閑話 薄紫に祈る星
詩遥と兼子くんがふたりでお祭りに行くことが決まった日の夕方。詩遥からメッセージが来た。
『章人と楽しんできてね。私も昴をちゃんと案内するから』
詩遥のことだから、本当に言いたいことはこれじゃないんだろうけど。
突っ込んで聞いても教えてもらえないから、今は同意の返信をする。
既読がついてかなり経ってから、詩遥からまたメッセージが来た。
『浴衣で行ったら大変かな』
今までどう打とうか悩んでたんだろうな。
詩遥が気にしてるのは自分の大変さじゃなくて、兼子くんがどう思うか。
章人くんに聞くまでもない。
そんなの、喜ぶに決まってると思うんだけど。
もちろんそんなこと書けないから、先に待ち合わせ時間を聞いた。
『まだ決めてないけど、多分お昼すぎだと思う』
ふたりきりでお昼はまだ恥ずかしいよね。
お昼からなら大丈夫じゃないかと返事をする。
実際着崩れたり汗をかいたり大変だろうけど、対処法は色々あるはずだから、事前に調べておけばいい。
『そうかな。なんかね、浴衣着たいなって思って』
兼子くんがどんな顔するか考えて、ほわほわしてるのが目に浮かぶよう。
中身はものすごく女の子なのに、あんまり表に出さない詩遥。
きっと素直に出せなくなってきてるんだろうな。
兼子くんを好きなことも、周りにはバレてないと思ってるんだろうけど。
多分バレてるし、なんなら付き合ってるって勘違いしてる人もいると思う。
でも下手に突きつけると詩遥はそんなことないって逃げてしまいそうだから、あんまり言えなくて。
兼子くんは兼子くんで、誰にでも穏やかで優しいから。私からだと詩遥のことをどう思ってるかわかりにくい。
章人くんに言わせると、兼子くんも詩遥のことを好きらしいけど。
もう少し態度に出してくれたら、詩遥だって素直になれるかもしれないのにね。
『美咲は浴衣着ないの?』
そう聞かれたけど、当日は詩遥たちに見つからないようにしたいから、目立つ浴衣は着ないつもり。
時間もテストが終わってから章人くんと相談かな。
章人くんは私の話を聞くだけじゃなくて、ちゃんと一緒に考えてくれるから。
些細なことでもこうして相談できる。
私にとってそれがどんなに心強いか、章人くんは知らないんだろうけど。
着ないよって入れると、また詩遥が着るかどうか迷いだすかもしれないから。まだ考えてるって返しておいた。
『ありがとう。テスト終わったらまた相談させて』
いつでも聞くよ、って。
わざわざ入れなくても、わかってくれてると思うけどね。
スマホを置いて、なんとなく窓の外を見る。
お寺からの景色も綺麗だから。ふたり、いい雰囲気になるといいな。
いつも皆の前に立って引っ張ってくれる詩遥。
黙ってうしろに立ってるだけの私とは大違い。
男子との間にも入ってくれるから、詩遥と同じクラスだと男女の仲がいい。
その分誤解されたりすることもあるけど、詩遥が相手のことを悪く言うことはないから、そのうち解ける。
それに、大抵恋愛絡みの誤解が多いから。ちょっと落ち着いて詩遥を見てたら気付いてくれる。
詩遥は恋愛ごとの隠し事ができそうにないって。
ずっと兼子くんのことを見てる詩遥。二年は最初っからそうだから、受ける誤解も向けられる想いも減ったかな。
クラスの違う私まで、たまにどうなってるのって聞かれるくらい、皆も心配してくれてるんだよね。
ホント、上手くいったらクラスが大騒ぎになりそうだけど。
それだけ詩遥が皆に慕われてるってことだよね。
まだどうなるかわからないけど。
浴衣を着ていこうなんて、詩遥にしたら思い切ったことなんだから。
兼子くん、何か応えてくれたらいいな。
こんな私を親友だって言ってくれる、大事な友達。
その想いがちゃんと伝わるといいのに。