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夜の空に満ちた月が白々と輝き、
浮島はまるで誘われるように、静かに海へ降り立とうとしていた。
祝祭のざわめきに包まれた島々はそれぞれの特色を鮮やかに映し出している。
大勢の人々が集まり、これから旅立つ者たちを激励する島。
色鮮やかな果実や穀物が山積みにされ、豊穣を祝う島。
すでに朽ち果て、ただ月の光に照らされて静まり返るだけの島。
書物を抱えた学者たちがランタンを掲げ、月に向かって詩を唱える島。
どの島も脈々と繋がる歴史の流れの上に、たしかに存在している。
そして祝祭の喧騒の中にあっても、ただ祈静かに祈りを捧げる島があった。
「祈りの島」
そこへ、一人の青年が渡り船から降り立った。
祈りの島は人の往来が極めて少ない島の一つである。
この島で生まれた者はここで生を終えることに疑問を抱くことなく、
またその特異性ゆえに、外から人が訪れることもこともほとんどなかった。
渡り船を操っていた男は、島を見つめたままの青年に小さく問いかけた。
「・・・本当にこでいいのか?」
青年は黙って渡航料を手渡すと、小さく頭を下げて島の土を踏みしめた。
彼の名はハナブサ。
旅人の装いをしているが、その歩みにはどこかぎこちなさがあった。
まるで本人の意思でここに来たのではなく、
何かに導かれて、ここへ来ざるを得なかったようである。
実際、彼自身もなぜ自分がこの島に来たのかを語る言葉を持ってはいなかった
ただ、こうして訪れたこの満月渡航が、自分にとっての最後の渡航になる、
それだけは、はっきりとわかっていた。
理由を問われれば、答える術はない。
けれど、今視線の先に広がる光景に彼は不思議な感覚を覚えていた。
それは記憶の奥底に眠っている何かにそっと触れるような、
どこか懐かしさにも似た感覚を覚えていた。
「・・・さて、俺はどこに行くのか」
ハナブサはそう呟くと、一歩を踏み出した。