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或る御者の旅  作者: 駱駝視砂漠
第二章
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第三十一話 令嬢は神と踊る

 太陽の神は最後にフレッドに抱きつく。かなり可哀そうな表情をしていたので止めることは出来ない。彼女が満足するまで待った。


「ありがとう。じゃあ、また明日ね」

 明日は何かあったのかと思い出すがそういえば明日は祭りが行われるのだったか。手を振った太陽の神が霧散する。マルガリタも見つかったことだしフレッドはすっかり安堵する。


 そして彼女の方を見た。彼女とその商売道具を一緒に持って帰らないといけないのかと絶望する。何やら不気味な魔術書を何冊か持っていたので鞄にしまってとりあえず外に出ることにした。マルガリタを担いで一歩目。魔法陣が浮かぶ。彼女なりの配慮だろう。今はかなり疲れていたので嬉しい。


 閃光に包まれ、目を覚ますと心配そうにユーリとダリアが眺めている。マルガリタは今、絶賛説教中である。途中で合流したカサンドラが目を逆三角形にしてフレッドの横で顔を真っ赤にし、目をガン開きさせてグチグチと説教を行っている。


 神が憑いていないときはあり得ないほどに体調が悪そうで、そして死にそうだった。カサンドラのうっとうしい話も若干眠りながら聞いている。もう少し柔らかく怒ってもいいのではと思ったが神降霊の常習犯だったので見逃せないようだ。


 あんなにちょいちょい神が地上に降りていたらそりゃあ権威のけの字もないだろう。時刻は午後の四時。三人は地図で見た場所に歩いて行くことにした。


『祭りまで残り一日!!』とまだ始まっていないのにどこもかしこもお祭りムードだった。屋台も一日前から特別なものを置いていてしかも踊り子という大役を務めるダリアのお陰でほとんどの場所で美味しい食べ物を無料で食べることが出来た。


 信仰というのは人の心までも平穏にさせるようだ。縄張り争いかなんかで睨み合っていた極悪そうな兄ちゃん姉ちゃんも今となっては酒を飲み楽しんでいる。


「フレッドはお酒を飲むのかい?」

「二人が飲むのであれば明日は飲もうかな。一人だけ素面っていうのも嫌だし」


 ダリアは酔いやすく果実酒しか飲めないようだった。ユーリは聖職者だからここ五年くらいは酒を飲んでいない。一人だけ飲むというのも気まずいので三人で飲もうと思って買っていた度数が高めの酒をこっそりと鞄の中にしまい込んだ。


 これから一人で飲むこともないから住民の方々に分けよう。

「フレッドさん、何かあったんですか?」

「……何でもないです」


 お酒のことはバレていなかったのでそのまま最奥まで行こうとしたその時だった。ダリアの肩に重くずっしりとした手がのしかかる。心霊現象かと思ったダリアはビクッとして振り返る。だが『手』の正体では不気味な女でも幽霊でもなく普通にカサンドラだった。


「どうしたんでしょうか?」

「連れていけ」

 ダリアは突如女性の警備兵らしき人に手を掴まれた。本人である彼女は当たり前のことで、ユーリとフレッドも警備兵を凝視する。そんなに悪いことはしたのだろうかとカサンドラに尋ねる。


「何の脈絡もなく捕縛はおかしいですよ!!」

「捕縛ぅ? 普通に考えて太陽祭の前日で死ぬ可能性だってあるのにリハーサルしないのはそれこそおかしいだろう!!」

 そういうことだったか。確かにダリアの命にかかわることがあれば五賢人が黙っていないだろう。戦争で何回も勝利しているとはいえど総資産が桁違いな彼らを敵に回せば国の一つが亡びても何ら違和感はない。


「どこに行きたいとかある? フレッド」

「首都に戻った方がいいかな。それよりもさ」

 フレッドは楽しそうに肩を組む。まるで友人のように顔を近づけて問い詰める。


「ダリアさんに告白したのかな」

「なっ、ななななっ何を言っているの!?」

「その反応はまだしていないんだ」

「そりゃあそうでしょ! いくら好きな人とはいえ五賢人だよ。こんな囚人の告白なんか受け入れる訳……」


 言ってみないと分からないでしょ、とこぼしてフレッドがユーリを睨む。確かにそれで振られたら今後、プリヴェクト帝国までの旅路が地獄のような雰囲気になるだろう。ダリアも好意を持っていると知っているフレッドだからこうやって助言出来るのであってユーリ視点だと不安で不安で仕方ないのだろう。


 それはもう夜も眠れなくなるくらいに。

 ネガティブになった人を立て直す方法をフレッドは知らない。とりあえず激励することで何とかしようとしたが一向に良くなる気配はない。

「とりあえずそんなに落ち込んでいては駄目だよ。ほら元気出さないと!」


 ちょっとだけ表情が明るくなって首都まで一緒に歩き始めた。太陽の神が降臨する『太陽祭』。二人ともルミナリーが信仰している神話をあまり知らなかったので色々な人を伝って調べていく。神架教のユーリには抵抗感があったらしいがそれでも他の宗教を差別することなく真剣に話を聞いていた。


 過激派ではないことに安心した。まあ、魔女ルチアを見て殺そうとしないあたり、そこに関しては保証されると言えよう。

 ユーリの逮捕を容認した汚い聖職者よりはましと思ったのかまさに虚無という顔である。


 二人が聞いたところの神話の内容によると、原初に太陽を創った神が現われ、彼女を憎んだ月の女神が彼女を月に誘い、千年くらい幽閉した。それに怒った太陽神を信仰している人間とずっと太陽が嫌いだった人間が代理戦争を起こした。それが太陽と月の戦争らしい。


 結局太陽が勝ってその影響で月の満ち欠けが行ったようだ。太陽の神が月を信仰しないために全く見えない日を創ったりしているらしい。

 だが神話上の疑問があった。太陽の雰囲気が違うのだ。信仰している人はそこらへんを気にしていない。

 千年くらい幽閉されていたら精神の一つや二つは変わるだろう。そういう思考なようだ。


「多神教も興味深いねー……もう神架教信仰するのやめてもいいかな」

「そんなに簡単にやめれるものなの? あそこらへんの上層部は神官が抜けたら異端として処刑しそうだけど」

「人間はそうかもしれないけどね」


 * * * 


 ユーリ曰く以前神を召喚させたとき、できたはいいものの何をするのかを全く考えていなかった。魔力不足でしばらくは唯一神をこの地上に拘束しないといけないとなって彼はくすくすと笑っていたのだ。


 どうかしましたでしょうか? とユーリは恭しく頭を下げる。唯一神はもの悲しそうな表情を浮かべて彼を見る。

『君もまた僕を対等に見てくれないんだね』

「それは当然の事象ですよ。神に馴れ馴れしく接するなど言語道断」


 あっと思い出したような素振りをした唯一神が何かをぶつぶつといい始めた。ユーリが何を話しているのかを彼に尋ねる。どうやら神語なるもので会話をしていたらしい。あくまで三人での話し合い、あるいは談笑。だが一人には聞こえていないと言っていた。ずっと友人だったようだ。


 だが、一人の方は転生して記憶を失っている。片割れの宿命なのか神でも制御できない『運命』というものがあるらしい。一神教では考えられない、というか他の宗教でも考えられない。人間を神格化させるなんて。


『君は今後辛く悲しいことが待っているだろうね』

 突然、諭すような声が脳裏に響く。神だとしてもたかが一介の神官にこんなことは言わないだろう。これは人生でも珍しくそして絶対に経験することの出来ないものだ。絶対に忘れないように耳に収めておこう。

『ずっと頑張って来たんだよね。大丈夫、君のことを愛してくれる人はいるし守ってくれる人も……いる。そして僕も君が死んだときには天界に迎え入れる準備は出来ているよ』


 ユーリは驚く。そんなに信頼を置いてくれていたとは。しかも、神架教を信仰しなくても優遇をしてくれるようだ。


 彼の話によると人間を天界に迎え入れるのはユーリが三人目のようだ三人目……というか神が天界に入ることを許したのが計三人というだけで一人は自らその権利を放棄した。


 正直前に招待した二人が別格すぎて基準を厳格化しすぎてしまったと唯一神は嘆く。

 よほど極悪なことをしない限りは友人になりたいとまで。

「いや、いやいや!! 神と友達になるのは難しいですよ。というかその二人はなぜ仲良くできたんですか?」


『あの人たちは異常の二文字で済ませれるから。君みたいな割と普通の人も……まあ僕を短い詠唱で召喚できるのは普通のことじゃないよね。うん』

 神は苦笑いをする。魔法陣を使って詠唱を何人もの魔術師を使って長々と行わないといけないのだが、たった一人でしかも一瞬で成し遂げたのは天才の所業だろう。一回だけ魔女にならないかと神から囁かれたが断った。


 不老不死になんてなってたまるか。そう決めたのだ。


「誰だ!! そこで何をしている!」

 懐中電灯で彼が照らされる。地下で神と会話しているのがバレてしまっては困るし天界へ戻すための魔力も貯まった。神の背中を押して魔法陣に乗せると一瞬で消えてしまった。天啓か何かか『またねー』という声が響く。ユーリの上司がそこに立っていた。

 あはは、とから笑いをしてそのまま説教を受けたのだった。


 * * * 


「ユーリ君ぼーっとしているけど、どうしたの?」

「いや、神架教を脱退することにしたよ」


 ユーリはとても高価そうな十字架のペンダントを乱暴に外す。フレッドが見たところ、それは聖霊がとてもたくさんついていて神が彼のことを見守ってくれていた証だろう。さすがに捨てることは出来ないのでフレッドのカバンにこっそりと入れた。


「どーしましょーう!? あぁ怖い、恐ろしいですわ!!」

 ダリアが叫んだ。令嬢のようだった。五賢人だから令嬢であってはいるのだが。あまりの音圧に、フレッドは目を疑い、ユーリは紅茶を飲んでいたのでむせている。


「練習はどうだったの」

「えっと見せれる形にはなったけど不安でしかなくて……ユーラ、応援してくれない?」

 ユーリは彼女を応援した。


 舞の始まる二時間前までは自由に移動して良いようだ。ダリアは色っぽい服装でユーリと手を繋いで来ようとする。


「ダリア!!」

「何?」

「好きだ!!」

「はぁ……ってえぇ!?」


 一度は当然のことのようにスルーしようとしていたダリアだがユーリの真っ赤な顔とそれに対応していないしっかりとした目つきで彼女を見ていることに気が付くと急に恥ずかしくなったようだ。


 ダリアも自覚はしていた。ユーリのことが好きだと。だがあまりにも突発的すぎるし何よりもほとんど一目惚れに近い気がして告白をしたら彼から失望される気がしたのだ。


 突如とした放たれたユーリの告白にあれだけ望んでいたフレッドも仰天する。まさかこんなタイミングで行うとは思っていなかったのである。はぁ、と間の抜けた声を出す。ユーリが俯いているダリアの顔を覗いた。


 震えていた。とても照れていた。


 少し考えさせてくれと彼女が言うので頷き夏の空の下を三人で歩いた。気まずい雰囲気だったのはもちろん言うまでもないだろう。



 夜になり、妖精も新たな神殿に集まってきた。この日は人とそれ以外の上位生命体が会話できる唯一の日のようだ。人間と同じくらいの大きさになった妖精が酒やら美味しいモノやらを貰ってはしゃいでいる。


「なぁなぁ聞いたかー? 今年は肌の白い美少女が踊るらしいぞー」

「楽しみだよなー。神様と同じくらい神秘的だとか」


 月の光が突如なくなる。


 太陽の神をあがめる祭りに月は要らない。


 月の神に、抵抗できるようなものは持ち合わせていない。何しろ、太陽は希望そのものであり信仰の対象なのだから。


 月がないと暗いのではないかと安堵していたフレッドだったが人の体を持てない精霊達が光って彼女の周りを囲っていたので映えている。


 夜なので太陽の支配をしていないからか暇だった太陽の神は一日ぶりに地上へ降りてきた。踊っている最中に出てきたものだから誰も気がついていない。


 彼女の存在は太陽なんかよりもずっと眩しい。だから地上に降りてきた時にその眩しさに人々は驚いたのだ。


 ダリアの衣装はフレッド達が見た時よりもレースが増えていた。


 手始めに、まずは優雅に一回転。そして精霊たちそれぞれに触れるように空へ手を伸ばす。彼女の表情は恍惚としている。太陽の神に踊らされているような素振りもなく大胆なステップを踏みながらも手の長さが重なって残像が現われる。


 ――跳躍。見えない何かの力が彼女を優しく、そして怪我をしないように丁寧に支えている。彼女は手から炎の魔術を展開させる。左手からは氷を。凍った物質を炎が暖かみを持って包む。まるで二柱の神々の戦争のように。


 残った氷が美しく散り散りになる。ダリアの横顔が見えたかと思うと誰かと踊りを踊っているようだった。

 まさに圧巻の演舞。これを二日で仕上げたとは。人間だけではなく、普段は真面目でない妖精達まで魅了されていたのである。

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