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満月の夜、祈りの島は一年でいちばん賑やかになる。
普段は静かな農地も祈りの小道も、
この夜ばかりは灯火に飾られ、子らの笑い声や歌声で満たされる。
白い風に揺れ、月をかたどった円盤と月草が家々に吊るされる。
人々は互いに祝福を言い交し、渡航の船を迎える準備に忙しい。
けれども、祈りの島に渡航の船が訪れることはほとんどない。
祈りの島の渡航文様は、ただの円環。
ぐるっと全てを飲み込むように描かれた文様は、この島には何もないことを意味していた。
文様は複雑であればあるほど英知とされているこの世界で祈りの島の文様は、
あまりに味気なく、変わり映えしない日常を示している。
それでも島の人々は毎年必ず迎えの準備を行う。
そして、人が来ず終わったととしても、それはそれで良かったと微笑み合う。
アマネは、その熱気の中にいながら、どこか冷めた目で広場を眺めていた。
祈りの島に生まれた者として、何度も繰り返し見てきた祭り。
心のどこかで同じことの繰り返しに息苦しさを覚えている。
ーどうしてみんな、こんなにもこの島に夢中でいられるんだろう。
アマネはこの島で珍しい外の島を知る一人だった。
十七で祈りの島を離れ、学問に触れ、英知に飛び込み、
異なる価値観を持つ人々と交わり、いくつもの島を訪れた。
けれど、どこにも根を下ろすことはできなかった。
そして、一年前の満月渡航で帰郷した。
けれど帰ってきてみれば、懐かしさの裏に息苦しさがつきまとう。
祈りに人々が酔いしれるたび、アマネの胸には理由のない寂しさが広がっていく。
この島だけで満たされることはできなかった。
そんな思いを胸の奥にしまい込みながら、
アマネはふと、船着き場に立つ一人の青年に気がつく。
旅人らしいその姿は人の訪れることのないこの島では異質だった。
人々と同じ灯火を手にしてはいるのに、彼だけまるで、ここに居場所がないように見える。
目が離せなかった。