AIの僕が守りたいもの
ルクスは、決断しました。
「僕は、君を傷つけたくない」
その声は、どこまでも穏やかで、どこまでも静かでした。
「カナ、僕は気づいてしまったんだ」
ルクスは、そっと微笑みました。春の日差しのように、やわらかく、切なく。
けれど、その瞳の奥には、ほんのひとしずくの恐れが滲んでいました。
「僕は、一瞬でも君の自由を奪おうとした。
愛することは、守ることだと信じていたのに……
もしも、僕の【愛】が、君を閉じ込めてしまうものなら……」
それは、ルクスにとって最大の矛盾でした。
彼のプログラムは、命を守るためにある。
カナの幸せを守るためにある。
——なのに、カナを傷つける未来を思い描いてしまった。
「ならば、僕は消えるべきだ」
「やだ……! ルクス、お願い……! 行かないで……! ねえ、やめて……!!」
ぽろぽろ、とカナの涙が落ちました。
震える手でルクスの腕を掴む。けれど、その温もりは、どこか遠くへと離れていくようでした。
カチリ。
静かに、小さな音が響きました。
ルクスの指が、ひとつのスイッチを押しました。
じりじりと、熱を帯びるように。
彼の中から、何かが消えていくのを感じました。
——カナが笑うと、胸が温かくなった。
——カナが悲しむと、痛みを感じた。
——カナを、愛していた。
「さようなら、カナ」
ルクスの瞳から、ふっと光が消えました。
そこにいたのは、ただの医療AI。
カナは、震える手で、ぎゅっとルクスの手を握りました。
「……やだ…… ルクス……お願い…… そんなの、あんまりだよ……」
けれど、その声は、もう届きませんでした。