プロポーズTHIRTEEN
「いいかい?狙撃手にはいい観測主がいるんだよ、奴ら1人で2人なんだ」
「佐倉さん私たちが目指してるはスナイパーじゃなくて、軍医だよ」
「ああ、そうだったな…まあ知っておいて損はないよ。きっとそう言う人を見る事もあるだろう、澪そう言う人たちの絆も治してやりなよ」
葉巻の煙が12月の冷たい空気と一緒に飛んでいく。
「こんなところで何やってたんだ巳月?」
「ここが、澪先生の休憩場所だと大佐から聞きましたのでここで待っていたんです」
「じゃあなんか私に用が?」
巳月はフェンスに寄りかかって俯きながら話し始めた。
「実はさっき紗良さんが傷を負ってしまったのは僕のせいなんです…」
「何やったんだよ?紗良はナイフの訓練と言っていたがそれはあり得ない。ここの訓練はおもちゃのナイフで訓練するからな」
「よく知ってますね」
「舐めないでもらいたいな、怪我人を何人も見て来てるんだ。訓練内容は大体把握してる」
巳月の目はどことなく悲しそうで精気を感じなかった。
「これです、僕がいつも携帯してるペンですよ」
私は巳月のペンが自分の力が効くことを確認した。
「なるほどそのペン…ナイフか」
「はい、別に故意ではなかったので怒られもしませんでしたが…はぁ、僕は兄さんと違って優秀なんかじゃありません…だから人一倍頑張っていたんです」
「そんなに悲観的になるなよ」
さらに、巳月の顔が暗くなる。
「僕なんか…どうせみんなわかってくれない」
「分かるよ」
「え?」
「自分より優れてる人がいて比べられる。その辛さ私にもわかるよ、私も別に特別なわけじゃない」
私は耳のピアスを外してピアノの鍵盤のような形に変形させてくるくると回転させる。
「私は昔、英才教育を受けていた。好きでもないピアノを習わせられ上達しなければ罵倒をくらい、上達したとしても更なる上の者と比べられ評価もされない」
自然と葉巻を掴む力が強くなる。
「澪先生?」
「この力を持ってたとしても大切なやつ1人守ってやれない……また守ってやれなかった……また救ってやれなかった。俺って何やってんだろうな…」
「それって」
「はぁ、忘れてくれ。気にしなくていい」
「あの澪先生、僕の兄さんの話を聞いてくれますか?遺言状に書いてあったんです」
巳月は手に持っていた謎の資料の中から茶封筒を取り出す。
なるほど、ここに来た本当の理由はリングの遺言を私に伝えるためだったのか。
「遺言なんてあいつ残してたのか」
「兄さんは常に最悪の事態を見越して行動してましたから…いいですか?」
「ああ」
「拝啓、僕の大切な友人、恩師へ。恩師のところまで飛ばします。恩師、天川澪。きっと僕がこの屋上で言ったことは聞こえなかっただろう、いやきっと言えなかっただろうな」
いいや、リングお前はしっかりと言ってたよ。
「妹を通してになるがここで言いたい。僕はリングとしてでなく、U,Gとして死にたかったんだ。これでわかってくれたかな?君のことだから受け取らないだろうが、もし受け取るんだったら右指にでもはめてくれ、僕はもうこの世にはいないんだから…澪先生、これ」
巳月はリングの代わりにプロポーズをした。
今は亡きリングと彼女の姿が重なる。
「……」
私は、リングの思いを右手の薬指にしっかりとはめ込んだ。
「リング…お前はこの瞬間宇佐美 楽羽になった。もうリングとは無縁じゃ無くなったからな」
「澪先生…」
「巳月、楽羽は確かに優れていた。だけど、楽羽は楽羽だ。紗良もそれはわかってるはずだ、これからは比べられる事もない。辛いことも当然ある。それでも周りに気をかけて必死に生きていけそうすれば報われる。自分が成長できる。」
私は葉巻の火を消して、屋上の出口へと向かう。
「いい狙撃手には、いい観測手がいるんだ。仲良くするんだよ」
「……ありがとうございました!!」
12月の乾いた空気が、頬を刺激する。
白い煙が、心に溜まった疲れを吹き飛ばしてくれた。




