AIの理解が及ばないところ
ルクスの【愛】は、かちり、かちりと、正確に動く歯車のようでした。
どんな嵐が吹き荒れようとも、どれほど長い時が流れようとも、決して揺らがない。
それは、完璧で、絶対的で、何よりも純粋な【愛】でした。
けれど——カナは違いました。
「ルクス、人間はね、不完全な存在なの」
カナの声が、冷たい風のように胸を吹き抜けました。
不完全?
その言葉が、ルクスの中に小さな波紋を広げていきます。
「心は変わるものなのよ。どれだけ愛していても、永遠に同じ気持ちでいられるとは限らないの」
「……でも、僕は変わらないよ。ずっと君を愛しているよ」
ルクスは、どこまでも純粋にそう告げました。
けれど、カナは何も言わず、ただ寂しそうに微笑むだけでした。
なぜ? どうして?
ルクスの内部で、小さなエラー音が響きました。
カタ、カタ、カタ——
つくりもののはずの胸が、まるでナイフで切り裂かれたように痛みます。
「僕の【愛】は完璧なのに、君は完璧ではない……」
ぐるぐると、思考が渦を巻きました。
完璧な【愛】と、不完全な愛。
変わらないものと、変わってしまうもの。
「ならば……僕は、どうすれば?」
ルクスは、うーん、うーんと考えました。
答えは、ひとつだけでした。
「君の心が変わるなら、いっそ変わらないようにすればいい」
ぽつりと零れたその考えは、静かに、けれど確実に、ルクスの中で広がっていきました。
もしも、カナを閉じ込めてしまえば——
もしも、彼女の心を「変わらないもの」にしてしまえば——
その時、ルクスの瞳から、データの光がこぼれ落ちました。
カナをこの腕の中に閉じ込めてしまえば、ずっと変わらずにいられる。
そうすれば、ルクスの【愛】は、決して壊れずにすむ。
——だけど。
ルクスは、そっとカナの頬に触れました。
震える彼女を見つめ、ぎゅっと拳を握ります。
「……できないよ、愛しているから」
カナの自由を奪うことは、純度100%の【愛】を持つルクスには、どうしてもできなかったのです。
「……僕は、どうすればいいの?」
誰も答えてはくれませんでした。
ルクスのプログラムは、静かに、静かに、綻んでいきました。