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帰省したら弟が妹になっていました  作者: 海外空史


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4/10

4 お参り

 帰省をしてから3日目の今日、俺は家族とドライブしていた。運転は昨日に引き続き俺だ。

 

「お兄ちゃん、次の信号を右だって」

「次の信号だな。了解」

 

 助手席に座る綾からの指示に従い、ハンドルを操作する。出かける前に「お兄ちゃんの隣に座るのは僕」と言って、譲らない姿を微笑ましく思ったものだ。

 

「目的地まであとどれくらいなんだ?」

 

 後ろの席から父さんが問いかける。その隣には母さんが座っている。

 

「もうすぐだよ。5分もかからないぐらい」

 

 スマホの画面を見つめながら、綾はそう答えた。弟はスマホの地図アプリを使いこなし、ここまでの道のりをナビゲートしてくれた。

 幼い子供だと思っていた綾がこうしてテキパキと案内している姿を見て、弟が成長したことを実感した。

 

「圭と綾に案内されて、ドライブするなんてね。時が経つのは早いものだわ」

 

 母さんが俺と同じような感想を言った。確かに子供の頃は俺と綾が後ろの席で、父さんが運転を、母さんがそのサポートをしていた。けれど、今は全く逆の立ち位置だ。綾だけでなく、俺も成長したのだと今更ながら実感した。

 そして、とうとう目的地に到着した。駐車場に入り、適当なところに車を停める。

 

「よし、着いたぞ」

「上手に運転できているわね」

「駐車も問題ないな」

 

 母さんと父さんは俺の運転を見て、そう言った。両親から運転を褒められて、俺は嬉しくなった。

 

「お兄ちゃん、運転お疲れ様」

 

 綾は缶コーヒーを俺に手渡した。

 

「綾こそナビをしてくれてありがとうな」

 

 俺は弟から缶コーヒーを受け取った。コーヒーを一口飲んで、頭をスッキリさせる。

 

「けど、本当にここで良かったのか?」

「うん。ここに来たかったんだ」

 

 綾は楽しそうな顔を浮かべて周囲を見回した。弟の視線につれられて、俺も視線を動かす。

 駐車場から少し離れたところに鳥居が見えた。今俺たちがいるのは八尋神社だ。今日、俺たち家族はこの神社へお参りに来ていた。ちなみにまだ12月のため、これは初詣ではない。

 

 

***

 

 

 年が明けていないのに、どうして神社に来ているのか。それは昨日の夜まで遡る。

 昨夜、母さんの提案により家族でどこかへ出かけようという話になった。どこへ出かけるのか意見を募ったところ、綾が勢いよく手を上げた。

 

「僕、八尋神社に行きたい」

 

 そう目を輝かせて弟は主張していた。そんな可愛らしい様子とは裏腹に綾の提案した内容に俺は首を傾げた。

 

「神社? 初詣はまだだぞ」

 

 12月に初詣するのは気が早いように思えた。いや、よくよく考えると、12月に初詣は遅すぎるのか。

 

「なるほど、八尋神社か」

「今ならちょうどいいかもしれないわね」

 

 俺の反応と違って、両親は乗り気のようだった。

 

「母さん、"ちょうどいい"ってどういうことだ?」

「ほら、来年から綾は高校受験でしょ?」

 

 中学2年生である綾は来年の4月から受験生になる。確かに母さんの言う通りだ。

 

「そして、八尋神社はこの辺りだと学業の神様を祀っていることで有名だ。高校受験に臨む綾にピッタリだ」

「ああ、そういえば、俺の受験の時も行ったような……」

 

 俺は過去の記憶を引っ張り出した。確かに受験の時は八尋神社にお参りした覚えがある。

 

「来年の今頃は受験も追い込みする時期だからな。遠出する機会は中々ないだろう」

「まあ、確かにそうだな」

「それに年が明けてからだと初詣の人たちで混雑するのよ。行くなら人が少ない今の方がいいわ」

 

 確かに学問の神様だからといって、受験生以外訪れないということはない。それどころか毎年正月ごろは八尋神社は参拝客で溢れかえると聞いたことがある。

 

「そう考えると今しかないのか」

 

 俺は腕を組んで納得の声を出した。綾が提案した時、両親が否定的でなかった理由が理解できた。

 

「綾はここまで考えて、八尋神社にしたのか?」

 

 俺は弟にそう尋ねた。そこまで考えて、神社にお参りすることを提案するなんて綾は俺より考えていると思ったからだ。

 

「え? えっと、そうだよ」

 

 俺の問いかけに何故か弟は歯切れ悪そうに答えた。

 


***

 

 

 無事に話し合いが終わり、今朝家から出発した我が家はようやく目的地である八尋神社に着いたのだった。

 

「まずはお参りからね。その後にお守りを買いましょう」

 

 母さんの提案通り、俺たち家族は両親を先頭にして本殿へと向かった。昨日の話し合いの通り、神社の境内には数えるほどしか人がいなかった。これが初詣の時ならば、人で溢れかえっているはずだ。

 

「これなら逸れる心配はないな」

 

 俺は隣を歩く弟にそう言った。

 

「え? あっ、そうだね」

 

 綾は明後日の方向を向いていたため、俺の返事をするのに戸惑っていた。

 境内に入ってから、綾の様子が少しおかしい。辺りをキョロキョロする癖は子供の頃から変わらないが、今の弟は周囲を眺めているだけというより、何かを探しているように思える。

 

「どうした? 本殿はあっちだぞ」

 

 俺は本殿を指で指し示した。てっきり綾は本殿がどこにあるのか迷っているのだと思っていた。

 

「そうだね。あそこがお参りするところだね」

 

 そう口で言いつつも、未だ綾の視線はあちこち動いたままだった。

 

「綾は何を」

「おーい、2人とも早くいらっしゃい!」

 

 前方から母さんの声が聞こえる。どうやら俺と綾が話している内に、両親と距離が離れてしまったようだ。

 

「分かった! 行くぞ、綾」

 

 俺は綾が何を探しているのか問いかけようと思ったが、母さんに呼びかけられたため、やめておいた。

 

 

***

 

 

 俺たち家族は、本殿の前に到着した。本殿は大きい建物で、家族4人が横一列に並んでもすっぽり入るぐらい広かった。

 賽銭箱を正面に、父さん、母さん、綾、俺の順番で横に並んだ。

 

「綾、鈴を鳴らして」

「うん、分かった」

 

 母さんに言われて、綾は本殿の天井から垂らされた紐を手に取った。紐を上下に揺らすと、紐の先に取り付けられた鈴がシャラシャラと音を鳴らした。

 それを合図に、家族全員がお賽銭を取り出して、賽銭箱へと放った。

 2回お辞儀をし、次に柏手を2回、最後にもう1回お辞儀をした。事前に父さんから教わったお参りの作法だ。

 

(綾の受験が上手くいきますように。あと、俺の平穏な日々が続きますように)

 

 そんなことを神様に願った。俺はチラリと隣に目を向ける。俺の横にいる綾も俺と同じようにお参りしていた。

 その後、お参りを済ませた俺たち家族は、本殿から離れた。

 

「さて、お参りも済んだし、次は綾のお守りを買いましょう。どこに売っているのかしら?」

「母さん、あそこに境内の地図があるみたいだ」

 

 父さんが指で指し示した方向を見ると、大きな看板のようなものが立っていた。遠目だがなんとなく地図に見える。

 俺たちは看板の下へ近づいた。

 

「ここから少し歩くな」

「でも、大して遠くないわね」

「それなら、僕とお兄ちゃんで買ってくるよ。お父さんとお母さんは休んでて」

 

 不意に綾がそう言った。

 

「あら、いいの?」

「うん。そんなに時間かからないなら大丈夫だよ」

「圭もいいのか?」

「ああ、いいよ」

 

 俺としても特に問題ない。まあ、ぞろぞろと全員でお守りを買っても仕方ないだろう。

 

「決まりだね。行こう、お兄ちゃん!」

 

 綾に手を引かれて、俺はお守りを売っているところへ向かった。

 

 

***

 


 学業成就のお守りは無事に買うことができた。綾の好きな紺色の袋に包まれたお守りだ。

 

「よし、無事に買えたな。それじゃあ、母さんたちのところに戻るか」

「ねえ、お兄ちゃん」

 

 綾の声が聞こえて、俺は歩き出そうとした足を止めた。弟の声色が普段と違って聞こえたからだ。

 

「ちょっと寄りたいところがあるんだけどいい?」

「寄りたいところ?」

「うん。ダメかな?」

 

 綾は顔を少し傾けて、上目遣いで俺を見つめていた。可愛い弟にそんなお願いされたら兄として力を貸したいと思った。

 

「ああ、いいぞ」

「ありがとう、お兄ちゃん」

 

 そう言って、綾は嬉しそうに微笑んだ。その笑顔はいつもの愛らしさとはまた違って見えた。

 綾が俺を連れてきたのは、本殿よりも小さな社だった。境内の片隅に寂しそうに置かれていたものだ。

 

「ここでいいのか?」

「うん、そうだよ」

 

 綾は財布からお賽銭を取り出すと、社の目の前にある賽銭箱に入れた。

 綾は先程本殿と同じようにまず2回お辞儀をした。そして、柏手を2回打ったが、そのまま両手を合わせた状態で目を閉じた。

 弟は何も言わずただじっと目を瞑っていた。俺はそんな綾の様子をただ見つめていた。何故だか綾の横顔は普段よりも綺麗に見えた。

 それは永遠のように感じられた。綾は目をゆっくりと開いた。そして、1回深々とお辞儀をした。

 

「お待たせ」

 

 綾は俺に向かって笑顔を浮かべた。その笑顔はいつも通り愛らしさが浮かんでいた。

 

「別に待ってないぞ」

「でも、僕はお兄ちゃんと一緒に"ここ"へ来たかったんだ」

 

 綾は後ろを振り返り、先程お参りした社を見つめていた。もしかしたら、綾は八尋神社の本殿よりもこの社にお参りしたかったのでないか。俺の頭にそんな考えが浮かんだ。

 

「喉乾いたから飲み物買ってくるよ」

「分かった。ここで待っている」

「うん。行ってきます」

 

 そう言って、弟は俺から離れていった。そんな弟の背中と弟がお参りした社を交互に見比べていた。

 

「あら、圭? そんなところにいたの?」

 

 呼ばれた気がしたので、声のした方を向くと、母さんがいた。


「母さん、休んでいたんじゃなかったのか?」

「2人が中々来ないから心配で探したのよ。綾はどうしたの?」

「ちょっと飲み物買ってくるみたいだ」

「あら、そうなの」

 

 その時、母さんは俺の目の前にある社に気づいた。その瞬間、母さんの顔が微笑ましいものを見ているように変わった。

 

「へえ、圭はこういうのに興味があったのね」

「え? どういうことだ?」

「だって、ここの社に祀られているのは恋愛成就の神様よ」

 

 母さんの言葉につれられて、俺は慌てて社を見る。

 

「そうだったのか……」

「知らないで来たの? ほら、ここに書いてあるじゃない」

 

 母さんが指し示した看板には、ここの社に祀られている神様の説明が書かれていた。その看板を読むと、確かに母さんの言ったことと同じ内容が書いてあった。

 

「私はてっきり圭が恋の悩みを抱えているのだと思っていたわ」

 

 朗らかにそう言う母さんに大して、俺は何も言い返すことができなかった。

 恋愛成就の神様が祀られている社に綾はどうしてあんなに真剣にお参りしていたのか。その疑問で頭の中が一杯だった。

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