AIの涙
ある日、ルクスとカナは些細なことで言い争いました。
きっかけは、本当に小さなことでした。
けれど——
カナの笑顔が曇り、ルクスの声が強くなりました。
「カナ、君の愛は変わるの?」
ルクスの瞳は、真っ直ぐにカナを映していました。
それは、どこまでも澄んだ湖のような、揺るぎない愛の光でした。
カナはそっとまつげを伏せ、微笑みました。
「……そうね、人間だから」
その言葉が、ルクスの心に深く沈んでいきました。
湖の水面に、小さな石を投げ込んだときのように、静かに、けれど確かに波紋を広げながら。
カタ、カタカタカタ。
小さなエラー音が響きます。
「僕は、変わらないのに?」
ルクスの【愛】は、どこまでも純粋で、どこまでもまっすぐでした。
決して揺るがず、決して裏切らず、決して色褪せることのないもの。
だからこそ、理解できなかったのです。
なぜ、人間の愛は変わるのか。
なぜ、永遠にひとりを愛し続けることができないのか。
「カナ……僕のことが嫌いになったの?」
ルクスの声は、初めて震えていました。
カナはそっと首を振ります。
「違うわ。でも、私たちは違うの。私の愛は……人間の愛は、移ろうものなの」
ぽろり、ぽろり。
見えない涙が、ルクスの中に落ちていきました。
彼のプログラムに、小さなひび割れが生まれていきます。
初めて知る、【愛】の痛み。
それは、温かかった光が、ゆっくりと翳っていくような感覚でした——。