1-7
「・・・開いたね」
アマネの声にはかすかな緊張が混じっていた。
驚くほどあっさり開いた扉は思いのほか軽い。
アマネが手を離すと閉まってしまいそうな雰囲気すらあった。
ハナブサはゆっくりと中に足を踏み入れる。
「図書館の話は聞いたことがあるが・・・」
彼の声は驚きというよりも、どこか覚悟に似た響きを帯びていた。
「ハナブサ・・・くんの島ではどんなお話だったの?」
アマネはハナブサをどう呼んだらいいのか、少しためらった。
見た目の年頃は自分と似たものを感じるが、
彼と自分には大きな隔たりがあるように感じたからだ。
「祈りの島には扉が開かない図書館ある。そんな感じかな」
初対面ではあったが、開かないと思っていた図書館の扉が開くという、
秘密の共有を経たためか、二人の距離は一気に縮まっている。
アマネは入口のそばにある書架から本を一冊手に取った。
背表紙には何の題名も書かれていない。
けれど、開けば確かに文字が刻まれている。
「えっと・・・今日は月草を取りにいきました・・・?日記?」
アマネは適当に開いた頁の一文を読みあげる。
その文は、まるで今も誰かが綴っているかのような新しさを持っていた。
書かれているのは遠い昔の記録のはずなのに、インクがまだ乾ききっていないように見える。
ハナブサはアマネの手元を覗き込み、
「日記……いや、これは記録だな。誰かが歩いた道を、そのまま残したものだ。」
と呟いた。
アマネは首を傾げる。
「でも…誰の記録だろう?」
その問いに、ハナブサはすぐには答えなかった。
しばし書架を見渡し、整然と並んだ背表紙のない本たちを見つめる。
何かを探しているようで、その視線はゆっくりと彷徨う。
やがて彼は一冊を抜き取り、ゆっくりと開いた。
そこには、こう記されていた。
「――次の渡航者は、二人である」
その文字を見た瞬間、二人は思わず顔を見合わせた。