始まりのONE
今は10月、冬よりはマシだがそれでも強い風が吹く屋上は少し寒かった。
「何だ、こんなところにいたのか澪…」
「あれ?なんでこんなところに大佐が?」
「いや?タバコ吸いに来たら暗い顔してたんでねどうしたんだい?お前らしくない」
私が、なんでこうやって屋上に来るのか知ってるくせに。
「無視か…まあ、いいが俺の部下はどうだ?」
全く、それで私がこんな事になってるていうのにこの男は…
「…昏睡状態だよ、何やったらあんなふうになるんだ?」
心停止で30分前に運び込まれた紗良は、カウンターショックやアドレナリンの投与でなんとか安定した状態まで持ち込めたがまだ昏睡状態だった。
「そんな、ときこそ主治医のお前が見てやるべきじゃないのか?」
「…!ありがとな…今度一緒に一杯やろうか」
葉巻の火を消して、医務室へ駆け出す。
「ああ、そうだな!俺の部下を治してくれたら俺のおごりだ今度飲もう!」
「いったね?君後悔するよ!?」
屋上のドアを開けて、階段を駆け下りる。
その時、ポケットから電話の音が鳴り響く
「ああ、何だよこんなときに!」
電話に応じると、いきなり同僚の切り金声がした。
「大変です!紗良少佐の様態が急変!血圧が測定不能です!」
「わかった!今行く!
絶対に死なせるんじゃないよ!大佐と約束してんだ!それに…」
もう私の患者は死なせない。
もうすぐ、紗良が居る部屋だ!
ついた!私は思いっきりドアを開ける。
「状況は!?」
「澪先生!エコー結果は!心タンポナーデです!脈もないです!指示を!」
心タンポナーデ、外傷などで心臓を取り囲む膜の内部に血液がたまり
心臓を押しつぶしてしまう危険な状態!
「どいて!私の治療に助手やガヤはいらない!」
「はい!」
同僚たちが、一気に部屋から出ていく。
私は器具台から、カラテン針と五十ミリリットルのシリンジを浮かせながらながら、胸部をイソジンで消毒した。
「よし、絶対に助けるからな」
宙に浮いているカラテン針をシリンジに取り付け、慎重に針先を紗良の胸部の下辺に当てる。
下手をしたら、心臓や肺を穿刺してしまう危険な手術…だけどやるしかない。
ゆっくりと、針を進める。
軽い抵抗を感じたあと薄い膜を刺したような感覚が手に伝わる。
そこから、少しだけ針を進めシリンジの押し子を引く。
血液がプラスチックの筒の中に赤黒い血が入り込んでいった。
「脈の確認を…」
そのまま、針を浮かせ脈を確認する。
「よし、脈が触れた…あとは」
私は、押し子を完全に引いたあと、ドレーンチューブやらの留置などを終わらた。
「これでよし、しばらく君は入院生活だね」
「…あなたは?」
!どうやら意識も戻ったようだ。
「自己紹介がまだだったね、私は刃物を操る異能者…
天才女医の天川 澪だよ、もう大丈夫私が主治医なんだ」
自分が出せる、最大限の笑顔を見せながら入院の手続きを済ませる。
「…ありがとう、澪さん」
「いいや、私は使命を果たしただけだよ…それに君が頑張った結果だ…こちらこそありがとう」
「?…」
紗良は不思議そうな目をしていた、無理もないだろう
助けられたなのに礼を言われたのだから。
「こっちの話だから気にしないで、それよりたまには
好きなことしなよ?人はいつ死ぬかわからいんだからさ」
「…それ、先生が言っていいセリフですか?」
「よし!部屋が手配できたよ!よかったね個室だ!
今から同僚が連れって行ってくれるから暴れないでね?」
無視を決め込みつつ、同僚にメールを飛ばす。
「澪先生!どうですか?!」
「はえーよ、連絡飛ばしてから1秒も経ってねーぞ?ほら、連れて行け病室は309号室な」
あとは、カルテの打ち込みか…
「あっ、零先輩!カルテですか?私がやっておきましょう!」
「おお、春香!ありがとう、じゃあ任せたよ」
「はい!任されました!」
大学時代の後輩の春香はいつも元気で変わり者の私についてきてくれた、ただ一人の弟子だった。
私は、医務室を出るとまた階段を上がり屋上へと向かう。
「さーて、一服しますか」
屋上のドアを開けると、冷たい空気が肺の中に入り込んだ。
「うわ、まだいる」
「まだって、何だよ俺がここにいちゃ駄目なのかよ?」
「駄目だよ、仕事しろよ給料泥棒」
「はは!結局その給料はお前との飲み代で消えるがな?」
やっぱりこいつは私をよくわかってる。
「その様子だと、治療は成功したみたいだな?」
そう言いながら大佐は火を差し出す。
私はその火に葉巻を近づけて、火をつけた。
「ああ、昏睡状態からも回復したよ」
「そうかそれは良かった、彼女はとても優秀でね失うわけにはいかなかったのさ、俺からも礼を言おう」
「礼なんて、いらないんだよ私に必要なのはうまい酒とつまみだよ」
「はは!そうか、じゃあ買ってくるよ」
「おう、ウイスキー絶対入れろよ!」
「ああ!俺がウイスキーを買わないと思うか?」
本当に私をよくわかってるな、あいつは
「うん?春香からだ」
電話に出ると、さっきより元気のない声が
鼓膜を揺らした。
「せんぱ~い、カルテ打ち込み終わりましたよ~」
「その様子だと、またカルテのデータ消しちゃったみたいだね?」
春香は、機械が苦手で最近導入された電子カルテにかなり苦戦しているようだった。
「私は悪くないですよ~、て言うかいまどこにいます?」
「どこって?屋上だけど?」
「丁度良かった、じゃあそこで待っててください!」
なんだ?急に元気になったぞ?
いきなり、電話きれたし…まあ、いいか
かなり、燃えきった葉巻の煙を楽しみながら
落ちていく、夕日を見る。
「れ~い先輩!」
後ろを振り向くと、サイズが明らかにあわない私の白衣を着た春香が立っていた。
「いったい君はどこから私の白衣とってきた?」
「いや~?どこからでしょうね?
それより、はい!どうぞ!澪先輩が大好きなシュガードーナッツです!」
「おお!ありがとう!丁度欲しかったんだ!」
私は、早速春香からもらったドーナッツを
箱から取り出し頬張った。
口の中に上品な甘味が広がり思わず、
笑顔がこぼれ出てしまう。
「やっぱり、澪先輩は笑顔の方が可愛いですね!」
「そうかい?私は春香の方が可愛いと思うが?どうせ、彼氏でもいるんだろ?」
春香の顔が一気に赤くなり、黙ってしまった。
「ほら、そんな顔赤くしてないで春香もドーナッツ食えよ、酸性か?」
「も~私はリトマス紙じゃないですよ?」
春香は、ドーナッツを受け取り頬張った。
「んー、やっぱりこのドーナッツは美味しいですね」
「ああ、そうだな…あっ!そうだ、
うまい行事と言えばもうひとつあるぞ!
今日、大佐のおごりで酒飲むんだ春香もどうだ?」
「おおー!いいですね!
白ワインありますかね?あるなら私が全部いただきます!」
「おお!その意気だ!やったれ!」
酔ってもいないのに、こんな満点の笑顔を見せる春香は珍しいかった。
やっぱり、こいつは可愛いな
「あれ?耳が赤いですよ?どうかしました?」
「ん?そうかい?そうでもないが?」
残りのドーナッツを全て飲み込み、
私は少し小走りで屋上のドアへ向かう。
「じゃ!私はこれで!ドーナッツありがとう!猫にエサをやってくるから!」
「あっ!ちょっと待ってください!これを…」春香がの手のひらにあったのは
直方体のピアスだった。
「元々、ナイフだったものをピアスにしたものだそうです…プレゼントです!受け取ってください!」
「ありがとう、ナイフだったてことは」
私は、受け取ったピアスを早速変形させてみる。
「おお、やっぱりできた!」
私の手に握られていたのは、ピアスが変形して出来たメスだった。
「良かった、澪先輩ならこのピアスを
使えますね!」
メスを直方体に変形させ、左耳につけた。
「どう?はじめてピアスつけたんだけど…」
「似合ってますよ澪先輩!」
急に春香が抱きついてきた。
「ちょっと、急になんだよ?」
「ああ、すいませんちょっとした発作です」
どんな、発作だよ全く。
「じゃあ、今日の8時ぐらいに医務室の奥の私の部屋に来な」
「はい!わかりました!」
私はドアを開けて階段を降りる。
春香に、抱かれたところがなぜか暑くなっていた。
どうも作者のリーラーです。
久々の投稿ですが新しいシリーズをやります。
どうでしたでしょうかドクターZERO。
この作品は私の友人から協力を得て作っている作品なんですよ。
主人公の天川澪キャラ設定を一緒にしてくれました。
少し百合感があるのはまた他の友人に性癖を捻じ曲げられたからです。
他の作品も頑張って作ってい来ますので、よろしくお願いします。リーラーより