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或る御者の旅  作者: 駱駝視砂漠
第一章
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第十五話 再び冒険者たちと

 しばらく特訓場の敷地外で読書をしながらセレンが出てくるのを待っていると、わーきゃー言いながら特訓場を後にする人たちが現れた。恐らくは特訓をし終わった人たちだろう。それならばセレンがそろそろ出てくる頃だが。

「フレッドさん! 見て下さいこれ」

 セレンは門を潜って早々、嬉々とした表情で耳の部分をフレッドに見せる。そこには真っ赤な宝石をつけたイヤリングがあり、よく見てみるとびっしり魔術式が刻み込まれていた。宝石と言っても主張の激しいものではなくあくまで使い魔を従えるだけの道具のようだ。

「訓練は上手くいきましたか? って凄く懐いてますね」

 フレッドの肩に乗ってきた普通の鳥くらいの大きさになっているシトリーことグリフォンはセレンに対しては当然だがフレッドにも攻撃する様子を見せず優しく身を寄せていた。

「シトリーは意外と人懐っこいんでしょうかねー?」

「どうでしょうか。けど今の状態なら人間を攻撃することはないでしょうね」

 フレッドが頭を撫でるととても気持ちよさそうだった。瞳の色を見てみると赤と青のオッドアイだった。

 そういえば魔物博物館で見た何千年か前に襲撃していたグリフォンも同じ色でのオッドアイだったか。基本的にどの生物もオッドアイというのは珍しいので一個体しかいないと考えてよさそうだ。

 つまりはシトリー=教会や聖堂を破壊し尽くした数千年前の幻獣ということになる。ならば人懐っこいという訳ではなくなりそうだが。

(セレンさんには伝えない方がいいよね……)

 もし伝えてしまえば使い魔との信頼関係を結べなくなるしそれで不信感を抱いて死のうものなら目も当てられない。よってここでは何も言わないのが最善策なのだ。シトリーがセレンの肩に戻ると彼女は尋ね始めた。

「フレッドさんはどこに行っていたんですか?」

「僕はヴェスティア神殿というところに赴いていました。建物が壊れかけている姿は壮観でしたよ」

 歴史を知るにはとても向いている場所だったと伝えると目をキラキラと輝かせてそこへ行きたいとフレッドに言う。

「五千年間の神殿の様子を見てみると面白いですからお勧めですよ」

「へぇー……あっけど私そういう媒体には拒絶されやすいんですよ」

 歴史を振り返るには読み取りの対象というものが必要で古い年代になっていくほどに対象の媒体から拒絶される確率が高くなっていくことが多いらしい。拒絶具合というのは先天的なものでどうしようもない。

 聖霊だったら確実に数年前の時点で拒否されるだろうと考え二人は行かないことにした。


「あーっ!! グリフォンを単独で使い魔にするってやっぱりお前らだったのか!!」

「えーっと何某さんですよね!! 冒険者の!!」

「ファウストだ!!」

 ツッコミを入れるのがとても早かった。セレンもセレンで興味のない人の名前を覚えることが苦手らしく十秒に一回ファウストと三分の間言って、やっと覚えたという。フレッドとファウスト除く冒険者グループの人達は呆れながらも楽しく二人の光景を見ていた。当人であるファウストも最早笑いをこらえながら会話をしている。

「で、何の用ですか?」

「えっとだな……そっちの男の方に用があるんだがお前は御者組合に入っているのか?」

「ええ、依頼なども持って下さりますし便利だと思って加入しましたが」

「どこか良い冒険者組合ギルドはないだろうか……」

 フレッドは悩む。フレッドの所の組合は労働環境が割といいほう――その代わりに報告書の作成が沢山ある――だが、あそこは冒険者組合まで管理している訳ではない。組合の中でも御者組合、冒険者組合などなど沢山の種類がある。普通はそれらすべてを管轄している中枢の場所があるのだがフレッドたちの組合は御者組合に特化している組織だった。故に、他の組合より人の量も多いし質も高いのである。

「そうですね……有名なところだとエティマ公国が本部の総組合が有名ですが知り合いに話を聞くと全員が敵みたいな状況になっているらしいのでいつ組合を退会させられるか分かりませんね。権力者の地位が危うくなったらすぐに追放されてしまうようなので沢山成果を挙げたいというのであれば不向きでしょう。というかなぜそれを?」

 ファウスト曰く、情報交換などをしたいが他の冒険者は口が堅く全くそういったことが出来ないらしい。だからそういう場の多い組合に参入しようかと思っているようだった。

 フレッドはさらに考え込む。組合とひとまとめにしてしまうのが難しいほど、それぞれの組合の特色は違う。エティマが本部の組合だと妬み恨みで冤罪を擦り付けられたり一回失敗するだけでも地位があり得ないほどに下がるなどということが多々あるのだ。フレッドの知人もまた、ダンジョンの中で殺人を行ったという冤罪を吹っ掛けられ、二年ほど前まで牢獄で生活をしていた。

 旅人や御者を移動目的で使用している冒険者たちから聞いた中でお勧めできるのはヒューリエ地方のどこかにあると言われている『ヒューリエ冒険組合』というところだけか。話を聞いていると概ね評価は良好。深夜まで報告書を書いたりいがみ合いなどが起きているという話も過去十年間で一度も聞いたことがない。

「ヒューリエ地方か……なかなか遠いな」

「ですが行ってみる価値はあると思います。あそこに所属している人たちは全員実力者らしいですし温厚な性格の方がほとんどのようなので探してみるのはどうでしょうか」

「フレッドさん、探してみるってことは公になっていないってことですか? ならば何故そんなところに加入できるんでしょうか」

 あそこの冒険組合は参入の試練というものがある。それが本部を探し当てるということだ。冒険者としての実力はもちろん、人脈やしらみつぶしにずっと探せるような精神力を兼ね備えている者が参加するに相応しいといるようだ。

「ありがとう。あと、二人とも一緒にこの国を回ってくれないだろうか」

 曰く、ただの使い魔捕縛の場所としか考えていなかったようでホテルを除き、何一つとして見ていなかったらしい。だが時間に余裕が生まれたことによって観光をしたいようだった。セレンがグリフォンを使い魔にしたと聞いて二人も一緒に観光してほしかったようだ。

「いいんですか!? フレッドさんも嫌でなければ一緒に行きませんか?」

「いいですね。僕も興味がありますし同行させていただきます」

 セレンは歴史と文化を学ぶため、ファウスト達冒険者グループは単純に楽しむため。

 五人は南北に長い国、エルメイア共和国を三日にかけてわたることにした。


 * * * 


「ここって本当に魔物信仰……っていうか幻獣信仰が主なんですね。すごく珍しい」

「私もほとんど外の国に言ったことはないですがそれは同感できるかもしれません」

 そこには沢山の幻獣の像が飾られてあった。幻獣神殿だ。フレッドが訪れた神殿も幻獣の神殿とは言われているが負の遺産という訳ではなく単純に幻獣を侵攻した結果として作り上げられた神殿というものだった。圧倒的なほどの精巧さに感動する。そういえばフレッドが訪れた魔物博物館の魔物像もこれらと同じくらいの繊細さだったか。

 とにかく綺麗ですぐに動き出しそうなほど緻密に作り上げられている。まさに天才の所業だった。

「これ造った人、どうやってこんなに観察しているんでしょうねー」

「幻獣をスケッチしているとか……? 僕みたいな凡人には分かりませんね」

「ほぉ石膏とはこんなにリアルなのか。初めて見たがもう少し早くに見ておけば良かった」

「ファウスト、それが異常なほどに綺麗なだけだよ。あと一回も見たことないは異常じゃない?」と魔術師が呆れながらいう。

「そうか? 僕のところは戦闘民族みたいな人しかいなかったから家に飾ってあるのも加工した生首と武器くらいだが」

「なんてものを置いているんだい!! 武器は良いとして生首は倫理的にまずいだろ!!」

 銃撃師(スナイパー)だけが声に出しておかしいと言ったが、この場にいるファウスト以外は正気の沙汰ではないと思ったことだろう。

「伝説のように強さを求めて悪魔と契約してそうですよね……」

「そんなこと、するはずがない!! 悪魔だろうが何だろうが戦闘するのみだ!!」

「すみません。もしかしてファウストさんが情報交換を行いたい理由って……」

「そうだよセレンさん。あの人強いのと戦いたいんだよ。使い魔を従えるのも攻撃のバリエーションを増やしたいから」

 あったのは空笑いだけだった。思考のたどり着く先がまさに蛮族。皆どう扱えば良いのかが分からず地獄のチキンレースがただいまをもって開催された。フレッドが魔術師・ベアトリーチェに話を聞いたところ、彼が怒ればセレンでもフレッドでも対処しきれないという。負けることはないらしいが町の一つや二つは壊れるそうな。しかも家系は戦闘集団でファウストの前職は処刑人だったようで人を殺す罪悪感に苛まれなくなっていったようだ。

 フレッドはオーガストなど含め十年間で数多くの狂人を見ていた。

 遥か辺境の牢獄に囚人を連れていくこともあったし案内した結果死に場所を見つけて死んでゆく人だって見たし業務終了後に追いかけ回されたこともあったがそれほどの異常さでもなかった。

 だが今は違う。肌で感じ取れてしまうほどの狂気。本人は気がついていないようだが明らかにそれがあった。

「というか何故皆はそんなに暗いんだ? 人間はいつか死ぬものだから処刑も変わりないと思うが」

 これ以上悩み続けても不信感を与えるだけになるので考えるのを止めた。というか、処刑人は一切悪いことをしていないのだから別に警戒する必要もなかろうという考えに至ったのである。まあ、唯一心配なのは先祖が戦闘民族という点だが、以前使い魔候補の魔物をフレッドが倒した時に感情に身を任せて攻撃してこなかったのである程度の倫理観はあるとみていいだろう。ならば何も心配する必要はない。殺人を快楽としているようではないみたいだし。

 跋扈ばっこする魑魅魍魎ちみもうりょうを次々に倒しているその光景を見てフレッドは思った。以前は忙しかったりウロボロスの退治で見ていなかったが今は分かる。

 大魔術を軽々と撃てる魔術師に近接戦でも遠距離からの攻撃でも対応できる銃撃師、そして圧倒的な実力とカリスマ(?)を兼ね備えたリーダーという素晴らしい構成でこそ成り立つような冒険者グループなのだと理解した。セレンも足手まといになるまいと大地を駆け巡り先に攻撃してあらかたの魔物を薙ぎ倒していく。


 ただただ歩いているフレッドが唯一お荷物となっていた。流石にまずいかと思いはしたが全員攻撃を止めないので更に罪悪感で覆われてしまった。

「ごめんなさい……何も出来なくて」

「別にいい。というか使い魔を捕まえるために周囲の魔物を仕留めてくれたからここは僕達がやる」

 そう言いながらフレッド除いた全員一斉に攻撃を続ける。最早魔物に対して憐憫の感情を抱いてしまうほどに。死体蹴りに近いそれを見てしまった他の旅人や冒険者たちは顔を真っ青にして結界を張るかすべて避けきるか、範囲外まで逃げまくっている。

 エルメイア大結界を貫通していっている魔物も最近は増えているので安全を確保しながら行動するというのは大事なことであった。


「ここは何と言うんだ? 一見普通の塔に見えるが」

「そうですね。この大きい塔は聖なる力が秘められているようで一時間入っているだけでも一年ほどは幸福なまま過ごせるようですよ」

 聖なる力とは即ち人間が幸福になった分だけ高い塔に貯蓄される。それが長い時を経て神も認めるような美しい力へと変貌する。たまに聖なる力を起点として魔術式を作る人たちもいるようだが対人では圧倒的に弱く逆に邪悪そのものと言える魔物には弱い魔術式を作ったとしても一撃で灰に帰ることの出来るほど高い効力を持っていた。

 入る前に祈りを捧げてから五人は重い門を開けた。

 次々と列になって入っていく。フレッドが最後に入ろうとしたとき手が吹っ飛びそうなほど塔に拒絶されてしまった。何回も試してみるが、絶対に通してくれない。

「それじゃあ、フレッドさんはここで待機ということになりますね」

「……はい」

 フレッドは誰もが見てわかるほどに落ち込んでいた。この塔も人生で一回は訪れるべき名所のひとつなのだ。口には出さなかったもののなんでだよ、と心の中で呟いたフレッドは暗い目をしながら塔の下に座り込んだ。

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