2.これからと目的
「え⁈いない⁈」
広いエントランスホールで驚くツクヨミの声が響く、私とツクヨミはとあるビルの受付にいた。
時間は少し前に遡る────
ホテルに向かっている最中ツクヨミに教会の場所を聞いた、この街には教会がその一つしかないらしいのでどこの教会か言わずともわかったみたいで。
「君も教会に行くのか?ちょうどこの後向かおうと思っていたんだけど、ルナも一緒にいくか?」
と言った。
見知らぬ土地で一人なのが心細かったのもありそのまま教会まで一緒に行くことにした。
「ほら、ついたよホテル」
話している間にいつのまにかホテルに着いたようだ。
そこにはホテルピタヤと書かれた綺麗な建物があった、ツクヨミには外で待っていてもらい私は一人でホテルに入りチェックインを済ませた。
「207号室…207号室…」
「あ、ここですね」
そのまま部屋に入る、大きなベッドやソファ、テレビなどがあった、おそらくごく普通のホテルなんだろう。
ただ私にはホテルどころか外で泊まること自体初めてだったので、色々なものが気になってしかたなかった、けど今は人を待たせているので好奇心を抑えて荷物を置き、鞄の中からショルダーバッグを取り出しそこに必要なものだけを入れて部屋を出た。
「お待たせしました」
ホテルを出ると日陰でツクヨミがメモ帳を見て待っていた。
「おかえり、思ってたより早かったね」
そう言って彼女はメモ帳をポケットに入れると、そのまま歩き出した。
「ルナはこっちにきてから何か食べた?」
「いえ、まだです」
「じゃあ、教会行った後に何か食べようよ、お腹すいちゃってさ」
教会に行くまでの間そんな他愛もない話をしていた、その会話の中でツクヨミと私が同じ人に会いに行こうとしてることがわかった。
この町の教会の司祭エルミタージュ神父様だ。
10年以上もこの町で司祭を務めているのだとか、この町の人も頼りにしている人らしい。
「ツクヨミは司祭様にどんな用があるんですか?」
「んーちょっとしたお願いをしに行くみたいな…?」
ツクヨミは少し考えて困った顔をしながら少し曖昧な言い方をした、彼女はハッキリとどうするかは決めてはなさそうだなとなんとなくそう思った。
「そういうルナは何しに行くんだい?」
「私の母がシスターだったのですが先日亡くなりまして、そのことで少し司祭様にお話が…」
そこまで言って私は、今日初めて会った人にする話ではないなとそう思った。
「あ、すいません、急にこんな話をしてしまって…」
「あぁ、いや、いいんだよ」
ツクヨミは少し申し訳なさそうな顔をして俯いた、その後突然顔をあげハッとすると楽しそうに言った。
「それよりも、そろそろ着くよ教会に」
どうやらそろそろ教会に着くようだ、ツクヨミはイタズラっぽく笑い「見たら驚くよ」なんて言っていた。
ここに来る前に教会について調べたのだが写真とかは特に見れずただ世界一高い教会ということだけは知っている、ツクヨミが言っているのはおそらくそのことなんだろう。
私は自分の村の教会しか知らないので内心少しワクワクしていた。
「・・・・」
私は教会をみて言葉を失った、それは教会というよりただの高層ビルだった。
「わかるよルナ、裏切られた感あるよね」
隣でうんうんと頷きながらツクヨミが言う。
その建物に入っていく人もみんなスーツを着て全くと言っていいほど教会らしさはなかった。
「まぁいつまでもここにいても仕方ないから入ろっか」
そういいツクヨミはビルの中に入っていく、私は何とも言えない緊張感を抱きながら後を追った。
内装はとても綺麗で建てられてから10年以上経つ建物だと思えないくらいに整備されていた、エントラスホールはとても広く、入って正面に受付があり、更にその奥には駅の改札のようなゲートが幾つかあった。
どうやらその先はこの教会のパスか何かを持ってなきゃ入れなさそうだ。
私がそう思いながら見渡している間にツクヨミは既に受付の人と話していた。
「エルミタージュ神父って人に会いにきたんだけど」
受付の人は2人いて両方とも少し困ったような表情をしながらこう言った
「恐れ入りますが、こちらの教会にそのような方は在籍していません。」
それを聞いたツクヨミの「え⁈いない⁈」と言った声がエントラスホールに響いた。
ツクヨミは少し焦っているような反応をしながら
「じゃあこの教団、セクト教会の別の支部ならいる?」
「いえ、セクト教会にそのような方は所属されてません。」
その後もツクヨミは何回かいろいろな質問をしていたが受付の人どころかその教会の人全員本当にエルミタージュ神父のことを知らないようだった。辞めたわけでもなんでもなく最初からそんな人はいないとそう言われてしまった。
人一人の存在が丸ごと消えてしまったようで、まるで日本の神隠しというものみたいだった。