光
「・・・」
私は穴の中に居続けていた。
「・・・」
もう、あれから幾数日が経っただろうか。もう数か月、いや、一年、二年、三年、十年・・、百年・・、いやもっとだろうか・・、時間というものの概念が完全に失われた世界で、それはまったく雲をつかむような感覚だった。
しかし、そんなことはどうでもよかった。穴から出たいという欲求はもう完全に失われていた。いや、それ以外の欲求自体が失われていた。
私の体の上には少しずつ、土や落ち葉などが降り積もっていた。私は少しずつ、穴の中に埋もれようとしていた。
だが、このままでよかった。このままでいい。私はそう思っていた。私は望んですらいた。この穴の中に埋もれていくことを――。
「・・・」
夜、世界は漆黒の闇だった。手で掴めそうなほどに闇に漂う黒は深かった。しかし、その闇さえもが心地よかった。
夜になっても不思議とほとんど眠ることはなかった。眠ったとしても、それは心地よい現実の続きであり、私の意識は絶えずそこにあった。
私は常に何か大きな存在に守られ、心地よい何かに満たされていた。
「・・・」
夜が明けようとしていた。
「・・・」
暗かった夜空が薄っすらと白んでくる。太陽の光が、ゆっくりと空間一杯に広がり世界全体の景色を変えていく。世界が今、新しく生まれ変わろうとしていた。
光が、ダイヤモンドダストのような光の粒子となって世界を満たし、神の祝福のように全世界を照らし出す。穴の中にその光が差し込んで来る。私はその光の束にゆっくりと包まれていく。
「なんて美しいのだろう」
まるで世界そのものが輝いているようだった。
「なんて美しいのだろう」
言葉がなかった。神の光――。宇宙の光――。奇跡の光――。それは言葉にしようのない光だった。それは目で感じるだけの光のそれではなかった。
圧倒的な光の量だった。細胞の一つ一つ、心の奥の奥の闇の部分にまで圧倒的光量の光が降り注ぐ。
「なんて美しいのだろう」
私はその神々しいばかりに輝く光に言葉もなく感動していた。それは堪らなく美しく、神の抱擁のように私を、得も言われぬ感動と共にやさしく包み込む。
私は光と一体になっていた。私は光に包まれ、光の世界に溶けていく。私は光になってく。そして、光の世界に溶けていく。私は世界で世界は私だった。
恐ろしいほど広大で深い感動が私を包み込んでいた。世界はなんて美しいのだろう。私は気づく。世界は美しい――。
気づくと私は涙を流していた。悲しさでも喜びでもなく、なんだかよく分からない、しかし、それは心の底から溢れ出る深い深い涙だった。




