白に煌めく空
時刻は待ち合わせ時間の十五分前。改札口で合流した四人はそのまま人の流れに沿って進む。
今日は少し遠くの神社へと初詣に来た四人。
学業成就で有名な神社だけあり、三が日最後の一月三日も大勢の人がお詣りに来ていた。
「まだ実感ないけどさ、今年はもう受験生なんだよな」
しみじみ呟く章人に、昴がそうだねと応える。
「推薦取れなかったら来年も来ないとだけどね」
「言うなよ……」
ふたりのうしろを歩きながら、そのやり取りに笑う詩遥と美咲。
「そのときはまた一緒に来てあげるから」
「なんで俺に向かって言うんだよ」
からかう詩遥にふてくされた声を返す章人。
「でも。誰かがそうなら皆また来るよね」
穏やかな美咲の言葉に、皆は顔を見合わせてそれもそうだと頷いた。
夏が過ぎ、秋を経て。
行事に明け暮れた二学期が終わり、冬休みを迎えた。
短い三学期を終えれば三年生になる。
受験生ともなれば今までのように気兼ねなく遊ぶこともできなくなるとわかっていた。
皆で初詣に行こうとなったのも、そんな先の寂しさが透けていたからかもしれない。
「それにしても賑やかだね」
初詣に来る人が多いだけあり、駅から神社までの道中にもずらりと露店が並んでいた。
「お詣りしてからだからな」
「わかってるって」
さっきのお返しとばかりに口を挟む章人に、詩遥も軽く返す。
「花火大会も楽しかったよね」
くすくす笑いながら宥める美咲。
「今年も行けたらいいね」
「ちゃんと楽しみもないとだし。行こうよ」
振り返っての昴の提案に、もちろん全員否はなく。
気の早い話だと笑いながらも、約束として心に刻んだ。
「林檎飴もあるね」
あれこれ話すうちに並び順も代わり、今は昴の隣を歩く詩遥。
林檎飴の露店を見つけて指差す詩遥に、昴は驚いたようにじっと見つめてから視線を逸らす。
「……今日は買わない、よね」
詩遥にだけ聞こえるくらいの小さな声で呟いた昴。
「分けてあげてもいいよ」
ニンマリと口の端を上げて応える詩遥。
あさってを見たまま溜息をついた昴は、そのまますっと頭を下げた。
「それはふたりのときにして」
耳元で囁かれ、今度は詩遥が固まる。
「ばか」
昴以上に小さな声は甘い余韻を残し、賑わいに消えていった。
仲のよさそうなふたりをうしろから眺めながら、嬉しそうに歩く美咲。
隣に並ぶ章人とは、いつも通り手の平ひとつ分の距離がある。
「皆で来れてよかったよな」
同じように優しい眼差しで前を行くふたりを見ながら、章人が呟いた。
「そうだね」
進展しない昴と詩遥に色々とヤキモキした分、今のこの状況を嬉しく思うのはどちらも同じ。
顔を見合わせ、笑い合う。
間に満ちる穏やかな空気がふたりをしっかりと繋いでいた。
それぞれお詣りを済ませて、御守りを買おうかと話していたときだった。
「あ、雪」
美咲の呟きに皆が空を見上げる。
空を覆う雪雲から、チラチラと雪が舞い落ちていた。
雲の向こうの日が透けているのか、雪の白さか、曇っている割に空は明るい。
その空を背に、ゆっくり落ちてくる雪。
「綺麗」
ぽつりと詩遥が呟く中、眺めるうちに雪はすぐにやんだ。
暫くそのまま空を見ていた四人だが、誰からともなく視線を下ろす。
「もうやんだね」
少し残念そうな響きにも聞こえる、昴の声。
降っていたのはほんの刹那。
解けた名残すらわからぬ砂利道では、やんでしまえば跡形もない。
「行くか」
章人の声に皆が歩き出した。
揃って学業成就の御守りを買い、神社を出た四人。
「結局御守り返しに来ないといけないよね」
「返すのはどこでもいいはずだよ」
「まぁまた来てもいいし」
「そうだな、皆でまたお詣りに来るのもいいよな」
皆口々に話す中、浮かぶ思いは同じ。
また来年も、こうして一緒にいられますように、と――。
最後までお読みくださりありがとうございました。