても遠いところまで来ていた。
「ここでしか見れない夜景だ、地下だけどね、悪い場所じゃないでしょ?」
玲花は頷く。
「では改めて、ようこそ、魔法少女連盟に」
呼んでるいただきありがとうございました。
かなり無理矢理ですが明るい作風にシフトできるように頑張りました、暗い話も面白けど、嫌な気分になっちゃうからね。
このカオスな地下都市で生活する個性豊かな魔法少女たち、次回はそんな風な話がかけたらいいなと思っています。
玲花ちゃんがこれから会うであろう、魔法少女たちはどんな人々なのでしょうか?
玲花ちゃんは彼らとの出会いを通し、どうなっていくのでしょうか?
これからも玲花ちゃんをよろしくお願いします。




