第九十九話「言い方悪いけどこんな奴に時間かけるわけにもいかないからね、しょうがないね」
女子大生が化け物に! 果たしてどうなる!?
読者のみんな、御機嫌よう。
いつも本作『つい☆ブイ!』に寄り添ってくれてありがとね~。
さて、前回に引き続き今回もこのあたし、便利屋魔女のパルティータ・ピローペインが東方の大国"陽元"西部の大都市"螢都"からお送りしちゃうよ~。
「グオガアアアアアア! ウチコソガセイギヤ! コノヨヲタダスンヤ! ウチコソガヨノナカヲスクウンヤアアアアアア!」
「さて、とりあえず速攻でカタをつけようか……」
「ええ。どうにも長々放置すべき相手ではなさそうですからなァ」
場面は螢都の名門私大"螢都総合科学大学"の敷地内。
表舞台から姿を消してしまった第八天瑞獣に会う為の手がかりを求め、大学が誇る人類考古学のスペシャリストこと大神正臣先生に会いに来ていたあたし達は、
ひょんなことから先生を蛇蝎の如く忌み嫌ってるアホな女子大生に絡まれた挙句、そいつが変異した大鬼風の化け物と対峙させられてしまっていた。
「クソガアアアアアアアアアアアア! ゥザケンナァァァァァァァッ!」
ヒスって狂ったアホ女子大生の変貌した大鬼風の化け物……その図体はあたしどころかダイちゃんよりも大柄で、身長は大体二メートル半か、下手したら三メートルくらいあるかもしれない。
体重は……筋肉だらけの見た目からして軽く見積もっても三、四百キロ……下手したら一トン超えなんて可能性さえありそうな気がする。
加えて全身の皮膚はヘドロみたいに黒く濁ってるもんだから、総じて元のアホ女子大生としての面影なんて残ってるハズもない。
「セイギノタメヤアアアアア! ブッコワシタラアアアアアアア!」
その姿と挙動ときたら、まさしくシンプルな"力強さ"とか"暴力性"を安直に出力したかのよう。
並みのヤツなら対面しただけで気圧されるんだろうけど……諸事情で実質常人やめてるあたし達にしてみれば怯む価値もありゃしない。
「ヅェェエアラアアアアアアアッ! ユルサヘンゾォ! ユルサヘンゾオドレラァァァァッ!」
「……こっちも急いでるんでね、巻きで行かせて貰うよ」
喚き散らすアホ女子大生に向けてけて手を翳し、呪文を唱える。
「"詠唱短縮"
"見よ、凄絶な日々を生き抜いた天才は狂気を持て余し"
"やがて彼は世に名を轟かす煌びやかな世界の華形と成りけり"」
「サァァァセルカァァァァアアア!」
「――――おっと」
力任せに振り下ろされる拳。まともに喰らえば即死確定のそれを、あたしはさらりと躱して詠唱を続ける。
「――"なれど持て余されし狂気は地位と権威を得て暴走し、彼を悪逆非道の独裁者に変えた"
"聳える城塞こそは彼の悪性が象徴"
"衆愚の称賛は彼の叡智を曇らせ、遂に惨劇を引き起こさん"
大妖術行使
――"暴君に墜ちた天才の城塞"!」
「グウウウワアアアアアア!?」
詠唱が終わると同時、あたしの掌から発せられた衝撃波が大鬼を吹き飛ばす。一見目立った外傷はなく、すぐにでも起き上がって向かって来そうなものだけど……
「――……ゥ……ァァッ……ヅゥアァァアアッ!?
ヒギャアアアアアッ!? ナンヤッ!? ナンヤコレェ!?
オイ、ヤメンサイヨォッ! アタシハソンナンゼッタイイヤヤッ!
ヤメェ! ヤメェッチュートルヤロォ!?
オドレラ、ジンケンシンガイデウッタエタンデェ!?
ヤメロ! ヤメロオオオオオオオオ!」
奴は起き上がりこそすれ、意味不明な文言を喚き散らしながらその場で狂い悶えるばかり。
さてその真相はというと……
「パル殿、あの魔術は一体……? 奴めに何が起こったのですか?」
「あぁ、あれね。幻術の一種だよ。その名も"暴君に墜ちた天才の城塞"。特殊な波動でもって標的の脳をバグらせて、危険極まりない"死のアスレチック"に延々無理矢理挑まされる悪夢を見せ続ける……
長ったらしい詠唱か洒落にならない魔力消費かっていう究極の二択を迫られる上、射程もそこまで長くない代わりに、殆ど相手を選ばない汎用性の高さと持続時間の長さ、あと相手に応じて悪夢の内容を柔軟に変更できるってトコがウリでね。
効果の持続時間は相手にも拠るけど、あのアホ女子大生なら意識を失うかさもなきゃ死ぬまであのままだろうね」
「成る程、それはいい。……このまま警察か何かに引き渡しますか?」
「うーん、それはあんまお勧めできないかな〜。公務員って大体、自分の理解の及ばない存在や案件は『管轄外だから』の一点張りで他所に押し付けたり放置するからね。
かと言って、こいつをこのままここに放ったらかしにするのも当然良かないんだけど……」
はてさてどうしたものかなと軽く頭を抱えていると、徐ろにダイちゃんが『それでしたら……』と切り出してきた。
「自分めにお任せ下さい」
「え? いいけど、何するつもり?」
「この親不孝者を殺します」
ダイちゃんの口から出たのは、常人なら白昼堂々口にするのを躊躇いそうな、過激な一言。けどそれを聞いてもあたしは特に驚かなかったし、彼を止めようとも思わなかった。
何せ冒険者なんてのは所詮汚れ仕事担当の業種……盗賊やカルト教団、テロ組織なんかの"討伐"って名目の、実質的な暗殺しの案件だって普通にあるからね。
ましてダイちゃんが嘗て在籍してた勇者パーティなんてそれがデフォルトみたいな所もあるし、そもそもあの時大聖麗天女宮で新新玉の奴らを殺してるこの子が今更殺人を躊躇うとは思えないワケで。
……あのスバルちゃんって女の子には申し訳ないけど、見るからに色々と"後戻り"できなさそうなあいつを無理に生かしておいた所で誰にとってもロクな結果にならないのは火を見るよりも明らかだ。
なら忍びないけど、あのアホ女子大生には運が悪かったってコトで死んで貰うしかない、っていうのがあたしの見解だった。
そしてどうやら、ダイちゃんの意見もあたしと似たようなもんだったようで……
「……身の程を弁えぬが如き傲慢なる発言やも知れませぬが、この親不孝者自身、或いはその"よくできた妹君"の発言内容から察するに、此奴は親族の善意に付け込み実質的な詐欺行為を働いていた悪党……
無論、それだけならば……此奴めが単に、働きもせず、講義を受けもせず、ただ遊び惚けるだけの小物であったならば、或いは此奴めにも厚生の余地もあったのでしょう……
然しこの親不孝者の愚行は最早その域に留まっておりませぬ」
「ホホゥ……具体的には?」
「妹君と奴自身の発言からして、恐らく奴めはカルト教団か愚連隊が如き連中の手先となり、悪事に手を染めていたのでしょう。
察するに政治的公平性や倫理的観点等を口実に暴れ回るタイプの……」
「なるほど、所謂政治的妥当性系列の過激派ってコトね。そりゃ歴史学の先生を悪党呼ばわりするワケだわ……」
粗方、歴史考古系の講義で過去に起こった痛ましい事件について取り扱ったのを『殺人の歴史を教える授業は苦手な者への配慮がなく不適切』とかアホなキレ方したとかそんな感じかな。
あたしの学生時代にも倫理で他人を殴る連中は居たけど、どうやらその手の奴らは絶滅していなかったらしい。
「ともすれば此奴めは既に前科者……加えてヒトならざる化け物に変異してしまったとあっては、下手に生かしておいても周囲を含め誰をも不幸にするばかりに御座いましょう」
「まあそうだよねぇ」
「より端的に言ってしまえば、変異した此奴の法的な扱いは最早ヒトならざる悪しき怪物……過去の判例を考慮するに、今ここで殺したとて正当防衛が認められましょう」
「なるほどそりゃそうだ。ま、仮に罪に問われたらあたしがいい弁護士雇ったげるよ」
「お心遣い痛み入ります……。では、参ります」
そう言ってダイちゃんはシンズドライバーを起動、ドラゴン……とは名ばかりのクリーチャーに変身するんだ。
次回、ヒステリーアホ女子大生の末路とは……