表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: ロッドユール
5/7

 穴の中には何もなかった。しかし、ここには世界のすべてがあった。


 数日が経っていた。

「・・・」

 私は穴の中にいた。

 ここには時間がなかった。それが、感覚で分かった。過去も、未来もここにはなかった。今という感覚さえもがなかった。

 太陽が昇り、時間が来れば沈んだ。夜には星が出て、月が昇る。しかし、それは時間の経過ではなかった。それはただの現象だった。いや、現象ですらなかった。ただの動き、変化、点滅、流れだった。

 外に出たいという欲求ももちろんあった。元の生活に戻りたい。ネットも気になる。仕事もやりかけたものもたくさんあった。本も読みたいし、映画も漫画も見たい。行きたいところもいっぱいあった。

 しかし、私は、この穴を出なかった――。

 不思議と、穴の周囲を誰も通らなかった。確かに街はずれの人気のない場所ではあったが、散歩をしている時は割と人も見かけたし、まったく人気がない場所では全然ないはずだった。夜ですら、誰かしらがジョギングをしていた。そんな場所のはずだった。

 ふと見ると、何かが、穴の底を覗いていた。私はぎょっとする。それは丸い形をしていた。私はそれを注視する。

 猫だった。真っ白い猫が、その丸い頭だけを穴の上から覗かせて私を見つめていた。

「・・・」

 猫はただ無表情に私を見つめていた。私もそんな猫を見つめ返す。

「・・・」

 私たちは無言でお互い見つめ合った。猫は鋭く縦細くした目で私を捉え、見つめ続けていた。その猫の見つめる目の先にある私に、私は不安を感じた。

「私は・・」

 私は、ふと私が分からなくなる。しかし、それは不安であるのと同時に解放でもあった。

「私のいない世界・・」

 そんなものを今まで想像したことすらなかった。

「私は・・」

 私は私が分からなくなった。

 気づくと猫はいなくなっていた。

「・・・」

 ふと、あれは幻であったのかと錯覚するほどに、不確かな感覚が私を襲う。

「あれは・・」

 何かを暗示しているような気がした。何か・・。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ