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1-6


アマネとハナブサは並んで古びた石造りの館の前に立った。

夜の闇に沈むその建物は、長い年月を静かに蓄えてきたように重く、厳かだった。

扉は声に覆われ、まるで時の流れそのものを閉じ込めたかのように沈黙し、

何年も、いや何十年も開かれていないのではないかと思わせた。


「・・・ねえ、聞いたことがある?ここが図書館」

アマネはそっと口を開いた。

島の外ではこの館の話はもはや、おとぎ話として語られている。

彼女がかつて、島を離れていた頃にその存在を話すと、誰もがそれは古い言い伝えだと答えた。


「ああ。呼ばれた者にしか開けられないって、どこかで聞いたことがある」

ハナブサは視線を扉に向けたまま、静かに答える。

その声には埋もれた記憶をたどるような気配があった。


「私も子どもの頃は、作り話だって思ってた」

アマネは微笑みながら、扉のノブに手を伸ばした。

ひんやりとした金属が、掌に触れる。


「開くかなー」

そう言って、彼女は小さく力を込める。

アマネは半ば冗談めかし、半ば不安を隠すように笑う。


「・・・作り話なら、その方がよかったかもしれない」

ぽつりと、ハナブサがつぶやいた。

その言葉には冗談の色は一切なかった。

まるで、扉の向こうにある何かを知っているような、

あるいは、それと出会うことを恐れているような響きがあった。


アマネは思わず横顔を見つめ、軽口を飲み込んだ。


ガチャリ。


沈黙を破る金属音が、夜に響いた。


扉はゆっくりと、まるで眠りから覚めるように内側へ押し開かれ、

奥からかすかな風が漏れ出す。

古びた紙と乾いた空気の匂い、そしてどこか懐かしい香り。


月の光が差し込む中、静かに開いたその空間は、

確かに「図書館」だった。


アマネは息を呑み、目を見開いた。

扉の向こうに、かつて信じることができなかった、おとぎ話が広がっていた。


ハナブサはただ無言でその様子を見つめていた。

ハナブサが目の奥に宿したものが何であるかは、

アマネにはまだわからなかった。


けれど、その瞬間、二人の間で確かに、何かが静かに動き始めていた。


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