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1-5


灯火を手にしてはいるが、彼は島の熱気には溶け込んではいなかった。

まるで彼のまわりだけ、時間が遠ざかっているかのように感じられる。

風が布をはためかせも、歌が響いても、彼だけは別の世界に立っているかのようだった。


アマネはその姿から目が離せなかった。


ーなぜだろう。初めて見る顔のはずなのに。


真っ白な月明かりの下、アマネは彼に向かって歩き出す。

何か声をかけなくては、そんな衝動に突き動かされていた。


「こんばんは」


アマネの声に、彼はゆっくりとアマネを見つめ返した。

その瞳は不思議な色をしていた。

島の人々が持たない、外の風を知る者の影をたたえていた。


広場の人々は二人のやり取りを静かに見守っていた。

それが好奇心からか、あるいは不安や恐れからか。

おそらく、両方が入り混じっていた。


「こんばんは」

彼もまた、同じ挨拶を返した。


「ここは祈りの島ですよ?」

気がつけば、アマネの口からその言葉がこぼれていた。

彼が島を間違えて来たのではないか、そんな疑念が一瞬、心をかすめたのだ。

けれど本当は、彼が間違えていないことなど、アマネ自身がいちばんよくわかっていた。


「はい、祈りの島に来ました」

彼も迷うことなく、そう答える。

まるで言葉が交わされる前から決まっていたかのように。


「少し静かなところがあるの」

周囲の視線に居心地の悪さを覚えたアマネは、賑わう広場を背に歩き出した。

すると、彼も何も言わずに、そのあとについてくる。


二人が歩き出したことで、広場の空気は一気に和らぎ、再び笑い声があふれ始めた。


広場から離れるにつれて、ざわめきは次第に遠のき、

灯火の音だけが二人を包んでいた。

アマネは隣を歩く青年を横目で見ながら、ためらいがちに口を開いた。

「・・・あなた、外の島の人?」


「はい、そうです」

短い答えと共に、彼は小さく微笑んだ。


「名前、聞いても?」

島の外の人であることなど、聞かなくてもわかっていた。

アマネは、そんな当然のことを尋ねた自分を少しだけ恥じた。


「・・・ハナブサ」


その響きに、アマネの心は小さく震えた。

どこか懐かしく、呼んだこともないはずなのに、

なぜか知っているような響きだった。


「私はアマネ、この島の生まれ」


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