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魔装騎兵ドラグオーガ~星間線のカタルシス~

 世界は広いようで狭く、天才も多いようで少ない。

 それがギルバート・ストレイフが十八年生きてきて痛感した事だった。

「綺麗だよなぁ……」

 手を伸ばせば今にも掴めそうなほど近い、そして遠い夜空に輝く星々を見てギルバートは呟いた。

 彼は幼い頃から他の人達とは違っていた。子供は勿論大人でさえ彼の言っている事を理解出来る者は少なかった。

 僅か十歳で国立魔法大学に入学、四年後には首席で卒業。在学中から数々の論文を発表し、魔法学や魔道具に関する基礎理論を大幅に改善し、いくつもの特許を取得した。

 ギルバートという青年はいわゆる天才だった。

 それも過去に類を見ないほどの大天才だったが、それゆえに周囲からは浮いてしまっていた。

 だがギルバートはそれでもよかった。自分の言う事を理解できない凡人とつるむつもりはない、と考えていたからだ。

 若き大天才を利用しようと近付いてくる大人も数多くいたが、凡人の悪知恵程度にギルバートが騙されるわけもなかった。

 中には力づくで従わせようと企む者らもいたが、大天才は体術においても天才的であり、自分に敵意を向けてくる者達に容赦はしなかった。

 親ですらギルバートに対して良い感情を持っておらず、ギルバートもまた親に対し良い感情を持つことも無かった。

 そして彼は空虚だった。望めば大抵の事は実現させてしまう頭脳は、彼から満足感や高揚感という感情を奪ってしまっていた。

 そんな彼が、特許などで稼いだ金を元に世俗を捨てるまでに時間はかからなかった。

 ギルバートは周囲に自然しかないのどかな田舎の土地を買い、研究施設を併設した大きな屋敷を建て、そこに引きこもるようになった。

 屋敷の近くには高い丘があり、そのてっぺんに寝転がって見上げる星空が彼は好きだった。

 近くて遠い大空の向こう、空の果ての暗闇に浮かび煌めく星々はまるで宝石のようで、世俗に嫌気がさしたギルバートにとって唯一の癒しであり心躍る光景だった。

 いつも通り地面に寝転がり、日中に使った脳を休ませていた時の事。

「ん? あの星だけやけに光っているような……え? 大きくなってる? まさか隕石か!」

 ギルバートの暗闇に浮かぶ星の一つが真っ赤に発光しながら、その大きさをどんどん増して近付いて来ている。

 やがて発光は収まり、飛来する物体の詳細が遠目に見え始めた。

「あれは……なんだ? ゴーレム、なのか……?」

 それは全長約二十メートルほどの大きさで、頭があり首があり胴体があってそこから手足が生えている。それはギルバートもよく知る、魔法の力で動く巨大人形である魔導ゴーレムの特徴と一致している。

『人!? そこの人どいてえええ! ぶつかっちゃうううう!』

「人の声!? ってかやべぇ! あんなの直撃したら流石に死ぬ!」

 ギルバートの視界、斜め前方、約百メートルまで迫った魔導ゴーレムらしき物体から、キンキンとした女性の声が発せられた。

 この距離に近付くまで動こうとしなかったギルバートもギルバートだが、それはきちんとした理由があっての事。

「展開! 【マテリアルシェル】!」

 ギルバートが手を伸ばすと掌が一瞬輝きを発し、輝きはギルバートの周囲に広がっていき半透明の壁を作り出した。

 その直後ゴーレムらしき物体は、ガシャアアン! という派手な音と共に、半透明の壁に激突して停止したのだった。

「やれやれ……隕石かと思えばゴーレムか。でもどうして空から落ちて来たんだ……? それに女性の声もした、よな?」

 ギルバートの呟きと共に半透明な壁が消え、壁にもたれかかるようになっていたゴーレムは再び派手な音を立てて地面に転がった。

「しかし……随分精巧な作りだな。どこの誰が作った? 俺が研究しているものよりも遥かに上の技術だ。まさか俺を超える天才がいる……? いや、そんなわけは無い。この大陸はおろか、他の大陸にだってここまで精巧な魔導ゴーレムを作り出す技術はない……」

 地面に転がったゴーレムを、色々な角度から見定めたギルバートがブツブツと呟いている時、突然ゴーレムの胸部からブシュウ! という空気が吹き上げるような音が鳴った。

「なんだ!?」

 ギルバートがゴーレムの胸部を注視すると、音を出した胸部がせり上がり開くように下部へと垂れ下がった。

 するとそこから、おぼつか無い足取りで変わった服を着た少女が出てきた。

「う……あなた、無事……? ほんと、ごめ……なさ……」

「お、おいあんた! 大丈夫か!」

 少女はふらつきながらもギルバートに顔を向け、謝罪の言葉を口にはしたがそこで力尽きたのか、そのままゴーレムの胸部から地面に転がり落ちてしまった。

 頭を切ったのか、少女の顔は血と汗でべったりと濡れており、このゴーレムが何でこの少女が誰なのかは度外視し、ギルバートは少女に向けて手をかざした。

「癒せ【ヒーリング】」

 ギルバートの掌からは光が溢れだし、光まるで慈しむかのように少女の頭部を包み込んだ。

「傷口はこれで大丈夫だろう。後は……どうすりゃいいんだ……」

 幼い頃より人から距離を置かれ続けたギルバートにとって、怪我した人、ましてや少女など、どう接して良いのかが全く分からない。

 怪我は癒しの魔法によって治す事が可能だが、人との付き合い方は魔法ではどうしようもないのだ。

 目を覚まさない少女の隣に座り込み、うんうん唸って考える事数分、天才的な頭脳が導き出した答えは――。

「……よし。ここに置いていこう」

 どうしようもなく駄目な結論だった。

 だが仕方ない、ギルバートは産まれてから今までの十八年間、彼女というものが出来た試しがないし、くどいようだが他人から距離を置かれ続けてきたために女性に対しての免疫が皆無なのだから。

「それは……人として、どうなのかしら……」

 駄目な結論を導き出し勢いよく立ち上がったギルバートの下から、今にも消え入りそうな少女の声が聞こえた。

「気が付いたか! よかった!」

 慌てて座り直し、ポケットから取り出したハンカチで少女の顔を拭くギルバート。

 まるで自分は慌てていませんよ、と言わんばかりの声色を出して冷静さを装う。

「貴方が助けてくれたのかしら……不思議ね、痛みもないわ」

「あぁ、癒しの魔法を使った。そこまで不思議でもないだろう。町の教会や治療院でも癒しの魔法を使える者はいる」

「癒しの、マホウ?」

 少女は眉根を寄せながら、自分の聞き慣れない単語を復唱した。

「そんな事より、アンタは誰だ? どこの国の人だ? こんな精巧なゴーレムを作るなんてよほどの人物に違いない」

「ちょっ、ちょっと待ってよ。そんな矢継ぎ早に言われても……とりあえず私はオウカ、オウカ・シュトラール。どこの国と、言われてもそのーえっと……」

 オウカと名乗った少女は目を泳がせ、言葉を濁した。

「なるほど、禁則事項というヤツか。これだけ精巧なゴーレムを作り出すのだから守秘義務も徹底しているというわけか」

「あーうん、そうね、そういう事でいいわ。それよりもあなた、お名前は?」

「俺か? あぁ、すまない。俺はギルバート、ギルバート・ストレイフ。近くの屋敷に住んでいる魔法研究者だ。魔法や魔導ゴーレムなどの研究をしている」

「マホウ、やマドーゴーレム? が何かは分からないけれど、改めて助けてくれてありがとう」

 ここでギルバートは、自分とオウカの会話が微妙に成り立っていない事に気付いた。

「このデカいのは一体何なんだ?」

「この子はピルグリム、私の相棒よ」

 オウカは誇らし気に胸を張り、フフンと鼻を鳴らした。

「ピルグリム、良い名だ」

 そして二人の間に短い沈黙が流れ――。

「え? それだけか?」

「そうよ? 他に何かあるの?」

「いや、ゴーレム、なんだよな?」

「違うわ?」

「だからそれを聞いているんだが!?」

「あー、ね?」

 オウカは胸を張りながらも視線をあちらこちらに泳がしており、あまり聞かれたくない、と精いっぱいアピールをしていたのだが、それをギルバートが察する事は無かった。

 オウカはのらりくらりとお茶を濁して頑張ったが、しつこく食い下がるギルバートにとうとう根負けしてしまった。

「あーーんもう! 分かった! 分かりました! 話しますから! その血走った眼を止めて下さい!」

「ふん、分かればいいのだ」

「話しても信じてくれないかもしれないけど……私はこの星とは違う場所からやって来たの。この子は私専用の機動兵器ヴァルフレイの特別仕様機ピルグリム。この星に落ちたのはその、追われていて駆動機構に問題が出ちゃって……」

「は? あんた頭大丈夫か?」

「ぐ……だから言ったでしょうが! 話すんじゃなかった! 腹立つ!」

 ギルバートの憐れみの目線を受けたオウカは憤慨し、ぷいとそっぽを向いてしまった。

「すまんすまん、情報量が多くてちょっと話に追いついていけなくてな」

「むーーー!」

 その後どうにか機嫌を直したオウカから話を聞いたギルバートは、ピルグリムに認識阻害の魔法を施してから、オウカを自宅へと招いた。



「なるほど、宇宙帝国シュトラールの第三王女、国で兄王子主導のクーデターが勃発、あんたは父王派の反乱軍の旗頭となって戦い、その最中に追い詰められ司令官の手で逃がされた。そこを第三艦隊とやらに見つかりピルグリムに乗って次元跳躍? なるものを使いながらこの星まで逃げて来た。度重なる攻撃を受けて駆動機構に不具合が出てこの星の引力から逃げられず墜落。というわけか」

「そうよ。信じてくれたかしら」

 ギルバートは紅茶をすすりながら、オウカから語られた荒唐無稽な話を簡単にまとめた。

「ピルグリムの話やその他の話もそうだが、それを聞いてただの与太話で済ますほど俺は馬鹿じゃないんだ。これでも俺は天才だからな」

「ふーん? それで、ギルの研究しているっていうゴーレム、見てみたいのだけど」

「ギルって……まぁかまわんが……ピルグリムのような精巧な作りではないぞ」

「いいのよ。それにさ、ギルから聞いた魔法とかゴーレムとかって私達の常識では空想の産物なんだもの」

 嬉しそうに話すオウカを屋敷に併設している研究室へ案内する。

 そこにはサイズも形も種類もバラバラな多種多様なゴーレムが置いてあった。

「へぇ! 凄いわね! 金属、岩、木……砂製のゴーレムまであるの!?」

「あぁ、様々な可能性を考えてな。この虫型ゴーレムは視覚情報をこの水晶板に送る事が出来る個体でな」

「えっ!? 虫型ドローンてこと!? すっごい……」

「どろおん? 何だそれは」

 二人は互いの持つ知識を交換し合いながら、夜が明けるまで大いに語り明かしたのだった。

 次の日、ギルバートはオウカと共に機体の損傷具合やメカニズムを調査するためピルグリムがある場所までやってきていた。

 散々語り合った結果、ギルバートがピルグリムを徹底的に調査し、ゴーレム作成の技術を応用してどうにか修理出来ないか、という話が纏まった。

 ギルバートは未知の技術への挑戦に、空虚だった心の奥底から何か熱い感情が込み上がってきているのを感じていた。

 


 ――ペラシオン星系宙域、シュトラール帝国第三艦隊旗艦オルフェリウス内。

「艦長! 第三王女オウカ機ピルグリムの痕跡をキャッチしました! 目標は惑星Мー193に降り立った模様です!」

「クククク! 我らからは逃げられんぞオウカ王女! すぐに捕縛部隊を向かわせろ! 王女を捕らえ処刑する映像を見れば反乱軍の士気はガタ落ち、私の評価は上がる! 幹部に昇進してしまうかもしれんなぁ!」

「了解! 捕縛部隊スペースハウンド直ちに発進せよ!」

 オルフェリウス艦長、ヒューイ・アマノ。出世と保身が頭脳の大半を占める男。彼が脱出するオウカの機体を捕らえたのは偶然だった。

 あの日帝国軍と反乱軍の砲火飛び交う宇宙、アマノは自艦の損害を嫌い戦場の後方に待機して漁夫の利を狙っていた時、敵軍の後方から隠れるようにして一機の機動兵器が射出された。

 それがオウカの乗るピルグリムであり、その事実を知ったアマノはこれを昇進のチャンスと捉え、ピルグリムの次元跳躍の痕跡を辿りながらここまで辿り着いたのだ。

「絶対に逃さんぞ! オウカ第三王女よ!」

 アマノはオルフェリウスから発艦する捕縛部隊を見ながら不敵な笑みを浮かべていた。


⬛︎


 オウカがギルバートの元に来てから数週間がたった。

「ねぇねぇギル! これはどういう事なの?」

「これはだな、魔法陣に魔力回路を別々に書き込んで、お互いに補助しあうようにだな……」

「なるほど! 魔法って面白いわね!」

「ふっ、そうだな」


 ギルバートの研究室にて、オウカは魔法の基礎理論や魔法道具の設計などを学んでいた。

 かたやギルバートはといえば、ピルグリムの構造やシステム、演算機能などの未知の技術に胸を躍らせていた。

 ピルグリムの解析は面白いように進んでいった。

 ギルバートの心の中では、いつか自分もピルグリムのようなゴーレムを作り出してみせる、と挑戦の炎が静かに熱く燃えていた。

 今まで一度も満たされなかったギルバートの心は、まるで長い冬を越えた春のように暖かだった。

「オウカ、俺はちょっと町まで買い出しに行ってくるから大人しく待っていろよ?」

「任せてちょうだい! 私、これでも待つのは得意なの!」

「それは威張って言う事なのか……? まぁいい、壊さなければゴーレムも好きにいじっていい。行ってくる」

「いってらーっしゃいっ!」

 送り出される言葉に心が温まるのを感じ、町に向かうギルバート

の足取りは非常に軽かった。

 町で一通り必要な品を揃え家に戻ると、聞こえるはずの明るい声が聞こえず、いるはずのオウカの姿がどこにも見当たらなかった。

 代わりに研究室内はテーブルが倒れ資料が散乱しており、争ったのであろう跡が残されていた。

 ギルバートの頭に浮かんだ答えは、オウカの追手がどうにかしてここを突き止め襲撃、拉致。

「他の星の人間だ、俺がどうこう口を挟む問題じゃ……」

 ない。そう口にしようとした時、床に転がっていた水晶板が不意に起動した。

『助けて! ギル!』

 水晶板から聞こえたオウカの悲痛な声に、ギルバートの体が跳ねた。

 遅れて『黙れ!』という知らない声、おそらくオウカを拉致した輩。

「くそ!」

 オウカの声を聞いた途端、ギルバートの思考は停止して体が勝手に動いていた。

「追え!【トラッキング】!」

 体から拳大の光球が飛び出し、静かに外へ向かって行った。

「加速!【アクセラレート】!」

 ぐんぐん進んでいく光球を追いかけしばらく、ピルグリムを安置している丘へと辿り着いた。

「ギル!」

 ピルグリムの近くに、ピルグリムに似た五つの機体が立っており、その足元にオウカを担ぎ上げた男達の姿が見え、ギルバートのを見つけたオウカが叫んだ。

「何をしている!」

「この女は大罪人だ、我々は司法の者、口を挟まないでいただきたい」

 オウカを担いでいる者とは別の男が間に割って入ってきた。

「挟むのなら、どうするんだ」

 返事をする代わりに男の持つ筒のような物がギルに向けられた。

「死ね」

 タァン、という軽い音と共に筒から小さな物体が飛び出してギルバートに向かう。

 しかしそれはカキィン、という硬質な音と共に地面に落ちた。

「随分と変わったモン持ってるじゃないか。是非説明してもらいたいものだ、なっ! 貫け! 【ロックスピア】!」

 ギルバートの周囲には半透明な壁が出現しており、その壁が飛来する物体を弾いたのだ。

 そして半透明な壁から無数の石槍の穂先が生え、勢いよく男へ飛んでいった。

「貴様!」

「オウカを離してもらおう! 吹き飛ばせ! 【ウィンドブロー】!」

 掌から放たれた風の衝撃が、オウカを担いでいた男を吹き飛ばし、ギルバートは放り出されたオウカをしっかりと抱き止めた。

『そこまでだ! 大人しくその女を渡せ、さもなくばこの星を破壊する!』

「なっ!? 何を言い出すのよ!」

 突如、男の横に立っていた機動兵器から声が放たれ、悲鳴にも似たオウカの声が続いた。

『文明レベル最底辺の惑星一つ無くなった所で宇宙に影響などない。どうする? 原始人よ』

「やめて! この星の人達は関係無いわ! 大人しく捕まってあげるから! この星には八七億人の人がいるのよ!?」

『くくく、よろしい。では原始人君、手を離してくれるかな?』

「ギル、ありがとう、離していいわ。貴方と過ごした時間とても、楽しかったわ」

「オウカ……!」

 決意の固い瞳を見て、ギルバートは何も言い返せずその手を離してしまった。

 オウカは機動兵器の中に入れられ――。

『星を破壊しろ』

「やめてええ! 話が違うじゃない! やめてよ!」

 男はあえて聞かせているのだろう、オウカの反骨心を折るために。

『安心したまえ、私も鬼では無い。半日やろう、親しい者達と別れでもしてくるがいい』

 そう言い残し、男の声とオウカの悲痛な声は五体の機動兵器と共に空の彼方へ飛び去って行ってしまった。

「クソ野郎が……」

 ギルバートの動きは早かった。親しい者達などいない彼にとって、満たされないこの星で漫然と生きてきた彼にとって、とるべき選択肢はたった一つしかなかった。

 星がどうでもいいというわけではない。オウカは言った、「生まれ故郷の星があるっていいね」と。オウカは宇宙に浮かぶ巨大なコロニーの中で生まれ育ったゆえ、故郷の星がない。

 ギルバートに羨ましいと言ったのだ。彼からすればつまらない世界だが、オウカにとっては何にも変え難い唯一な世界だった。

「考えろ、即席で作り出せ、ここには素材もベースもある。オウカから学んだ事、今まで吸収してきた事、全部引き摺り出すんだ」

 ピルグリムを研究室まで運びこんだギルバートはすぐに作業を開始した。

 ピルグリムを解体、そして破損した箇所を希少な金属で補強、修繕、結合。肩、胸、掌にギルバートが生成した巨大な魔晶石を嵌め込み魔力の伝導率を確認。

 ピルグリムはフレイムワン爆縮炉が原動力だが、ギルバートに動かす事は出来ない。ゆえに新たな原動力を背面に設置。

「大丈夫だ、出来る、俺は天才だ。俺に出来ない事なんてない」

 極限の集中、加速の魔法で作業速度を押し上げ、全てをマルチタスクで処理していく。

 新たな原動力を各部に送るために外殻も増設し、ギルバートが思い付く最強の生物をモチーフに形作っていく。

 作業開始から数時間、ギルバートの目の前にはピルグリムの原型が欠片も無い、新たな機動兵器が仁王立ちしていた。

「でき……たぞ……魔装騎兵ドラグオーガ。借り物で作ってみたが、どうにかなるもんだな」

 荒い息を吐きながらギルバートは指をパチンと鳴らす。音に呼応するように胸部が開いてゆき、そこに入り込んだ。

「ドラグオーガ、起動……!」

 機体の隅々まで自分の魔力が伝播していくのを感じながら、ギルバートの胸は高鳴っていた。

 今からこの機体で空を飛び、宇宙へ飛び出すのだ、と、オウカが連れ去られ星の危機だというにも関わらず、不謹慎ながら興奮していた。

 ギルバートの興奮と共に原動力である変動重力動力源が熱を帯び、その熱を推進力に変換し、ドラグオーガは衝撃波を置き去りにして、一気に上空へ飛んでいった。



「艦長、準備が整いました」

「よろしい、では破壊しろ」

 オウカを回収してから数時間後、アマノが指示を出した。

 オルフェリウスの主砲が開いていき、続けて側部副砲と上部にあるミサイルハッチが開く。

 帝国技術の結晶たるオルフェリウスが一箇所に全火力を集中すれば、星一つ割る事は可能だ。

 破壊の光が主砲に蓄積されていく様を、オウカは艦橋で見せつけられていた。

 縛られ猿轡をかまされながらもオウカは声を上げ、とめどなく涙を流していた。

「あなたが関わったばかりにあの星の者は死ぬ。覚えておくがいい! 全砲門発射!」

 アマノの掛け声と共に主砲は放たれ、続けて副砲とミサイルが雨のように一点に集中する。

 一瞬遅れて主砲が着弾した光が迸る、しかしアマノは愉悦とは逆の唖然とした表情で固まっていた。

「全弾命中! ですが――」

「分かっている! あの機体は何だ! どこの所属だ!」

 迸る光の渦の中、異色の光の壁が燦然と輝きを放ち、それがオルフェリウスの全火力を防ぎきったのだった。


「凄い、力だな……さて、オウカは返してもらうぞ! 魔力フル充填。ドラゴニックブレイザー!」

 敵艦からの砲撃を防ぎ切ったギルバートは、魔力を圧縮した光の束をカウンターで撃ち返した。

 凝縮された濃密な光はオルフェリオスを貫通し、爆発四散した。

 捕えられていたオウカはというと――。

「むぐー! むぐうむむ!? んむぅー!」

 ちゃっかりギルバートの膝の上に乗せられており、自分の状況を飲み込めずにいた。。

 ギルバートはカウンターを放つ瞬間、魔法でオウカの居場所を特定、そのまま転移魔法を使い自分の元に移動させたのだ。

「ぷはっ! ありがとうギル」

「待たせたな」

「大丈夫よ。言ったでしょう? 私、待つのは得意なの」

「そうだったな」

 オウカは涙をこぼしながら笑顔を浮かべ、ギルバートも釣られて笑みを浮かべた。

「ギル、ここで言うのもなんだけど、あなたの力は凄いわ。この機体だってそう。中身を見た感じこれはピルグリムなのよね? 短時間でここまでの機体に仕上げる腕とオルフェリウスの全火力を受け止め、一撃で沈めるパワー。間違いなくあなたは天才よ、あの星だけじゃなく、私の知る中で最高の大天才」

「そうだろう? 俺でもこの機体は凄いと思うよ」

「提案なのだけど、私と一緒に来てくれない? 帝国を、私の家族を、私の故郷を、共に取り返してはくれないかしら」

 オウカは不安げだが強い意志を込めた視線をギルバートに送った。

 ギルバートの答えは決まっていた。空虚で満たされない人生を送って来た彼にとって、オウカは人生を変えてくれた希望の星。

 彼女に付いていけば、その道は未知と刺激と創造に満ち溢れており、彼なりのカタルシスを得られるに違いないのだ。

 ドラグオーガを組み上げた彼にとって、きっと新天地でも通用するという自負もあった。

「俺でよければ、君の力になろう。俺という大天才をどう使ってくれるのかな? 王女様よ」

「そうね。手始めに帝国へ送り返してはくれないかしら? 大天才様?」

「いいだろう。だがその前に、一度家に帰ろう」

「言い考えね。変な汗をかいて体中気持ち悪いもの」

 ギルバートとオウカは固く握手をし、ドラグオーガは地上へと戻って行った。

 家に戻ったオウカはシャワーを浴び、その間にギルバートは自分の研究成果や資料など一切合切を魔法で圧縮し、カバンへ詰め込んだ。

 家の中の整理を終え、二人で最後の食事を取るとギルバートはオウカの手を取った。

「オウカの行きたい場所を強くイメージするんだ。なるべく詳細にな」

「わ、わかったわ。イメージ、イメ―ジ……」

 ギルバートがオウカに魔力を流し込むと、オウカとギルバートの体が徐々に光を発していった。

 地面には複雑な模様が刻まれた魔法陣が浮き上がり、光は次第に大きくなりひと際激しく輝いた。

 光が収まった時、そこに二人の姿はなかった。

 名も無き惑星から稀代の大天才が忽然と消え、星々の彼方に流星の如く現れた大天才は、やがて星々を繋ぐ灯となり、命尽きるまで未知への探求を追い求めたという。


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