素晴らしき THREE
「で、どうしてなんだ?」
「それはね、トラウマが原因だ」
トラウマ?私が?
「ピアノに対するトラウマさ、無意識のトラウマというべきかな?」
「無意識か、それって対処法なくないか?」
サリバンは、鍋を一口食べてため息をつく。
「そこなんですよね…無意識ともなるとむずいですよね」
しばらく、春香とサリバンが鍋を食べる音だけが部屋に響いた。
「一回ピアノと戦って見るのはどうです?」
「春香…?疲れが抜けていないのか?」
「いやーなんか、やっぱりトラウマ克服って戦えば一番はやそうじゃないですか」
バトル漫画じゃないんだから……
「いひゃ、けっきょういいと思いますよ澪ひゃん」
「完全にのみ込んでから喋れ、サリバン」
サリバンは皿によそった、鍋を全て食べてからまた喋り始めた。
「春香さんの言う通り、戦えば早いと思いますよ」
「戦うって言ってもどうやって?」
「まあ、百聞は一見にしかずと言うので一旦やってみましょう?」
サリバンは立ち上がり、奴らを呼んだ。
「いや、ちょっと待てサリバン?…あーもう遅いか…」
「うー?うぃー!」
奴らは私たちをさらって行った。
「ちょっ?私まだ食べてるんですけど!?きゃー!」
「おい!春香まで連れてくのか?!」
「だって彼女がいい始めたんですもん、今度またワイン持ってくるので許してくださいよ」
「うぅーうぃー」
気付いた時には、そこは見知ったアジトだった。
「ここはどこですか?」
「私が育ったアジトだよ」
「へぇーここで澪先輩が?…私物ないかな?…」
春香は、机の下やカウンターの中をのぞき始めた。
「ねぇよ、引っ越す時に全て持ってったから」
「それより、ピアノはどうするんです?」
「もう夜だからいいんじゃないか?また今度で…」
「澪先輩駄目ですよートラウマがあるってなんか澪先輩らしくないですよ」
春香は、カウンターから頭を出し眠そうに言う。
「と、言ってもどうやって?」
「まあ、あのピアノをもう一度弾くしかないね」
「はぁ仕方ない…」
私は席に座りピアノと向かい合う。
再びピアノが私の体の一部となりあの世界へと私をいざなった。
「これは……家出前の記憶?」
「澪、今日お母さん出かけるけどちゃんとピアノとか勉強とかやるのよ」
「ああ…いってらっしゃい」
いつもと違う、小さい頃の私がいる?
しばらくすると、ピアノから逃げるように私は部屋から出ていった。
「このピアノが化け物に見えた…」
私はピアノに近づくといきなり、足が動かなくなった。
「何で?…だ?これが無意識かよ!」
目の前の化け物は、一人でに動き出しこちらに向かってきた。
「来るな!来るなぁ!!」
太ももの隠しナイフを化け物に投げる。
化け物に刺さりはしたが効果は全く無いようだった。
「らしくないですよ、澪さん」
横を見ると、長い髪を結んだサリバンがそこに居た。
「サリバン?なんでここに?」
「澪さんが心配で来たんですよ、さて一緒に倒しましょう?」
「でも、どうやって?バラバラにするか?」
「そうじゃないですよ、奴をよく見てください白い牙は鍵盤です…それは人を傷つけるものじゃない、音楽を奏でる道具です、音楽の楽しさを思い出しましょう?」
サリバンはピアノに近づき席に座る。
その姿はどこかあの人に似ている気がした。
「さあ、早く」
私はサリバンの隣に座り、白い牙の鍵盤をゆっくりと押す。
痛みは無かった。
ピアノはいつの間にか元の姿に戻っていた。
「出来るじゃないですか澪さん」
「ピアノに集中しろサリバン、音楽を楽しむんだろ?」
「そうですね」
サリバンとピアノを弾いているといつの間にか、あのアジトに居た。
「ああ、なんか懐かしい感じがしたな…ん?」
「ちょっと澪さん?助けてくれないかな?」
また、サリバンはピアノに頭ごと食べられていた。
「なるほど、だから私の記憶に入れたのか」
「いいから、早く!」
「はいはいわかったよ」
蓋を上げて、サリバンを救出する。
サリバンは、髪をほどきヘアゴムを付け直した。
「私があげたヘアゴム使ってるんだなそっちのほうが多分似合ってるぞ」
「あっ、澪先輩終わりました?」
「ああ、克服できたぞ」
「おー!よしよし!」
春香は、座ってる私の頭を撫でる。
「ちょっと、やめろよあー!」
澪先輩!苦手を克服しましたね!
頭撫でるのはもうやめろよ?
わかりましたよ、今度からは抱きつきます…
まあ…もういいや、そうしてくれ
サリバンさんはどうして、あんなにピアノに食べられるんですか?
やっぱり、化け物なんじゃないか?