記憶のNINE
「おい!春香!目を開けろ!春香!」
「澪…先輩…?」
「私はここにいる!だから大丈夫だ!」
「澪先輩………」
「なんだ?おい!なんて言ったんだ!春香!春香!死ぬな!死ぬな…死ぬ…な」
「は!はぁ…はぁ…またこの夢か…」
全身に汗が流れ、頬には涙が流れていた。
「私は信じないぞ…春香が死ぬなんて」
まだ重たい体を持ち上げて、窓を開ける。
12月の冷たすぎる空気が一気に湿った部屋の空気を奪っていった。
寒くなりすぎるので、瞬間的に窓を閉め大きく伸びをする。
「今日は休みだから、朝から風呂でも入るか…」
シャワーを浴びた後私はいつもの白衣姿に着替えた。
少し目を閉じるたびに夢のあの光景が頭に浮かぶ。
「佐倉さんならこんな時なんて言うだろうな…」
心配して、ハクが私の膝上に飛び乗る。
「ごめんな朝からこんな感じで…」
ハクの頭を撫でていると、ドアからノックの音がする。
「澪先輩ー?まだ寝てるんですか?よければ朝ご飯一緒に食べませんか?」
今はそんな気分じゃないんだけどな…今日から春香に任せて私が休みを取っている。春香が私の様子を変だと感じ取って大佐に頼み込み3日の休日を得たのだ。
ハクは私の膝から降りて扉の前に立ちニャーンとないた。
「ハクがないても、澪先輩が来ないってことは寝てるんですね…やっぱり相当疲れてたんだ…」
そう言い残して、春香の声は消えていった。
「ハク…ありがとう」
「ニャーン?」
昔から気になっているんだが、ハクって人間の言葉を理解してないか?
「ニャーン」
ハクはまた私の膝に座りじっとする。
その時私のポケットのスマホに着信がありハクは驚いて床に避難した。
画面を覗くと、サリバンの名前があった。
「はい…私だけど?君80時間労働中じゃなかった?」
「澪さん僕は堕天使だけど休憩ぐらい取るんだよ、それよりなんかさっき君の春香君から連絡があってね澪さんが部屋から出てこないって嘆いてたよ」
「おう、それだけか?」
「出てやらないのかい?」
「今はそんな気分じゃないそもそも何で休日なのに職場にいるんだ私は…」
「それは君の家がそこみたいなものだからだよ…そうだ、君の本当の家に帰っておいで僕は仕事があるからいないけどね」
サリバンはサリバンなりに私を心配してるのか…
「気が向いたら行くよ、じゃ…」
電話を切り私はハクをそっと抱きかかえる。
「ニャー?」
「佐倉さん…」
「…寒…」
春香に見つからないため部屋からは出ず、窓から刃物で飛んでいる。
外は真冬ということもあって相当寒い。
空となるともっと寒い。
「もう少しだ…」
冷たい風に当たればスッキリするだろうと思ったのもあるのだが、何より佐倉さんの意見が聞きたかったのだ。
「記憶のピアノには自分の過去を体験できるだけでなく自分の認知上の人と話すこともできるんだ」
サリバンのそんな言葉が頭の中で再生される。
「…そう言えばあのピアノ元々あそこにあったんだよな?…佐倉さんが何でそんな奇妙なものを?」
私は家のある路地に着地した。
乗っていた刃物を長方形のピアスに戻し耳に取り付ける。
私はカフェの扉をゆっくりと開けようとする。
しかし、扉には鍵がかかっていた。
「サリバンのやつ鍵閉めてる…仕方ない」
手袋の先をドライバーとヘヤピンのような形にする。
「……よし開いた、ピックってかっこいいよなドラマ見て練習して良かった」
扉を開けるといつもの匂いと、いつもの風景がそこにはあった。
ないものと言えば佐倉さんの優しい笑顔といつものコーヒーの暖かい湯気くらいだ。
「さて、さっそく…と言いたいところだが私の部屋はまだあるのかな?」
下に降りると、診療所の風景が広がっていた。
いつもよりなんだか狭く感じるが、きっと私が大きくなったからだろう。
鍵取り出し扉を開ける。
私は茶色いソファにカバンを置きチャックを開ける。
そうすると、中からハクが飛び出してきた。
「ハク!?なんか重いと思ったら入ってたのかよ…」
「ニャーン!」
ハクはカバンのすぐそこに丸まって座り込む。
「ああ、待てよそんな所に座ったら埃が…ってこの部屋全然積もってない?」
私は机や実験器具をくまなく見てみるが埃は1つも無かった。
「やけに綺麗だな…サリバンか、あいつ透明になれるんだった」
この前病院で見た光景が脳内に再生される。
「取り敢えずハクあんたはそこにいて私は佐倉さんと話してくるからさ」
私は部屋から出て鍵を締める。
ハクが外に出たりしたら見つけるのが大変だ。
「さて」
私は、記憶のピアノの前に立ち蓋を開ける。
一瞬前の記憶がフラッシュバックする。
私が生み出したピアノの化物が目の前のピアノと重なる。
「もう、怖くなんてない」
目の前のピアノはなんだかそっと笑ったような音色を出す。
「あれ?私鍵盤押してないよな」
疑問を抱えるが特に気にせず、ピアノ前の席に座る。
ピアノと私が一体となるような感覚にとらわれる。
ゆっくりと記憶の中へと入っていった。
次の瞬間には、私は真っ暗な所にいた。
「ここは?私の記憶の世界?」
「うん、そうだよ」
「サリバン!?」
「君の認知上の僕さ、ここでの僕の仕事は君のサポートさ君の話したい人とコンタクトするためのね」
サリバンは青い星屑型の青いピアスを付けて髪を結んでいた。
なるほど、私の認知上のサリバンは私があげたプレゼントをさり気なく身に着けてくれてるのか。
「じゃあサリバン、佐倉さんにあわせてくれ」
「わかりました、ですけど気をつけてください話す場所はその人と最後にあった場所になります」
「!…わかった、あわせてくれ」
佐倉さんと最後に話したのは、あの時か。
「では、ここに入ってください、危険だと感じたらすぐにその部屋を離れてくださいそうすればあなたが壊れることはありません」
「わかったありがとう」
私は真っ暗な空間に現れた見覚えのあるドアに手をかけゆっくりと引いた。
私はドアを開けた瞬間に胸が張り裂けそうな気分に陥る。
「さ…佐倉さん?」
「澪?どうかしたか?何があったか言ってみろ今の俺でもできることがあるとすればお前の話を聞いてやることだからさ」
佐倉さんはベットにもたれかかり、読んでいた文庫本をそっと隣の机においた。
私はゆっくりと、佐倉さんのベットに近づく。
佐倉さんの隣で膝をつく…あの時のように。
そうすると、佐倉さんは私の頭をそっと撫でる。
私はふと目頭が熱くなり、別途に顔を伏せる。
「大きくなったな澪」
「……今の、わたしでも…佐倉さんは治せない…」
「別にいいんだ澪、俺のことはもう。だがな、これからはよくない」
「それなんだ、佐倉さん…春香が、私のために死んじまうんだ」
「澪、人は避けられない運命というものがある。だけどな避けられなくても一つの工夫でなんとかなるものなんだ」
佐倉さんは一息ついてそういった。
「なあ、澪…俺の部屋にもう一度来い」
「佐倉さん?」
「お前の認知はもうすぐここで死ぬ、お前は2度俺の死ぬ姿を見たくはないだろ?」
私は顔を上げ涙を拭い最後に佐倉さんにそっと抱きつく。
「佐倉さんありがとう、本当に」
私はそうつげて、部屋から出た。
「お疲れ様でした澪さん」
「すぐに戻る」
私は目を閉じて、大きく深呼吸をしまた目を開けた。
そこは、いつもの家だった。
「佐倉さん」
私はもう一度涙を拭い、2階の佐倉さんの部屋に向かう。
記憶の中にあったあの扉が私の前に再び現れた。
「佐倉さんごめん、だけど私佐倉さんに向き合うよこれからのために」
佐倉さんは不治の病の中でも私を育てそして最期の2ヶ月前にそう告げた。
私は、そこから佐倉さんの病気を…不治の病を治すために必死で医学を勉強した。
その2ヶ月は本当に長くもあり短かった。
「入るよ、佐倉さん」
驚いたことに鍵はかかってなかった。
私が勝手に心のなかで鍵をかけていただけだったのだ。
「佐倉さん!」
ドアを開けた先には、佐倉さんはいなかった。
しかし、ハクが机の横に座っていたのだ。
「ハク?どうしてここに?…?これは佐倉さんが読んでいた文庫本?」
私は本を手に取り、ページを捲っていく。
「これは…異能の本?」
その本には私が見たことのない異能から春香のものや私のものが詳しく書かれてあった。
「何で、佐倉さんがこんなものを?」
「ニャー?」
私は、ベットに視線を送る。
そこには、私が異能に目覚めた時に暴発し切り刻んだあとがあった。




